社会のルール
山本航
社会のルール
「さて、ルールは簡単だ。簡単すぎて説明しなければいけない俺の立場というものが本当に哀れに思うくらいのものだ」
まさに今、家を出たばかりの僕の目の前に兎の仮面をつけた男が突然に現れ、そのように宣言した。
僕はとりあえず、家の中に戻り、携帯電話で警察に通報する。警察は五分ほどで到着してくれるらしい。
こうなると少し外の様子が気になってくるので、僕はインターホンのカメラで外の様子を伺う。兎仮面の男はまごつき、どうすれば良いか迷っているようだ。
春先に変態が出るとはよく聞くが、男は兎仮面の他はダークグレイのビジネススーツをびしっと着こなし、これといって変態性を感じる部分はない。
男がインターホンを鳴らす。出るべきか出ざるべきか迷ったが、警察が来るまで少し相手をしてやることにした。
「はい、どちら様ですか?」
「さっき、玄関先で会った坊ちゃん? 最後まで話を聞いて欲しいんだけど」
「すみません。なんというか、身の危険を感じまして。何の御用ですか?」
「いわゆるデスゲームですね。ルールに従って命のかかったゲームを進行してもらうっていう」
「ああ、間に合ってまーす」
受話器を置くと、再びチャイムが連呼する。うるさいので受話器を取る。
「デスゲームものですか。僕は参加したくないです」
「いや、こういうのはね。強制参加が基本だし、今回もそのように執り行っていくつもりなんだけど」
「強制参加? どうやって僕に強制するんですか?」
「それはまあ、殺されたくなかったら? みたいな感じだよ。大体そうだろ」
「うーん。僕の命を脅かせるのかが、そもそもの疑問なんですけど、まあ、良いです。ルールを聞かせてもらえますか?」
「ルールは簡単です。参加者の皆さまには何度か子供の頃の遊びをしてもらいます。そして毎回最下位の方には死んでもらいます」
すでに三分ほどが経っている。誘拐事件の被害者が逆探知の為に話を引き延ばす展開を思い出す。
「聞いてる?」
少し沈黙をおいたせいで不安になったようだ。
「聞いてますよ。つまらなそうですね。エンターテイメント性にかけるというか。見てる人がすぐ飽きちゃいますよ」
「別に面白い必要はないし、そもそも見てる人なんていないからさ」
「もう少しこう、駆け引きが行われる内容にすべきでは?」
「……例えば?」
「参加者にポイント制を導入するとか、そのやり取りをプレイヤー間、もしくは運営とゲーム外でもやり取りできるようにしましょう」
「なるほど。ゲーム全体で駆け引きが行われるようになるのか」
「あと一日一回、深夜の零時にポイントを付与するようにしましょう。こうすることでプレイヤーの継続モチベーションになると思うんですよね」
「強制参加だっつってんだろ」
「できればポイントを使ってくじ引きなんかもしてくれるといいな。そしたらポイントを貯めるためのやる気が出る気がします」
「自分の命がかかってる時くらいやる気出していこうよ」
「あ、でも参加者同士の交流を強制するのはやめてくださいね。もっと気楽にやりたいんですよね」
「できれば緊張感をもって取り組んで欲しいんだが」
ぴったり五分。とうとう警察官がやってきたようだ。男は逃げ出そうとするが、あっさり確保される。
「てめえ! 警察を呼びやがったのか!」
「社会のルールを守りましょうね」
社会のルール 山本航 @game
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