ペンと魔法のファンタジー
亥BAR
ペンは剣より強し(物理的and精神的)
俺は机の引き出しからあるものを取り出していた。
ひとつはペン。もう一つは袋に入れられた五枚のルーズリーフ。ルーズリーフが入った袋にはルールが記載されている。
『この紙に付随のペンで呪文とその内容を書くと、魔法となる。』
ルーズリーフの一枚目を取り出す。書かれている内容は
『呪文:テレキネシス』
詳しい内容を話すには、少し時間を遡ることになる。
――
「この……紙と……ペン……で?」
俺は手にしたペンと紙を手にし、ワクワクを抑えられないでいた。もちろん、これが本物だなんて思っていない。
でも、一度くらいやってみてもバチは当たるまい。
そういう思いで紙に目線を通す。
紙には大きく分けて三つの枠があった。
一つは呪文を書く場所。一つはその内容。そして、最後は消費エネルギー量。
「まずは……そうだな……手始めに」
・呪文:テレキネシス
・効果:物を浮かせる。
そこまでまず書いた。最後に消費エネルギー量の欄にペンを持っていくがそこで不思議なことが起こる。ペンで何かを書くまでもなく、浮かび上がってきたのだ。それは星マークが一個。
俺は慌てたがハッと思い出し、袋に書いてあるルールに目を通した。
『消費エネルギー量は呪文とその内容によって決まる。呪文が短く単純であるほど、内容の影響力が大きいほど、量は多くなる。逆もまたしかり。
星の数はその魔法を発動するための基本量、難易度を示すものであり、消費量は仕事量に準じて変動する』
すなわち、最後の項目は俺が書くのではないということ。この星マーク一個というのは量をあらわすのだろう。
ここまできて、俺はチラリと筆箱を見た。そして手を伸ばし呪文を唱えてみる。
「テレキネシス」
突如、とんでもないことが起こった。
「え……!? あぁ!?」
筆箱が宙に浮いた。だが、それだけではなく俺の周りにあるものというものが浮かび始めたのだ。しかも、ふわふわと部屋の中を漂い制御もできない。
俺は慌ててふわふわと浮かぶ袋を掴んだ。
「なにか……!? なにか!?」
パニックになりながらルールを再確認……なにかないか……。
『紙が五分の一以上欠損した場合、その魔法の効果はなくなる。その後、袋の中にはあらたな紙が一枚補充される。』
五分の一以上欠損? ……ってことは……。
「破ればいいのか!?」
ひとまずという思いで持っていた紙を思いっきり半分に破った。すると浮かんでいた物がバタバタと音を立てて落ちていった。
突然起きた現象に対して、落ち着きを取り戻すため深呼吸を繰り返し、ルールを漁っていく。
『魔法が使えるのは肌から十センチ以内に紙が存在している者のみである。』
……結局のところ、わざわざ破かなくても紙を放り投げたら終わりだったらしい……。いや、どちらにしてもそのまま放っておくわけにはいかなかったか。
「……ってことは、もっと慎重に書かなければならないわけだ。具体的に……はっきりと内容を……」
再び袋から紙を取り出し、再度呪文テレキネシスの内容を考えた。しっかりと俺が物を制御できるように……。
『内容:術者が意識を向けた物体を操作する。動きは術者の意思により決定する。心の中で魔法解除と意識すると、その物体は再び物理法則に従いだす。』
すると消費エネルギー量の欄に星二つが浮かび上がる。
そこで再び筆箱に視線を向けた。十センチほど浮かせることを意識して呪文「テレキネシス」を唱える。
すると、今度は確かに筆箱だけがふわふわと十センチほど浮かんだ。横に移動するイメージを浮かべると、筆箱も同じように動く。
「これは……面白い!!」
と、いうことがあった。
そして今は授業中。しっかりと先生の話を聞き流しながら紙に書く(呪文を)。
『呪文:ブースト〇倍(〇に数値を入れる)』
『内容:術者の身体能力を一時的に〇倍引き上げる。これは力を入れている間持続し、力が抜けると効果はなくなる』
『消費エネルギー量:星三つ』
あるときは……
『呪文:(前略)この世は円環の理によってなりうる。始はいずれ終へと向かう。(中略)ありとあらゆる意思が我の中に降臨す。生きとし生ける物すべてに平等たる死を。生命剥奪(ライフブレイク)』
『内容:術者に指されたものは死ぬ』
『消費エネルギー量:星一つ』
最初のテレキネシスを含めた三枚を折りたたみ、胸ポケット入れる。これで俺はどういう状況にでも耐えうることができる。
しかも、まだ二枚残っている。いざという時、即席の呪文を作成する猶予を残しているのだ。
といっても、対してビビることはない。
そう思って俺は窓の外を見る。
「……平和じゃないか」
だが、この時の俺は知らなかった。
この力がいずれ……自身を重大な危機に見舞わすことになるとは。
そしてこの力を得たことを……後悔することになる。
――
俺は黙ってルーズリーフが入った袋を再び引き出しに戻した。後ろを見てこの部屋には誰もいないことを確認する。
そして俺は拳を机に叩きつけた。
「なんなんだ、くぉの黒歴史はっ!? はっず! はっず!」
額を何度も机に叩きつける。
「なんで無駄に設定凝ろうとしてんだよ!? よけい、中二っぽさが全開になってるじゃねえかよっ!? なんでこんなの、残してたんだ、俺は!?」
もう、何度も何度も額を机に打ち続ける。痛いとかどうでもいい。
「死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死んだタイ、食べたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい」
※さっきのアレは俺が当時妄想していたものであり、現実ではありません。
「えいやーっ!?」
そうして俺は魔法を生み出すペン(価格:33.3333……+税)を思いっきりゴミ箱にぶち込んだ。
ペンと魔法のファンタジー 亥BAR @tadasi
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