第12話

昨日の私は、楽な気分で学校に行けるか心配だったけど、それは杞憂に終わった。


セキヤくんの助言のおかげで、今の私ならどこへでも行ける気がする。振り向いても、セキヤくんが、きっといるから。


私は何食わぬ顔で、学校へ行くことができた。昨日の野次馬もそのまんまだけど、どうでもいい。こういう時は無関心が最強の盾になってくれるから。


登校して、すぐにカケル君の元に行って昨日の事を謝った。


「カケル君、昨日は、ほんとゴメン....」

「いやっ!気にしなくて大丈夫だよ。僕からも謝るよ。僕がうかつだっただけだよ。ごめんね」


その後は、いつものように冗談言ったり、何気ない会話をした。


何となく明るい私は、今日はちょっと一味違う私だった。



ただ時間の流れだけは相変わらずで、授業が終わって、数学の補習も終わって、部活のマネージャーの仕事も終わって、待ちに待った帰る時間がやってくる。


今日はセクハラ数学教師がいなくて楽だったな。


それはさておき、今日はハイダさんに会いに行くと決めていた。


私は校門から出た瞬間、脇目も振らず早足でペットコーナーへ向かった。


「ハイダさんっ!お疲れ様です」

「おっ、マイちゃん。お疲れ様」


ハイダさんはケージを持ち運びながら挨拶をしてくれた。


「マイちゃんは猫が好きなんだよね」

「そうです!覚えててくれてたんですか!?」


覚えてくれてた!嬉しい。


「そりゃあ、こんな風に会話するお客さんはマイちゃんくらいだしね。覚えてるよ。実はこの町に猫カフェがあるの、知ってた?」

「え!?初耳です!あるんですか!?」

「うん!最近できたばかりなんだよね。キャッツアイって名前だった。場所は駅方面に行く時、橋渡るでしょ?そこの橋の近くにあるから」

「えー、そうなんですか!教えてくださってありがとうございます!」


ここで、私は「今度一緒にどうですか?」って言おうとしたけど、変な理性が邪魔をした。ハイダさんにはハイダさんの想い人がいるから....。そして、店員さんとお客さんっていう複雑な関係なのに、そんなこと言ったらハイダさんが困っちゃうかも....。


「最近寒いよね〜。スノーボードの季節も近づいてきてる。そう、スノーボードに“あの人”を誘えたんだよね。今度一緒に行ってくる。僕も一歩踏み出せた気がするよ」


一歩踏み出す、かぁ。でも、あの人とは順調なんだなぁハイダさん。ちょっと悔しい....。



「マイちゃんも、青春時代真っ只中なんだから猫カフェ、誰かと行ってみたら。絶対楽しいよ」


....。私も、一歩踏み出そう、かな。


「は、ハイダさんっ!あ、あの、店員さんとお客さんの....恋愛ってどう思います、か....?」


ハイダさんは一瞬、表情が曇ったけど、すぐにいつもの爽やかな顔に戻って、言った。


「うーん、別に普通なんじゃないかなぁ?その人が好きだ、って言うのは変わらない訳だし。でもどうして、それを?」

「えっ?いや、ちょうど私とハイダさんは男と女ですし、店員と、客の関係だし、その、交流もある程度あるから、友達に聞くより、それについて精密な考えができるかなって....」

「なるほど?」


ハイダさんは朗らかに笑った。あぁ、その笑顔が私の心にズキュンですよ....。ハイダさん....。


「っと、ハイダさん、長く立ち話してしまいました....。お仕事があるのに、ごめんなさい。私はこれで」

「うん!楽しかったよ、ありがとうね。気をつけて帰ってね」

「はい!お仕事頑張ってくださいね!」


私はきっと届くことのない想いを更に胸にしまい込んで、自宅へ向かうことにした。

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敵だらけのこの世界で いんてぐらる @kuro0811

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