第33話 契約8 離婚は円満かつ速やかに

 リリーが戻ってこないと知ったオズワルドは、別邸に引きこもった。最初は追いかけようとしたらしいが、リリーは行き先を書いておらず、情報収集をフランツに命じた。

 リリーが父親と一緒に行商で近隣諸国にも出入りしていたことを知っているフランツは、何処に伝手を持っているのか調べるのは困難を極める。


 そもそもフランツは、これはオズワルドにとっていい機会なのではないかと思っていた。今のオズワルドが築いた状態は、あまりにも歪過ぎる。

 フランツから情報収集の話を聞いたエレンは、探しても無駄だとフランツに言った。エレンがかんでいるなら無理だと思ったフランツも、無駄なことはしなかった。


 オズワルドは仕事を放り出すことも出来ず、仕事にも行き、何とも中途半端。オズワルドらしいと言えばそうだが、こんなダメ男の何処がいいのか心底わからないとエレンは思った。

 心底リリーを愛していて、妻にしたいと願っていたなら、時間はかかっても何処かの貴族へ養子入りを認めさせ、そこで時間をかけて貴族としての立ち居振る舞いを習得させるべきだったと思う。


 時間をかけて契約結婚の妻を見つけるくらいなら、そうしていた方がよっぽどましだ。両親の説得くらいどうにでもすればいい。最悪、地位も仕事も捨てて出ていけば良かったのだ。

 何も捨てられず、オズワルドはリリーにとっても最悪の手段を選んだ。


 オズワルドはフランツとマーサを巻き込んでしばらく大騒ぎした後、何故かエレンを頼ってくるようになった。本当にうざい。最初の契約はどうした。


 ***


 オズワルドはリリーからの手紙が信じられなかった。父親が亡くなった時に助けてくれたお礼が丁寧に綴られ、これまで楽しかったこと、けれど今のままではお互いにとって良いことにはならないから、出て行く書かれていた。

 リリーは僕を捨てて、一人で進むことを選んだのだ。何度読み返しても信じられなかった。


 リリーを失うなんてあり得ない。これからも、どういう形であれ一生一緒に過ごすつもりだった。

 一人で出ていくことを考えさせてしまうほど、リリーを追い詰めていたことに気が付かなかった自分にもうんざりした。

 直ぐにリリーの後を追って二人で話し合いたかったが、リリーがどこへ向かったのかさえわからない。


「エレン、リリーを探すのにソールズベリーの情報網を貸して欲しい。お金なら言い値で払う」

「…ソールズベリーは今、国内でクレイシス国関係者の残党探しや宰相の協力者特定の為に奔走しています。それを、貴方が将来を潰した女性が新たな道を歩むのを阻止するのに使えと?」

 エレンの表情も声音も、今まで見た中で一番冷たかった。


「私はリリーの将来を潰す気など無かった。これからもだ。二人でどうしても話し合いたいんだ。今回の件が片付いてからでもいい。協力してくれないか」

「お断りします。私がどうして手紙を持っていたのか考えなかったのですか?私はリリーの味方ですよ。自分の都合だけ押し付けて、自分は何も捨てずにリリーには全てを捨てるように強要した。普通にクズですよね」

「違う!」

「何が違うのですか?現状、そうなっていますよね?」

 何もエレンに言い返すことが出来なかった。


 ***


 宰相を追い出し、言いなりだった国王を退位させたクリシュナ姫とアレクシス王子は、二人で実権を握った。アレクシス王子は廃嫡を願ったが、クリシュナ姫が説得したそう。

 二人は今後のソールズベリーへの潤沢な予算と、自立するまでの支援を約束してくれた。これでソールズベリーの財政問題が解決される。


 リリーもいなくなり、エレンとオズワルドが結婚している意味がもう無くなった。

 離婚しようと思ったら、何と結婚していないことになっていた。知らない間にお父様が先代国王アドルフ様に相談して、エレンとオズワルドの結婚は、今回の件でソールズベリーが動きやすくなる為の偽装結婚にされていた。驚き。


 ソールズベリーへの褒賞授与式で、その事についても発表された。オズワルドが非常に驚いていた。リリーリリーとうざ過ぎて、言うのを忘れてた。


 従者とはきちんとお別れしたが、オズワルドには挨拶をすることが出来なかった。

「挨拶を受けたらエレンも出て行くんだろー!」とかオズワルドが言い出して、頑なに会おうとしなかった。意味がわからない。

 結婚していた事さえ無かった事にされているのに。そんな事で動揺するエレンでは無いので、お世話になりましたと手紙を残して、さっくり出ていった。


 ソールズベリーへ戻った直後、何故かクリスとギルバートが押し掛けて来た。クリスはグレンを追いかけ回し、ギルバートはエレンに婚約を申し込んできた。

 ギルバートのレスター領は国の穀倉地帯。縁を結んで損はない。ギルバートは次男だから割と自由。騎士団を退職して、父の情報網を引き継いでも良いと言ってくれた。


 エレンがもだもだしている間に、ギルバートはカリーナを味方につけてソールズベリーの屋敷に住み着いてしまった。


 一年後、エレンが絆される形で婚約を結び、その後結婚した。実家のすぐ近くに家を建てて移り住んだ。二人で静かに暮らす気だったギルバートを邪魔したのは、グレン。

 ちゃっかり二人の家の従者として職を得た。ちなみに、エレンが結婚したことを知ったミリムがソールズベリーへ押しかけてきて、結局は四人暮らしになっている。


 リリーだが、元々素養があったのか、西の国ダストンで商売に成功した。必要な知識や教養を身に付けて、名の知れた貴族御用達の女主人として活躍していたのだが。

 ハミルトン伯爵家が没落の危機だという情報を入手してしまったリリーが、オズワルドに会いに行ってしまった。


 エレンはリリーはダメ男が好きなんだと呆れてしまったが、リリーの為に協力は惜しまなかった。それとこれとは別。

 リリーを貴族の養女へ押し込み、オズワルドとの関係が進むように後押しした。結局オズワルドの両親の説得もリリーがしたとか。

 二人はかなりの回り道をしたが、ようやく婚約したと聞く。


 ダメ男でも、リリーが好きなら仕方がない、である。諦めだ。リリーがいれば、融通をきかしてくれるという打算もある。


 クリシュナ王とアレクシスの変革は緩やかに進み、地方騎士制度の上位にエレンやカリーナが名を連ねるようになるのは、もう少し後のこと。

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契約結婚……!? 喜んでぇ!! 相澤 @aizawa9

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