紙とペンと肉じゃが

ソーヘー

母の肉じゃが

「タカシ‼︎ご飯できたわよ!ゲームはもうやめなさい‼︎」


「うるさいな、今いいところなんだから待てよ」


タカシはそう言い放ちゲームを再開しようとすると、ブチっという音ともにに画面は突如として真っ暗になった。


「なにすんだよ!いきなり電源切りやがって」


「いい加減にしなさい‼︎いつまでゲームやってるの‼︎もうご飯はできてるわよ!」


母はタカシのゲームの電源を切ると、タカシの目の前に立った。ゲームの電源をいきなり切られたタカシは目の前に立つ母に嫌気がさしたのか、母にとっさに言い放った。


「不味い飯なんていらないよ‼︎」


タカシがそう言うと、目の前に立っていた母は泣きそうになりながら立ち去り際にタカシに呟いた。


「この家から出ていきなさい。もうご飯は作らないから」


「出て行ってやるよ‼︎こんな家はもうごめんだ‼︎」


タカシはそう言うと、勢いよく家を飛び出した。



タカシが家を飛び出してもう数時間が経つ。もうすっかり辺りは夕暮れに染まっており、タカシは行くあてもなくただ公園のブランコに座っていた。


「腹減ったな...」


タカシはそう呟くと、ふと過去の思い出がタカシの脳裏をよぎった。


「そういえば前にもこんなことあったけ...」


あれはタカシがまだ小学生の頃、母は夜勤が多くて学校から帰ってきてもほとんど家にはいなかった。けれども、食卓には必ず紙とペンと夕飯が置かれていた。紙には夕飯のメニューが書かれており、ついでにメッセージも書かかれていた。タカシはそのメッセージに置いてあるペンで返答するのが日課で、それが母との唯一のやりとりだった。今思えば母が夕飯を作らなかったことなんて一度もなかった。夜は仕事で疲れていると思うのに母は毎日起こしてくれたし、昼は家事をやっていた。それでもタカシを悲しませまいと母は毎日夕飯を作り、紙とペンを置いてくれていた。

そんなある日、タカシは一度だけ母に夕飯はファミレスで食べたいと駄々をこねたことがあった。母が言うことを聞いてくれないので「不味い料理はいらない!」と言ってしまったことがある。そのときの母の顔は、タカシが中学生になった今でも忘れられない。母は一言「ごめんね...」と辛そうな顔で言ったのを覚えている。その日はタカシが学校から帰るといつものように食卓に紙とペンと夕飯が置かれていたが、紙には母の字で

「ファミレスじゃなくてごめんね。肉じゃが作ったからよかったら食べてね」

とだけ書かれていた。その日の肉じゃがの味をタカシは今でも覚えている。普通の肉じゃがだったけれども、そこには母の想いが詰まっていたからだ。


「そろそろ帰るか...」


タカシはそう言うとブランコから立ち上がり、すっかり日が沈んでしまった真っ暗な夜道を一人で歩いて帰路へとついた。母はいなかったが、玄関は開けてくれていた。


「ただいま...ってもう仕事に行ってるよな」


タカシは家に入ると、真っ先に食卓へと向かった。そこにはいつものように紙とペンが置かれていたが、夕飯は見当たらない。


「やっぱりか...まぁそうだよな...あんな酷いこと言ったんだし」


そう思いながら、ふと紙を読むと母の丁寧な字で

「これを読んでいるといことは帰ってきたのね。よかったわ、心配したんだから。冷蔵庫に肉じゃがあるから温めて食べてね」

と書かれていた。



タカシはペンで一言

「ありがとう」

と書くと、母の肉じゃがを頬張った。









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紙とペンと肉じゃが ソーヘー @soheisousou

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