第3話 組み合わせ

 1人目は先程の質問遊戯で回答していた紫の髪の女性、改めてみると筋肉質な体形をしている。リストバンドは白。2人目は背の小さな眼鏡をしたぽっちゃり体系のショートカットの女性、リストバンドは白。そして最後に坊主にちょび髭の男、リストバンドは赤がいた。

 壁にモニターがあり、映し出されると先程同様、初老の男性が映し出された。


「初回なので心ばかりの配慮で全組5人対5人の『集団戦』で競ってもらう。1対1(シングル)を3回、2対2(ダブルス)を1回の計4回で勝敗を競いたまえ、引き分けの場合はダブルスで勝ったチームの勝利だ。ベットは700万で勝利チームの総取りとする。

相談の時間を30分あげよう。条件は1つだけだ。頭脳戦、格闘戦両方を行う事。諸君でよく相談して選ぶと言い。マッチングはこちらで行う。決まったらモニターを操作して決定したまえ」


 俺と大男は仲間で集団戦ってことか。完全に嵌められたとも思ったが、初日は『集団戦』と決まっていたようなので違うらしい。部屋を見回すと1~4番までが記載された扉が4つある。パンっと両手を叩く音でそちらに目をやる。


 坊主にちょび髭の男が両手を叩いて皆の注目を集めたようだ。


「さて、まずは自己紹介をしようぜ。ワシは荒木(あらき)ハワード雄一(ゆういち)じゃ。どうしてもニート執行法に参加したくて昨年無職になった。前職は大手でシステムエンジニアをしてた。頭脳戦のシングルかダブルスを希望じゃ。時計回りで紹介といこうや」


 坊主のちょび髭改め、荒木が音頭を取り、童顔巨乳のぽっちゃり眼鏡、スラっとした体型のモデル女、大男、俺の順番で紹介を始める様に促す。


「私は岸桃香(きしももか)って言います。正直、頭脳戦で勝てる自信はありませんが、格闘戦は無理です。よ、よければ『もも』って呼んでください!!」


 荒木がなんか1敗は決まったな。っていう顔で次を促す。


「寺島(てらしま)クレアだ。格闘希望。以上」


 必要な事しか話さない。そんな雰囲気の隠そうともしないある寺島はほっそりとしているが筋肉質で紫の髪をポニーテールの様に後ろに束ねている。


 荒木が次を促すと大男の番だ。そういえば名前聞いてなかったな。


「俺は東郷(とうごう)アレックスだ。見ての通り格闘戦を希望だ。格闘技全般やってたから負けるつもりはない。ここに2年以上いる。飲食街でBarやってるから、何か教えて欲しい事があったら聞きにきてくれ。有料だけどな」


大男改め東郷がにかっと笑う。最後は莞爾の番だ。


「最後は俺だね。飯田莞爾(いいだかんじ)だ。頭脳戦希望。以上」


 頭脳戦を希望という最低限の情報と名前だけ告げると荒木が不満そうに頷く

「おいおい、みんな自己紹介が適当すぎじゃ。これから命を預ける間柄なんだからもっとお互いの事をよく知ろうぜ~。700万は大金じゃ。言い換えればわしらは運命共同体なんじゃからファーストネームで呼び合おうや」

 荒木がにこやかに促すが、莞爾は無視して勝負方法を考える。


 まず、頭脳が3人と格闘2人、シングルとダブルスの内訳だ。選択肢は6つか。


 勝算だけを考えればシングル格闘2回で残りのシングル・ダブルスを頭脳。これが必勝パターンだろう。30歳を超えて無職なのに体を鍛えてる奴は人工的にそれほど多くないはずだ。むしろ引きこもり体質の方が多い。これだけ体が引き締まっている2人がいる幸運を考えれば、残りの頭脳戦2回で1勝できれば勝利が決まる。普通に考えればこのパターンで負けることはないだろう。(A案)


 次に格闘組をダブルス1回、シングル頭脳を3回だ。2対2の連携を考えると、どこまでやれるかはわからないが、引き分け=ダブルスの勝敗で決まるというのを考えれば悪くない。頭脳戦で1回勝つだけなら自分か荒木が勝てば後は格闘組にお任せだ。(B案)


 格闘戦を3人以上する組み合わせ3つ(C案)は論外だろう。


 東郷は筋肉自慢らしいが、2年も生き残っている以上頭脳戦でも問題ないはずだ。一方で『質問遊戯』の回答から寺島は頭脳戦に向いてない。そう考えると東郷の希望を無視して格闘シングル1回で残りは頭脳戦。引きこもりが多いと仮定すると格闘戦は捨てる人たちが多いだろう。そう考えるとこれが一番人気の組み合わせだと思う。格闘は論外で一か八かの頭脳戦。そう仮定するとマッチングで弱い相手とあたる可能性が一番高い。(D案)っていうか、「集団戦」とかいいながらも、チーム戦と見せかけた個人戦の連続じゃないか。しかも初日なのにベットが700万……。ベテランはともかく、初心者にほぼ全財産をかけさせるとは……。

 初老の男性が『命を懸ける』と言っていた。所持金が無くなった時の事は考えたくもない。


 選択肢は3つか。Cは論外だから事実上はA、B、Dか。マッチング上Dを選びたい所だが東郷のようなベテランが混じっているのを考えると選びやすいはずのDが、一番マッチング事故の可能性が高い気がする。運の要素がモノをいうが、それを言ったら始まらないだろう。Dがベストかもしれない。


 此方のチームは格闘希望が2人だから色々考えられるが、もしも一人しか格闘希望がいなかったらどう考える。1人ならDを選ぶな。0人でもDだ。間違っても格闘シングル2戦、残り頭脳戦のAは選ばない。となるとAは余程格闘に自信がないと選べない選択肢なのか。ではB案は……。


「おい、聞いてんのか莞爾!」

 荒木の大声で周りの意見を聞いていない事に気が付いた。


「あ、ああ。すまん。組み合わせについて考えていた」

 とりあえず謝っておくと、いつの間にか荒木が意見をまとめようとしていた。


「ったく、寺島と東郷が頭脳戦は嫌だって聞かないんじゃ。ワシとしてはどちらかに頭脳戦にしてもらってシングル格闘1回で残り頭脳戦で行きたいんじゃ。それが弱いやつとマッチングできる確率が一番高いからの」


 寺島があきれたような顔で荒木に反論する。


「馬鹿か貴様は、ここで弱者とマッチングしたとして、その後はどうなる。永遠に弱者と戦えるとでも思っているのか? そんな負け犬根性丸出しで戦いたいなら1人でやってろ。私はどんな相手でも勝つ。勝ち残る為にここに来たんだ!!」


 寺島が熱いセリフを言っている。莞爾は寺島が感情的になりすぎて論点が変わってるとも思った。落ちてる勝利を拾うのは当然だ。仮にマッチング相手を選べるなら絶対に弱い相手を選ぶ。それが生き残るって事だろう。大丈夫なのかこの女は。


「東郷はどう考えてんの?」ヒートアップしてるので隣の東郷に小声で聞く

「俺はここまで燃えてる彼女の意見に賛成だね」

 訳の分からない事を言い始めた。こいつはこの状況を楽しんでるだけだな。


 強者と戦いたいならAのシングル格闘2回で残りは 頭脳戦か。此処までリーダー面してる荒木はシングル頭脳を希望してくる気がするな。プライド高そうだし、自分の手で勝ちを確定させたいと思っていそうだ。となると、岸さんと俺のダブルスか。勝負の内容によるけど不安が残るな。逆にBの頭脳シングル3回の格闘ダブルス1回なら自分が勝てば終わりか。東郷と寺島とかいう女性の組み合わせで負けることはおそらくない。


 ……これがベストだな。面倒な事になる前に勝手に決めてしまうか。


 言い争っている荒木と寺島を無視し、勝手にモニター操作し始める。

荒木ハワード雄一「頭脳戦」 岸桃香「頭脳戦」 飯田莞爾「頭脳戦」 寺島クレア「格闘戦」 東郷アレックス「格闘戦」 と操作する。


 画面が切り替わる。ダブルスの二人をタッチしてください。と表示された。


「おい!おまえ何を勝手に操作しとんじゃ!」

 荒木が横から莞爾に蹴りを入れどかし、代わりにモニターの前に来る。蹴られた反動で莞爾は東郷の所を軽くタッチしただけで寺島の名前までタッチできなかった。蹴られた事は頭にきたが、小声で荒木の説得を試みる。


「チッ……大丈夫だ。頭脳戦シングルのみ。格闘戦はダブルス。これがベストだろ。格闘戦希望の2人がシングルじゃないと出たくないって言い始めると面倒だろ」

 「なんや、そうならそうと先に言ってくれや~」


 蹴った事を全く反省してないな。荒木とは仲良くなれそうもない。


 荒木と話している隙にモニターを覗いた東郷はにやりと笑うと、そのままモニターの『飯田莞爾』をタッチした。

 『マッチングします』という機械音が流れる。


 「こら! 何を勝手に操作しとんじゃおっさん!!」

 荒木が東郷に抗議するが、ガタイの良い人間に蹴りはいれないらしい。

 予想外の組み合わせに決まってしまった。

 リーダー面をしていた荒木が尚も東郷に食ってかかる。


 「おい! この組み合わせはあかんぞ! 格闘シングルとダブルスを頭脳格闘にする組み合わせはマッチングが最悪じゃ。こんなん選ぶのはベテランぐらいじゃ」


 怒鳴る荒木に東郷は爽やかに笑顔で返した。

「すまんすまん。でも決定したら変更できないみたいだから、終わった事を言ってもしょうがないだろ」

 してやったりの笑顔である。


 最悪だ。この組み合わせはマズイ。格闘が2つ選択されている時点で相手は余程自信があるだろう。そして頭脳・格闘のダブルスは互いに信頼をおけるベテランじゃないとあり得ない組み合わせだろう。なぜこの選択を選んだんだ? 東郷は何がしたいんだ??


 「対戦相手が決定しました。これより会場へと移動します。」

 床が動き始め、部屋ごと何処かに移動しているのがわかる。

 モニターの表示を見る。


 第一試合シングル 寺島クレア  格闘戦

 第二試合シングル 荒木ハワード雄一 頭脳戦

 第三試合シングル 岸桃香  頭脳戦

 第四試合ダブルス 飯田莞爾・東郷アレックス 頭脳・格闘戦

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