第4話 寺島クレア
部屋の移動が止まった。壁には1番から4番目でが記載されたドアがある。
「寺島クレア様。1番ゲートへお入りください。」
部屋の動きが止まると1番と書かれた扉が開いた。
寺島が緊張した顔でゲートに入ろうとすると、東郷が「なるべく初撃で決めろ」と、アドバイスをしていた。
「参戦者以外の方はモニターでご覧ください」
モニターに視線を移すと、10m四方のボクシングリングのような会場が映し出される。丁度中央に白髪のオールバックにした初老の男性が立っていた。その姿は年齢を感じさせないほど背筋が伸びており紳士的に見える。
5分位すると黒いスーツを着た寺島が先にモニターに出てきた。
「CMSスーツに似てるな」独り言のように呟くと、東郷が「あれはCMSスーツだ。」と答えた。
■■■■■■■■■■
|CMS(クロックマッスルスーツ)
|人工知能(AI)が将棋などで人類に完勝する様になったのは確か2020年前後であっただろうか。その後、多くの学者が飛躍的に発達した人工知能に『人類の更なる進化について』研究させた。
その結果、いくつかの仮説が提案されたが、その1つが|CMS(クロックマッスルスーツ)の導入である。
まず開発されたのは体感時間を何倍にも高めることのできる薬品だった。その体感時間に人間の体が耐えられるよう開発されたのがこのCMSスーツである。この組み合わせにより科学者たちは「人類にとって1日は24時間ではなくなる」と期待を集めるが、実際にこのスーツを長時間使用すると、脳がパンクして死亡してしまう事がわかった。
進化にはそれなりの年数が必要なのかもしれない。以後CMSスーツによる人類進化計画は中止され、短期間の使用を条件にされる。
CMS|(クロックマッスルスーツ)は性能上、慣れないと体がうまく動かない。
現在の日本国には徴兵制度があるため、国民の誰もが1度は軍でCMSスーツを試着している。莞爾が試着したのは僅か1分程度であったが、初日は3日程高熱で悩まされた。
この試着にはDNAにCMSを慣れさせる事が目的なのを多くの国民は知らない、が今は関係ないので置いておこう。
■■■■■■■■■■
「ニート執行法には人体実験の意味も含まれてるのか……」
「まあ、そんな所だな。そんな事より相手が出てきたぞ」
相手の男は170cmくらいだろうか。対する寺島は175cm前後。もし東郷のおっさんだったら階級差で楽勝だったのにな。リングの中央にいるオールバックの初老の男性が手をあげる。
「私が今回の審判をさせて頂く小泉と申します。立場上、出場者のパーソナル情報を拝見させて頂いておりますが、双方ともに格闘技経験者のようですな。今回のルールは簡単ですな。どちらかがギブアップ、もしくは戦闘不能と判断された時点で相手方の勝利ですな。では、投薬と試合開始です。」
「そこまで。」
莞爾が瞬きする間に勝負は終わっていた。審判の小泉が言葉を続ける。
「では皆様、スーパースローで再生しますのでそのままモニターをご覧ください」
スーパースローで画面が対戦前から再生される。
相手の男の作戦は単純だった。CMSスーツに慣れていないのなら直線的に最小限の動きで勝負を決めてしまえばいいと考えたのだろう。開始早々、真っすぐに右ストレートを寺島の顔に打ち込もうとする。寺島はそれをしゃがんでかわすと同時に左足で相手の左脛に強烈な前蹴りを入れる。
顔を歪める男性の顎に左の掌底(しょうてい)を入れると、そのまま体を右回転させ右ひじを心臓に打ち込む。
試合が終わった。
絶対に格闘戦をしない事を心に決めたわ。
「さすがは寺島様。元軍人だけあってスーツを使い慣れてらっしゃいますね。」
小泉がにこやかに寺島に話しかける。
「茶化すな。部隊の無念を知っているだろ? 勝ち残った際には願いをかなえてもらうぞ。」
ポツリと寺島が言葉を漏らす。
『部隊の無念?』たしかに美形かつ真面目そうな寺島からは、無職という感じが伝わってこない。此処に来てまで叶えたい願いとは何なのだろうか。
小泉が「そうですが、では次の勝負があるので」と寺島へ来た道を帰るよう促す。
何処か喋り足りなそうな寺島はそのまま来た道へと戻っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます