第2話

*表*


『まーさん、久しぶり』


って送ったのはいいけど、僕があんまり急に連絡寄越したりするから怖がったりしないかな....。


でも、少なくとも驚きはすると思けどね。今の僕は、昔とは全然違うからさ。


僕は、変わることにしたんだ。


守れなかった、いや、守ろうとしなかった僕を殺したかった。


時は小学生の頃に遡ると、僕はまーさんに憧れていた。人間として。


まーさんは目から鼻へ抜ける人だった。誰とでも平等に接することができ、クラスの人気者だった。少なくとも女子の間では。そんな大人びた彼女に憧れていた。好きとかそう言うものを無視して憧れていた。加えて、姿も振る舞いも愛くるしい。僕にとっては女神のような存在だった。


でも僕らが中学生になったある日突然、彼女は不登校になってしまった。


ほんとうはあの時、彼女に声をかけてやりたかった。


何かあったの?とか、俺が力になるとか、かけるべき言葉がたくさんあったはずなのに、僕にとってかけがえのない大切な人だったはずなのに、僕は彼女を守ろうとしなかった。


どうしてか?今の僕なら、はっきりと即答できる。


僕に変わる勇気がなかったから。ただ、それだけだったんだろう。


僕は小学生の頃、まーさんに憧れるばかりか、彼女のようになろうとした。


両親は共働きで、僕の幼少期は独りでいることが多かったのが原因なのか、僕は独りになることに抵抗があった。


では、どうすればいいか?


まーさんみたいな人気者になればいい。って僕は安直に考えた。


きっと僕はその時点で、間違った生き方をしていたのだろう。


先ず、端正でもない細い目を持つ自分の顔を自虐ネタにし、ひょうきん者を演じた。そして、他人の顔色をうかがいまくって、周りのみんなに合わせることで「優しい人」という汚名を担いだ。


そりゃ人気は出た。だってあの頃の僕はみんなにとって都合のいい人間だったから。


でも、今考えると虚しく思う。それは今まで僕の知っている「友達」だと思っていた人がそうではなくなるのだから。結局、偽りだったんだ。全部。


そうやって他人に嘘つくばかりか、本当の自分をも欺くようなあの頃の僕には誰かを守る力なんてあるわけ無かった。


独りになるのが怖くて、「いい人」でありたくて。


そんな下らない理由で、僕はまーさんを見捨てたんだった。


しかも、守れなかったのはまーさんだけじゃない。


何人か馬の合う人がいたんだけど、それも同じような理由で助けられなかった。


あの人をいじめから守ろうとしたら、僕もいじめられる、とか、ね。テレビでよく見る話だよ。


でも、僕は変わった。生まれ育った場所から遠く離れた学校に通って、寮に暮らして地元を出たのをきっかけに、僕に何か気づきがあった。ただ単に、今まで僕がやってきた生き方が下らないなって思って、自分がついてきた嘘に気づいたのさ。


だから僕は、思ったことをはっきり言える。


僕には、まーさんを守る力がある。


ってそれより、まーさんから連絡来ないなぁ。寝ちゃってるのかなあ。


****************


*裏*


『まーさん、久しぶり』か。


唐突過ぎて、きっと麻衣は驚くかもしれんぁ。なにせ、今しかないって思って、信頼できる友達の情報を辿り、やっとの思いで俺は麻衣の連絡先を知ったくらいだからな。


連絡先にない男が急に連絡してきたら驚くだろう。


俺の通う高校は、というより、高専は地元から遠く離れていて、通う時は寮暮らしなんだが、今は夏休みに突入して地元に帰省中だ。


そこで今日、偶々俺の母さんがスーパーで麻衣に会ったらしい。俺は、「一緒にスーパー行っとけば良かった」って絶望した。そこまでは良かったんだが、何せ麻衣の弟さんが、俺の通ってる高専に進学したい風な話をしていたと聞いて、俺はチャンスだと思った。


「高専について、いくつか情報を提供できる俺が、弟さんの力になりたい」って言う“口実”で麻衣に近づけるんじゃないかって。


お人好しな表の俺は、「まーさんの弟さんの力になりたい」とか、「守りたい」って口走るんだが、この本物に近い俺の心なら、「麻衣とずっと一緒にいたい」って叫ぶんだろうな。


ははっ。可笑しなはなしだ。もうちょっと、純粋に麻衣のことを愛せたらな。


だが俺そのものが変わったから、表の俺が、この裏の俺の叫びを受け入れてくれるようになりつつある。


少しは楽に生きれるようにはなったな。


嫌いな奴には嫌いと、好きな人には大切だと、はっきり意思表明できる。


俺には嫌いな奴が多い。特に、地元にいる奴らの殆ど大嫌いだ。昔から気に入らなかったんだよ。集団で群れて、そうでない人を攻撃する。下らない。有象無象。児戯に等しき行為だ。


っとまあ、ぐちぐちするのはここまでだな。


心の中で愚痴っても何も生まないからな。


それに「俺」と言う題の物語があるとしたら、リスナーやら、読み手やらが嫌な気分になっちまうぜ。


俺の物語を読んだり見たりしている人が、いるかもしれないだろう。俺の心の中のどこかにな。


哲学っぽいな。


俺は割と哲学の話が大好きでな。あ、割とじゃ矛盾するか?ま、哲学は好きさ。


じゃあそうだなぁ、麻衣から連絡来ないし俺は寝て今回はここまでとするか。


何せ、もし「俺」と言う物語があったとしたら、きっと「表の僕」と「裏の俺」の二本立てで尺が伸びて退屈するだろうからな。




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敵だらけのこの世界で〜THE DUAL〜 いんてぐらる @kuro0811

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