屋上への立ち入りを禁ず
人口雀
屋上への出入りを禁ず
「ね、屋上に行こうよ。」
「え、何急に?」
私が親友だと勝手に決めつけているユキナが面倒そうに顔を上げる。
「うわーその顔傷付くんですけど。」
「いやだって今勉強中だし。」
「それ、どこの過去問?」
「T大。受けるつもりは無いけど。」
「すっご。ってか受けるつもりないなら行こうよ。」
「あそこ鍵締まってるでしょ。」
「でも時々出入りしてる人居るっぽいよ。」
「先生かどっかの業者の人でしょ。」
「いやいや生徒だよ!前から噂あるじゃん。」
「噂は噂だと思うけどなー。」
事実、その噂は存在する。一切立ち入り禁止で、校舎五階から繋がる小さい扉は年中施錠されている、そんな屋上に生徒が居る所を見たという話だ。
もちろん幽霊などではなく、制服を着た人影も動いていたそうで、確実にこの学校の生徒なのだ。なのに!一切真実が明らかになっていない。高校生くらいの口が軽い子供ならばうっかり漏らしてしまいそうなのに、話の尻尾が全く掴めない。そんな謎が存在している。
そして私たちの探偵ごっこが始まる。
「では助手のユキナ君、まずは状況を整理しようか。」
「はいはい助手ですよー。」
「まずは噂の精査だね。私が聞いたのは放課後・土日。そして生徒は一人だったり複数だったり。男女どっちも居るみたい。」
黒板に書きだしていく。探偵の仕事である。
「私は興味無かったから詳しく聞いてないけど、お兄ちゃんが二年生の頃から噂があったみたい。」
ペースを落とさず受験用の問題集を解いている。助手の仕事である。
「ふむ、なかなかやるね。浪人お兄さん。」
「去年の受験は落ちたけどウチのお兄ちゃんめっちゃ頭良いからね?」
「でも大事な情報だね。噂が広まるまでタイムラグがあるかもしれないけど、それでも結構最近だね。」
………。
…。
行き詰まった。
「分かんない。」
「私もそうなると思った。」
「職員室で聞いてみるしかないか……。」
「何の名目で借りるのよ。」
「あ、考えてなかった。」
「それが無きゃだめでしょ。」
「屋上使う名目なんて何も無いじゃん。」
「逆にアンタは何で行きたいのよ。」
「一緒にお弁当食べようよ。」
「私もかよ。」
「だって助手じゃん。」
「行きたい行きたい行きたいー。」
「しょーがないなー。」
「え!?何か知ってるの?早く言ってよ。」
「いやいや。」
スマホの画面を見せられた。浪人先生(ユキナのお兄さんだよね?)からのメッセージに記されていた。『青春部ってのがあったなあそういえば。今残ってないかもしんないけど。』
「え、ユキナのお兄さん知ってんじゃん。」
「ぽいね。一応聞いてみた。これが優秀な助手の力だよ。」
「じゃあ早速青春部を探そう。ってか青春部とかって絶対に認可されなそうな名前だけどよく存在してるよね。」
「ね。部活一覧って先生に聞けば分かるのかなあ?」
「んー、生徒会の方が分かりやすいんじゃないかな。部長会議とかやってるし。」
「さっすが優秀な助手!」
「私が探偵やった方が良いんじゃない?助手。」
「ん?ユキナも実は探偵やってみたかった?」
「いや、それはいいわ。」
生徒会。まだメインは三年生だったはずだけど、生徒会長は一度も話したことは……ん?同じ中学だったから何回かはあったかもしれない。
一回も無いかもしれない。
コンコンコン。
ノック二回はトイレと一緒なので三回叩くこと。昔誰かに言われた覚えがあるが、誰だか覚えていない。
「失礼します。」
生徒会室には、副会長ともう一人しか居なかった。
「こんにちは。」
「こんにちは。……ってユキナじゃんどしたの?校則で金髪オッケーとかにはならないよ。」
「そりゃそーでしょ。」
副会長がユキナの方に寄って行き、互いの両手にタッチする。
「うわ、ユキナのキャラじゃない。」
「だってこいつ手出さないと胸触ってくるし。」
「え、何それ。」
「だってちょうどいいところに出てるんだもん。胸が。」
「アンタは出てないけどね。」
少し意外な組み合わせだ。ユキナは友達の輪には普通に入っているが、髪の色とかピアスとか、そういうのが見えない壁のようになって、あまり仲のいい友人は居ないと思っていた。……というか、私が一番仲良しだと思っていた。それが胸まで揉ませる友人が居たとは。モヤモヤした気持ちが溜まっていく。
「で、生徒会に用事ですか?」
「部活動の一覧みたいなのって見れますか?」
「部活一覧?転部?三年生で今の時期ってことは幽霊部ですか?」
「いやー、転部するつもりは無いんですけどね。そこの部長さんにちょっと聞きたい事があって。」
『文武両道』などと掲げて、うちの高校では全員が部活動もしくは委員会に所属することが決められている。とはいえ全く活動していない、実質の帰宅部がいくつかある以上、スローガンでしかない。そういう表面的な取り繕いも含めて、大人社会を学ばせるつもりなのだろうか。
……んな訳あるか。
「じゃあちょーっと待っててねー。適当に座ってて良いからー。」
普通の教室と変わらない間取り。壁際に大きな棚がいくつもあって、教室の中央を『コ』の字型に並べられた机が陣取っている。入り口に遠い方の端っこに見覚えがある顔が座ったいたので、入り口側の端の席に座る。
見覚えがあると言っても、仲がいい訳ではない。むしろ気まずい。昔付き合ってたカズマという男子の、今の恋人というだけだ。一応円満破局(という言葉があるかは知らないが)だけど、何となく気まずい。それに、私は彼女を知っているけど、向こうは私の事を知らないかもしれない。つまり一方的に気まずい。不公平である。
会長ではないし、三年生だし、何の役だろうか。書記?会計?生徒会らしく真面目に勉強していた。つまり生徒会の仕事をしていない。
「お待たせー。この間の部長会議の議事録だけど、ここのページから各部のページだから、ここにあるので全部です。」
「ありがとうございます。ここで見ても?」
「どうぞ。むしろ生徒会室から持ち出せないんで。」
『青春部』の名前はどこにも見つからなかった。
「副会長。」
「何ですか?」
「青春部って無いですか?」
「え、何ですかそれ。帰宅部?」
「いやあ。じゃあ屋上で活動してる部は知りませんか?」
「屋上は立ち入り禁止なので、たぶん無いかと。」
「ですよね……。」
簡単に見つかるとは思っていなかったが、それっぽい部やら、名ばかりの部すらどこにも無かった。実質帰宅部は帰宅部として活動内容があるのだ。なんだそれ。
「ユキナのお兄ちゃん他に手がかり知らない?」
「知らないっぽい。諦める?」
「今日の所はね。」
「好きだねえ。」
「それじゃ副会長、資料ありがとうございました。失礼します。」
「じゃ。」
「はーい。もし分かったらユキナにラインするからね。」
収穫が無いまま生徒会室を後にする。ってかラインまで知ってるのか、副会長。
当たり前だけど、ユキナにはユキナの人間関係があって、私の知らないところで知らない人と知り合っている。それは私の方も同じだけど、一番の親友を自負している自惚れな私にとって、私にさせないことをさせていたというのは少しモヤモヤする。
「ユキナ、副会長と仲いいんだね。」
「あー、難関校クラスの時の席順が隣なんだよね。」
「そういう繋がりね。」
「ん?アイツに興味あんの?」
「いやそうじゃなくてだね。」
「どした?」
「胸、揉んでもいい?」
「なんで?」
「いやあ副会長がべた褒めしてたからさ、私もその感触を味わいたいなーなんて。」
「一瞬でも褒めてたっけ?」
褒めてはいなかった。
「でもまあいいや。軽くなら。その後リサのも触らせろよ。」
「うん、もちろん。」
……硬かった。ブラも付けてるし、冬服だし。自分の揉んだこともあるから分ってた。
「ほれ、じゃあ次はユキナが揉む番だね。」
軽く胸を張って見せる。
「いや私は良いって。」
「まあまあまあ遠慮しないで。」
「アンタも副会長もおかしいけど、私は人の胸揉むような趣味はねーよ。」
「揉んだこと無いんだ?」
「当たり前でしょ。」
「いいから揉めー。」
「なんで嬉しそうに胸突き出して迫ってくるんだよ。怖えよビッチかよ。」
「うるせー。私が揉ませるのはユキナだけだよ!」
「先帰るわ。」
走って逃げられた。でも逃がさない。陸上部エンジョイ勢の走力を思い知るがいい。今日一日はビッチにでも何にでもなってやる。
屋上への立ち入りを禁ず 人口雀 @suenotouki
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