消える塗り薬の話

春風月葉

消える塗り薬の話

 その研究者は有名になって妻に楽をさせたかった。

 だから誰も作れないような薬を作ろうと日々努力していた。

 ある日、研究は成功し研究者は塗ったものを消すことのできる薬を作り出した。

 彼はその薬を自分に塗った。

 鏡に自分の姿が映っていないことを確認し、研究者は喜んだ。

 ついに自分は誰かに認められるような偉業を成し遂げたのだと叫んだ。

 しかし、その声が部屋に響くことはなかった。

 彼は急に不安になった。

 透明なまま急いで街まで出かけ、何人もの街行く人に話しかけた。

 それなのに、誰も彼には気づかない。

 彼は街を走った。

 誰か、誰でもいい、自分に気づいてくれと叫び続けた。

 妻も街の人も、犬や猫さえも自分に気づかない。

 彼が消えて三日が経ち、彼は自分の捜索願いが街に張り出されているのを目にした。

 さらに一週間が経つととうとう彼は行方不明から死亡扱いになった。

 彼が自宅の前を通ると、彼を探す必要がなくなった妻はやっと休むことができていた。

 彼は膝から崩れて落ちた。そのまま這いずるように川まで行くとそのまま川に入り死んでしまおうと考えた。

 もう、自分は消えてしまったのだから…。

 彼は川に身を沈めた。


 翌朝、彼の死体は下流で見つかった。

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消える塗り薬の話 春風月葉 @HarukazeTsukiha

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