正義のルール

水木レナ

暗躍のルール

 あたしの夢はスーパーガール。

 スーパーで働く女の人じゃないの。

 人知れず、弱き人を助け、悪をくじく。

 それがスーパーガール!


 あたしは全寮制の大学に入った。

 勉強についてゆけない生徒だった。

 先生も冷たくて、なかなか相談にもゆけない。

 そんなとき、一人の男子から告白された。


 いやー……告白っていうかさ。

 その子とはあんまり口もきいたことなくて。

 国際電話をかけられる電話ボックスのありかを聞かれて、案内したことがあるくらい。

 そして、彼の背後には一見チャラい男の子がいっぱいいたのね。


 ははあ、いじめかな? なにかの罰ゲーム?

 この男子とあたしと、どちらがターゲットかは知らないが。

 こういうの、セクハラよね。

 訴える!


 とは思ったけれど。

 あたしも実情知らずにそんなことを言ったって、冷たい学校長が相手にしてくれるわけない。

 この告白ゲームをやめさせなければ。


 だいたい目的はなんなの?

 あたしのPCの暗証コードを聞きだせとか、言われてんのかなー。

 やけにちょこまか、くっついてくるんだよなー、彼。

 授業中に。


 そしてX-DAY。

 あたしはチャラいグループに呼ばれて、グループの中心人物の部屋へ行った。

 お酒も入ったお祭り騒ぎ。

 炭酸入りの1%? アルコールはそんなに入ってないみたいだけど……。


 なんとなれば、クリスマスに飲んだシャンメリーくらいのものだ。

 お子様向けかな……? と思っていたら。

 彼が来た。

 簡素な木机の上で、はやし立てられながら、服を一枚ずつ脱いでいく。


 なにがなんだかわからなかった。

 その苦悶の表情。

 あたしは見守るしかなかった。

 そして、彼はタールとニコチンのたっぷりなタバコを吸わされて、これまた動画に撮られていた。


 これは、悪ふざけなのだろうか?

 あたしは疑問に感じながら、逃げるように部屋を出てった彼を追った。

「好きでやってるの?」

 問うと、彼は首をふった。


 演技じゃない。

 彼は苦しんでる! 助けなきゃ!! 

 でも、彼が自分でグループを抜けなきゃ、同じことは繰り返される。

 そういうの……知ってる。


 あたしがやらなきゃ! 彼がダメになるまえに!! よし!!!


 あたしは決心して、チャラいグループに近づいた。

 いじめと悪ふざけ、どっちの認識で彼らが行動しているのか、確かめるために。

 グループの中心人物に自分から近づいていったんだ……。

 そしたら!


 集まっている部屋で、彼らはAV鑑賞を始め、彼に自慰行為をさせた。

 ああ、彼。

 あたしのこと見てないでしょ? 存在すら、認識してないでしょ? でもごめん、あなたを助けてみせるから。


 三月かかった。

 その間、あたしは毎日彼らの部屋へ行き、彼らの行動を見張っていた。

 エロ漫画を読んだり、酒を飲んだり、AVを観たり……だけど、そこに彼の姿はもうなかった。

 あたしがこう、彼に忠告をしたのだ。


「レベルの低いやつらとつきあわないほうがいいよ」

 と。

 彼が、誰をもってして「レベルが低い」ととるかはわからなかったけれど、女子の前でストリップさせられるくらいだ、いろいろ屈辱的な目に遭ってるに違いない。


 そして、その日から、彼は……。




 昼。

 バスケットゴールの下で、健康的に仲間とプレイする彼の姿があった。

「んだよ。相手にされてねえくせに……」

 グループの中心人物が、彼を見下ろし階段の踊り場で言ったけど、彼はあなたを「レベルが低い」と判断したんだ。


 もう、彼は大丈夫。

 チャラいグループはその後、カーテンを閉めきった暗い部屋でナイフをいじったり、バイクの免許を見せびらかして「オレ、ナイフのライセンス持ってる」と馬鹿なことを言う、アウトローの世界に浸り始めた。


 そう、あたしの役目は終わりだ。

 彼らにいじめの認識はなく、動画もすぐに削除されていて、脅迫などに使われた様子は毛ほどもなかった。

 そして彼は、新しい仲間に接近し、友好を築きつつあった。


 ことを急がなくてよかった。

 下手に騒ぎ立てたら、彼をグループから離反させるのは難しかったかもしれない。

 彼らのグループは穏便に収束し、自然消滅していった。

 ああ、三月の間の苦労は何ほどでもなかったと思えるほどの、平和がやってきた。


 世の中のお坊ちゃん、お嬢ちゃん。

 彼らが行っていたのはモラハラという、立派な犯罪です。

 でも、公に取り締まってもらうより、二度とさせないほうが大事です。

 あたしのようにやれとは言えないし、言わないけれどね!



 こんなことがあったわけ。

 あたしは、自分のルールで動き、暗躍し、ことをおさめた。

 自己満足でもいい。

 これがだれも傷つけない、あたしの、ルールだ。



 了

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