第六幕 帝都の侵入と瘴気の侵入


「痛い・・・」


 アマネから回し蹴りをくらわされ、鼻先が切れたのか血が少し出ている。

 ちょっとでも反応が遅れた瞬間には、気付けばアマネからのダメージが待っている。

 アマネの性格はどうやら姫気質とでもいうべきか、自己中心的なところが見られる気がしてならない。


 現に今。拗ねている始末だ。

 どれほどこの五年間で甘やかされてきたというのだろうか。これが親の顔を見てみたいということなのだろう。きっと。


「で、なに?」


 アマネに体を向け、鼻先の血を拭いつつ問う。


「包丁。返して?」

「え?それだけ?」


 拍子抜けもいいところだ。まさか包丁一本、返してというたったそれだけで結果として蹴られたのか?

 これには今後も苦労しそうだな、と包丁を返しながら意識は天を仰ぐこととなった。




 それから少し歩くとやっとのことで崩壊したての帝都へ到着した。

 防壁などとうに機能しておらず、一部は崩落し、瓦礫となり民家らしき家々を潰していた。


「ひどいな。これは」

「ええ。これじゃあ生存者さえもういないかも」

「とりあえず個人の目的を果たそうか」


 とりあえずは書庫を探すために原点回帰といこうか。

 場所はあいまいながらも周囲に大きな変化がなければ分かるはずだ。


 なぜだろう。ひどい道なき道を。瓦礫の上を一人で歩いているはずなのに後ろから足音が聞こえてくる。

 個人で。といったはずなのだが後ろにアマネが着いてきているのはなぜなのだろうか。

 時折、瓦礫に足がとられ声を出しているが。できれば手を貸したくはない。


「ん?」


 瓦礫を進んで目的地だと思われる近辺へ着くと、周辺の空気が大きく変化する。


 目には見えないが明らかにおかしい。

 瘴気が満ちているとでも言おうか。禍々しい空気と雰囲気が渦巻いていた。


「・・・なんだこれ?」

「瘴気・・・よ。しかも高純度の」


 息を切らしながらアマネが瓦礫の小さな段差を超え、説明口調で答えてくる。

 どうやらこの空気は瘴気というようだ。


 どちらにせよ、体と本能が拒絶し、前に進もうとしても足が出せない。

 その先に書庫はあるはずなのに。進めない。

 瘴気の原因を探るほかないのだろうか。


「瘴気ってどうすればいいの?」

「どうする?そうね瘴気の原因を叩くか、原因が移動すればいい。のだけど、今回は少し厄介よ。原因が魔物よ」

「魔物ってこの襲撃の主犯格だっけ?」

「そう。西大陸の魔族の森から来てる。元はエルフ領地だったのだけど、魔物を総括して従える魔王っていう強大な力を持った魔物のせいで西大陸全域が魔族で蠢いているわ。今回のこの惨事も魔王の引き金だと思うわよ」

「へー。とりあえず魔物を見つけて殺せば瘴気を晴らせる?」

「ええ。瘴気の原因を倒せば・・・って!包丁一つで殺せるわけないじゃない!」


 突然、アマネの焦った声とともに両手で肩をつかまれぐわんぐわんと体を揺らされる。

 見た目によらずかなり力が強いせいで脳は大きく揺れるし。正直に言って吐ぎぞう・・・。


 吐き気を抑えつつ、アマネをなんとか抑え、瘴気に触れないようにしながら周囲を探索する。

 原因を見つけても手を出すなとアマネに言われているが、いざとなれば魔法が少しでも使えればいけるはずだ。

 満に一つ、死にそうならまた時を止めればいいのだから。


「アマネは何を探してるの?」


 ふと瓦礫を歩いていると、アマネがなぜついてきているのかということに疑問を覚えた。


「お父様とお母様の遺体。またはそれの代わりになるもの」

「なんで死んでるって確信してるの?」


 言い方からしてすでに死んでいて、その証拠を探しに来たとでも言いたげな言葉には、あまり絡まないでいようという思いから逸れ、聞き返してしまう。


「そうね。お父様は防壁が壊れたという騒ぎを聞いて家の外へ出た瞬間、ゴブリンのこん棒で頭が木っ端みじんに。お母様は直接は見てないけど家が倒壊した時点で家の中にまだいたから、潰れたはずよ」


 そう、淡々と述べるアマネの声。顔を見ることはできないがなぜか悲しいという感情がその言葉には一切籠っていないのには疑問を覚える。

 が、生憎だがそんな細かい所まではどうでもいい。それよりも書庫を見つけたい。


「ねえ!あれを見て!」


 突然、服の裾を後ろから引っ張られ転びかける。

 こんな瓦礫ばかりの所で転んでは傷一つは待逃れれないだろう。


「な、なに?」

「ほら!そこに瘴気の原因の魔物!」

「え?ああ、あの人型の一つ目のか?小さいな」

「あれはゴブリン目の中でも群を抜いて雑魚といわれるゴブっていう魔物よ」

「じゃあ、手。出していい?どうやらやっぱりこの先が目的の場所みたいだから」


 包丁を左手にし、右横腹の近くに構える。


「だ、だめよ?何を言っているの。雑魚といっても凡人的兵士が軽く捻れるっていう雑魚判断だから私たちの力じゃ無理よ?」

「え?」


 やる気満々だった思いが空回りし、恥ずかしいという感情がわき始める。

 しかし、この先に行かなきゃいけないのだ。五歳といえども冥灯白蝕龍の子だ。


 人間ではないのだから。


 人間と同じではないのだから。


 人間と一緒にしないでくれ。


 人間と酷似してるからといって姿だけを見るな。


 人間と力が一緒なわけがない。


 人間なんかくそくらえだ。


 だから。目の前のアイツを狩る。




「ちょっと!ねえ」

「え?あ、あれ?今何して?」

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衰退魔法の下克上日記 東風西風 旱 @Cochinarai_Hideri

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