第五幕 父母の再会は止まった時の中
「誰・・・だ」
灰色の時が動かなくなった世界。
その世界に突如として後ろから現れた二人の人物には一歩足が後ろへ下がる。
「包丁か・・・。もし正体教えなかったらどうする?」
「とりあえず身構えるよね。今以上に」
「そう身構えないでほしい。俺たちは一度で会っているんだからな」
へらへらと両手を無抵抗ですよと言わんばかりに手を振る右手側に立つ男性。
誰だ。と聞いたものの、正体は分かっていた。両親であるということを。
「なんでこの灰色の世界にいる?死んだはずの父さんと母さんが」
「おお!やっぱり分かってくれたか・・・なあ!シアナ、アオイが俺たちのこと覚えておいてくれたぞ!」
「うるさい。アオイ、久しぶりとは思ってないかもしれないけど私たちにとっては五年ぶりだから。久しぶり。大きくなったわね」
半目で一人うれし泣きする父フォルを見ていた母シアナが一つ突っ込みを入れ、向き直って微笑みながら母親らしい言葉をかけてくる。
父は流した涙をぬぐっていた。ガチな泣きすぎる気もしないでもない。
「アオイ。なぜこの時が止まった世界ができたか分かるか?」
一歩踏みよったシアナが顔を覗き込ませて問いかけてくる。
白っぽい透き通るような瞳と目が合わさる。
「止まってって言ったから?」
「少し違う。アオイが使ったのは私が得意としてた魂の言葉。
「魂言?」
「そう。私が言霊が嫌いっていうのは知っているだろう?」
うなずき、顔を上げると少し嫌そうな顔をしたシアナがいた。言霊という単語を言うことさえも嫌うほどに忌み嫌っているのだと読み取れた。
「言霊っていうのは、言葉に精霊を乗せることでその精霊の力を借りて、言葉に力を持たせるものなんだが・・・。魂言は魂の叫びを具現化させるもの。といえばいいだろうか。心の底から言葉を出した時に発動する。こっちは誰にもできるが、レベルがあるんだ。つまりは、私が言霊を嫌う理由っていうのはただただフォル。あんたが精霊を統べているっていうことがあなたに頼ってると感じてしまうからよ!」
瞬間目の前で爆風が起こった。
その勢いに尻もちをついてしまう。
目の前には包丁(さっきまで持っていた古民家の厨房にあったやつ)片手にフォルへ刃を突き立てるシアナ。そしてそのシアナの刃先を魔法陣で防ぐフォルの姿があった。
二人の顔には汗が。垂れずに笑っていた。
正直にいって怖い。
「はぁ。シアナ。アオイがいるんだからやめてくれないか?そういう行動」
「日常を壊せと?」
「・・・。アオイ?いいか。お前はシアナの魂言を使える上に俺が最も。というか唯一の魔法に対して適性がある。これから言うことをよく聞いてくれ」
全くといっていいほどに話が頭に入ってこない。
それもそのはずフォルは右手でいまだ包丁を刺そうと突きつけるシアナを空中に出現させた小さな魔法陣ひとつであしらっているからである。
「とりあえず、母さん。やめてくれ。話が入ってこないんだ」
苦笑い一つとともに母へ申し出る。
そういうとスッと包丁の持った手をフォルから引き、妙なナイフ技を手元で行った後に地面へ投げ捨てる。
きれいに刃を地面に突き刺さるよう回転させて。
「今、俺たちが話せているのはシアナの能力と俺の展開魔法で成り立っている。いやはや処刑が決まったり首帝都から殺しの部隊が来るなんて想像もしてなかったんだけどねー」
「ほんとよ。冥灯白蝕龍をかくまっているやらなんやらアオイを殺そうとしたり差し出せだのね。大半フォルのせいなんだけど」
絶句せざるを得ない。
このたった数秒の会話でとてつもないことを話す両親は共に首帝都から殺そうという考えが出るような危険人物であったようだ。
「話が脱線しがちだな。えっと、今から帝都。南帝都に行く途中だと思うけど、家の位置分かるか?倒壊してボロボロだとは思うけど」
「な、なんとなく」
「アオイが近づけば、書庫に入っている本の一部が反応する・・・はずだから、それはきっとアオイもなんか感覚的にわかると思うからどうにかしてくれ!」
「感覚!?何でそんなアバウトなんだよ」
「アホだからよ。展開式にしか能のないアホだから」
「アホとはなんだ!」
夫婦喧嘩とはこういうことを言うのだろう。きっと。
「でも、きっと分かるはず。その本の意味は文字は読めなくとも意図せずどんなものか分かるようになっている。でも、これだけは注意してくれ。絶対に人前では使うな。何があってもだ」
「な、なんで?」
「俺たちが死んだときにはもう、展開式なんて言う魔法は存在しないものだったからだ。存在しない魔法が存在するとなれば今まで調べてこなかったせいで魔法が使えない無能として扱われていた人が救われる可能性があるからだ。だから首帝都は俺を抹消したかった」
「な、なるほど」
つまりは、差別していた人々が差別対象外となってしまい、首帝都側は謝罪を余儀なくされ、多大な損害を得てしまう。
だから父は殺された。冥灯白蝕龍擁護との二つによる多重罪状で。
「まあ!その時は帝都一戸消えたんだがな!」
んん?聞き捨てならない言葉が脳に伝わってきた。
「実はな?この北大陸の南の端に遠方視察観察帝都っていう兵士だけが住まう帝都があったんだが、そこで首帝都と争って壊滅させて、そのまま。今になっても修繕しきれず、遠方帝都は閉鎖状態が続いているようだ」
「へ、へー」
なぜだろう。両親ともに化け物揃いだ。父の話の中には絶対に母が絡んでいるのだから帝都壊滅にも加担してのことだろう。
「シアナもな、帝都と争うときなんかは龍化して・・・」
「それ以上喋ったら口縫い合わすぞ」
殺気がものすごかった。
また尻もちをつきそうになるほどの威圧感が身体を突き抜けていった。
怖いとかそんな次元じゃない。
「スキル。圧殺」
「へ?」
「圧殺っていうスキル。習得条件は力の値が六千を超えること。あとはスキル怒号を得ていることだったはずだ」
「聞いてないけどすごい!」
「ふふん」
やっぱり母も怖いだけでなく、こうやって子供にうらやましがられるだけでドヤ顔するほどには穏やかな心があるのだろう。
きっと・・・・・・。そう。きっと。
「さ、そろそろ長話が過ぎるな。シアナ、帰るぞ」
「フォル。一つ大切なことを忘れているぞ」
「え?なんかあったっけ?」
空間に魔法陣を展開していたフォルが開く手を止めて振り返る。
しかし父よ。何度も重要なことを言い忘れることは控えてもらいたいものだ。
「フォル?出生地は?」
「日本」
「ニホン?」
「ああ。俺は転生者なんだよ。死んだから過去の話だけどな!」
「転生者?」
「そう。俺は元はこの世界の出身じゃなくて、違う世界で日本っていうところの特殊隠密部隊のっと。これ以上は口外禁止だった。まあそこら辺の異世界知識も本に詰めてる。応用してみてくれ!俺は展開式で世界つぶせる力あったから試さなかったけどな!」
「フォル。話が終わったら帰るぞ。昨日からお前が心の準備が。などとほざいたせいで晩飯がまだなんだから」
「はいはい。アオイ、またな」
「元気でね。カレーライスだ」
「やだ」
そう残し、魔法陣の中へと消えていった。
兎にも角にも南帝都に行って地下書庫から本を回収する必要があるようだ。
目標は変わりなく、南帝都へ向かうこと。としよう。
目標の明確化は人生においてスタートラインといっても過言ではない。
そう誰かが言っていた気がする。
「・・・で、これってどうやって時を動かすべきなの?」
周囲は依然として灰色のまま。
とりあえず、アマネが空中に投げていた包丁を回収し、自分のも回収しようと足元へ視線を向ける。
「魔法陣?」
足元には二重になった魔法陣が回転していた。
それが見つかったからといって時を動かせるわけではないのがまた困るところだ。
「言い忘れてた!魔法陣の解除は
突然、空中に魔法陣が現れたかと思ったら顔だけ出した父のすが・・・顔面があった。
ごめんなー。といいながらまた魔法陣の奥へと姿を消す。
魔法陣の可能性の広大さを身をもって感じたこの時を一生忘れることはないだろう。
さておき、さっさと書庫に向かはなくてはならない。
(閉じろ)
すると足元の魔方陣が・・・消えない。
顔をゆがませる。なぜだ?
『閉じろ。より魔法陣の消失コードを判別不能。正式コードを提示します。コード収束』
脳内に直接、女性のような声が伝わってくる。
突然のことで全く現状理解が追い付いていない。
「しゅ、収束?」
最後に聞こえた言葉を発する。
一瞬、足元が光ったかと思えばその光は消えていき世界に色が戻っていく。
「なるほど。父さんの展開式とは少し異なるんだな」
「ちょっと」
次の瞬間には細い足の甲が眼前に広がっていた。
少し反応遅れただけじゃん・・・・・・。
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