第31話 後片付けとリリーの決意

 アレクシス王子は、自分が王になるつもりでいた。けれど、それはクリシュナの為。クリシュナが女王になることで受けるであろう、嫌な思いをさせたくなかった。

 真相はそんな感じ。宰相が酷いことを考えていたと気付けなかったことを今は猛省している。危うく妹同然に可愛がっていたクリシュナをドン底まで叩き落とす所だった。


 エリオット兄様が最初は介入していたが、アレクシスの証言諸々の裏取りが取れてから、王家に丸投げした。

 エルハルト兄様は逃亡した一味を追いかけて、お父様と一緒に各地をウロウロしている。


 ハミルトン邸から負傷者も去り、今は清掃が入っている。もうじきハミルトン邸へ帰れるようになるとリリーへ伝えたが、リリーの返事は帰らない、だった。


 ***


 リリーは今回の件もあり、やはりきっちり自立したいと考えた。オズワルドとの結婚は現実的ではないし、やはり自分の将来に不安しかない。

 何より、オズワルドを愛しているからこそ、彼の将来に影を落としたくない。


 エレンにハミルトン邸へ戻れると聞いた時には、既に決意を固めていた。不安はあるが、最初は父との行商時代に知り合った知人を頼ろうと思う。

 女性が普通に働けるのは、西にあるダストン王国。持ち出した荷物を換金して護衛を頼めば、行くことは出来るだろう。


 オズワルドからは、いくらでも持ち出した物を処分しても構わないと言質をとっている。必要な物は全てあるが、オズワルドは私がここで不便な生活を送っていると勘違いされてしまった。

 帰って来ると思っているオズワルドには申し訳ないが、手切れ金として貰っていこう。


 その話をエレンにすると、持ち出した物の換金を手伝ってくれた。妻と愛人という立場なのに、何から何までお世話になっている。申し訳ないが、非常に助かる。


「知ってると思うけど、西に行くといいよ。あの国は女性でも能力があればのし上がれるから。持ってきたドレスと宝石で結構良い金額になったから、護衛も付けれるしね。護衛はソールズベリーに頼んでくれると嬉しいなぁ」

「こちらからお願いしたいくらいだわ」

「本当?じゃあ、手配しとく」

 本当に有難い。エレンが手配してくれるなら、安全にダストンに行ける。


「厳しいけれど、しっかり教育してくれそうな人に心当たりがあるから、紹介状を書くね」

 さすがにそこまでしてもらうのはと断ったが、エレンに紹介状を押し付けられた。父が亡くなって大変な思いもしたが、私は出会いに恵まれている。


 オズワルドが結婚すると言い出した時は何とも言えない気持ちになったが、この出会いをもたらしてくれたことに感謝しかない。

 オズワルドとは直接会わずに出ていこうと思う。会ってしまえば決心が鈍りそうだ。エレンには申し訳ないが、手紙を渡してくれるよう頼んだ。


 準備も整い今日は旅立ちの日。


「たまにはソールズベリーにも行商に来てね」

「ええ。そうなれるように頑張るわ」


「その時は、ソールズベリーの護衛を贔屓にしてよね」

「勿論よ。依頼の手紙を書くわ」


「元気でね」

「エレン、本当にありがとう」


 エレンにも幸せになって欲しいと思う。未練を振り切るような思いで旅立った。


 ***


 リリーの旅立ちも見送ったし、フランツたちも戻って来たと連絡が来たので、私もそろそろハミルトン邸へ帰ろう。

 旦那様に手紙を渡すと色々聞かれそうで、ちょっと面倒なことになりそう。


 ハミルトン邸に戻り、フランツたちとの再会を喜んだ。ミリムには、妹の無事を伝えると泣かれた。旦那様はこの雰囲気に入ってこれないようで、そわそわしている。

 リリーがいつ戻って来るか聞きたいのだろう。ミリムが落ち着いた所で、リリーからの手紙を渡した。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る