第2話 強制招集
歓楽街を一回りするとポットへ戻り、「飲食街」へと告げた。飲食街の入口へと到着市ポットから降りると、そこは目を見張る景色だった。木造の簡単な建物や長屋ばかりで2階建ての建物は殆どない。まるで写真で見た昭和時代にタイムスリップしたようだった。多くの店と屋台があり、人が溢れ賑わっていた。中には昼間から酒を飲んでいる者もいる。アルコールや煙草等の嗜好品は此処で購入できるようだ。周囲の男女比率は9:1といった所か。ニート執行法の対象は圧倒的に男が多い。今から十数年前に子育てベーシックインカムが導入されているからだ。
子育てベーシックインカム。現在では子供1人につき13万、3人いれば月に39万支給される。これには指定都市以外での生活を条件とされており、その成果として地方活性化が進んでいる。財源は勿論ニート執行法から生み出される謎の利益から出されている。
案内図によると今は飲食街の南西方面にいるようだ。とりあえず中央へ向かって歩を進める。『お好み焼き』『タイ焼き』『立ち飲み屋』『雑貨屋』『洋服店』『飲食店』等、様々な看板がある。10分程飲食街を中心へと歩くと『Barアレックス』とかかれた店があった。表の建看板で値段を確認すると缶ビール1本3000円・ハイボール1杯2000円と書いてある。Barと書いてあるからには情報も取り扱っているかもしれない。そっと木製の扉を開けて中に入る。
「いらっしゃい。おや、初めて見る顔だね。今日は4月1日だから新規の人だね。新規の人は最初の1週間は半額にサービスするよ。ぜひ飲んでいってくれよな」
小麦色の筋肉質な2m程の大男(おおおとこ)が気さくに声をかけてくる。一部の髪をそっているのかモヒカンだ。この大男も左腕にリストバンドをしている。不思議に思った莞爾は丁寧な態度で男に質問してみる。
「あの、なんで店員なのにリストバンドをされているんですか?」
筋肉質の大男が笑顔で答える。
「俺も一緒だからだよ。部屋のタブレットに出店ってあっただろ、あれで店が出せるんだよ」
此処にある店は全員が1年以上生き残った人間の要だ。少し考えて続ける。
「ここでは情報も売っているんですか?」
「良い質問だ。10万円で新規が知っておきたいここでの情報をパッケージで売ってやるよ。どうだい?」
「高いですね5万じゃだめですか?」
「別に構わないが、値切ると嘘の情報になるかもしれないぜ。」
|言い値(10万)でも本当の情報かどうか怪しい。だが飲食街でどうやって金のやりとりをするのかもわからない状態だ。屋台ではなく店を構えているのだから長く生き残っているのだろう。店の評判は不明だが、信用できなくもない。
「わかりました。新規が気を付けておいた方がいい人たちの情報もおまけしてくれるなら買います」
値段ではなく内容について交渉してみる。もしダメなら他の店で聞く事にしよう。
「オッケーだ、気に入ったぜお前。同じ様に『買う』で続けてくれ。声紋認証、プレイヤー情報と初心者が知っておきたい事を10万円で売る」
『認証しました』と大男のリストバンドから機械声がする。
「声紋認証、プレイヤー情報と初心者が知っておきたい事を10万円で買う」
『認証しました。マッチ』リストバンドから機械声が響く。
「まず、初心者が知っておきたい事か、そうだな。ここでは月に1度必ず『強制招集』っていうのがある。参加しないと一律500万の罰金を取られるから、不参加はオススメはしないぞ。強制招集には「頭脳戦」「格闘戦」「集団戦」の3つがあるが、予めリストバンドを左上を操作する事で1つだけ免除を希望する事ができる。ま、お前を見た感じ「格闘戦」を免除しといた方がいいぜ。」
『強制招集』とは初耳である。そんな事は部屋の説明書には書かれていなかった。筋肉質な大男を怪しげな目で見つつも言われた通りリストバンドを操作すると、「頭脳戦」「格闘戦」「集団戦」と表示され、どれも点灯している。試しに「格闘戦」に触れると点灯が消灯になる。「集団戦」にも触れたが消灯しない。2個は免除申請できないという事だろう。
「注意して欲しいのはあくまでも免除希望と言う点だ。免除を希望しても格闘戦に当たる可能性もある。加えて助言だ。ここでは自分で考えて行動しないと何も手に入らない。それを忘れない事が生き抜くコツだ。この後説明会場に行くと、いきなり『強制招集』によるナニカをさせられる。説明会と聞いているかもしれないが説明等は一切ない。当然質問もできない。だが集まるのは初心者が多いから絶対に行った方がいい。行かないと初日で-500万だ。まずはそこで勝ち抜く事だな。俺は見ての通り格闘戦がメインだが、毎年初心者に紛れて会場に行く。年に一度の稼ぎ時だからな。余談だが、2回目の「強制招集」は高確率で同窓会と言われる集団戦だ。去年は30人対30人のバトルロイヤル方式だった。同じ学校だった奴とは同じグループになると言われているぜ」
大男は笑いながら話を続ける。
「この後の会場では近くにいるやつと勝負になるから、弱そうなのと近くにいるといい。気を付けて欲しい奴らだが……15時まで話す時間がないな。このリストバンド、蛍光があるだろう。赤が残高1000万未満、白色が5000万未満、黄色が1億未満、が青色3億未満、黒が10億未満、虹色が10億円以上と言われている。だから青以上は要注意だな。さ、会場までは混むぞ? ポットよりも歩きの方がいい。もう出ないと間に合わない。行くぞ」
言い終わると大男と一緒にBarアレックスをでる。大男がリストバンドで施錠する。莞爾は会場まで案内してくれるという言葉に甘えて一緒に行く事にした。
屋台の人たちをみるが皆店じまいをしている。リストバンドを見ると赤、白、黄色がほとんどで青の人間はごく少数、黒以上は見当たらなかった。その事を大男に聞くと「ここは第1会場だ。ニート執行法には第2会場があるからな」とだけ教えてくれた。大男のリストバンドを見ると青色だった。
大男と会場へ着くまでに他にも色々と聞いてみる。開錠へ着くと順番に列になるように言われた。一緒に行ってしまった莞爾は大男と隣同士となり整列をさせられた。「格闘戦」を除外しているので問題ないだろうか?若干不安になりつつも金銭のやり取りをしたのだから嘘はないだろうと心を落ち着かせた。
説明会場は木目調の床が続く四角い大きな部屋で、一番奥だけが壇上になっている。まるで大きな体育館のようだった。
15時なると白髪まじりの初老男性が壇上に現れて口を開いた。
「諸君。農家の皆さんに申し訳ないと思った事はないかね? 誰かが作った食料を何も努力せずに食べてさぞ美味かっただろう。親に申し訳ないと思った事は? はっきりと言おう。君たちは何も生み出さず、他者のすねを齧って生きてきたクズだ。ここでは甘えは一切通用しない。汚名返上だ。命を懸けて競いたまえ。今より『強制招集』だ。2つだけ教えてあげよう。リストバンドの左上の〼を触ると『頭脳戦』『格闘戦』『集団戦』とあるだろう、消灯させると第一希望、ダブルタッチで項目が消えて除外希望だ。そして月に1度の強制招集に来ないと罰金500万だ。ではゲーム開始」
隣にいる筋肉質の大男が笑顔で言った。
「な。ここでは自分で考えて行動しないとって言っただろ」と。その瞬間足元が沈み、そこから強制的に地下の『ルーム』へと移動させられた。
②「ルーム」
白髪交じりの男が話している途中で即座にリストバンドの格闘表示をダブルタッチして格闘戦を免除状態にしたが、判定はどうなるのだろう。
あの大男……。偽の情報を交えたのに10万円を取られたのは声紋認証取引にペナルティがないって事か? それとも先払いだったせいなのか……滑り台の様に下へと進んでいく中で、今必要な事だけを考える事にした。
どうする? 格闘戦となれば勝ち目はほぼない。『ルーム』に到着した瞬間に金的、鼓膜狙い、脛蹴りの何れかで奇襲するしかないか? いや、おそらく無理だ。相手を怒らせて骨を折られたら此処での医療は……生活はどうなる?? どう考えても『格闘戦』ならギブアップするしかない。
考えている間に『ルーム』に到着した俺は両手をあげて筋肉野郎に降参アピールをする。
「あんたと『格闘戦』をする意思はない」
「冗談だ。安心しろ、言ったろ。気に入ったってな」
顎をクイっとした方向を見るとそこには他に3人の男女がいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます