電子新獣サイバクルス
エピローグ
「ばいばい。またどっかで会えたらよろしくね」
去っていく彼らの後姿を、ぼくはしばらくの間見つめていた。
クロコクルスに、バイソンクルス。他にも、ニャゴがたおしてぼくの手元に来ていたサイバクルスたち。
ぼくらは彼らを、一体残らず逃がす事にしたんだ。
「ホントに良かったニャゴ?」
「うん。ぼくの所にいるより、生まれた所にもどった方がずっといいよ」
「……ま、そうかもしれんニャゴな」
「それで、ニャゴはどうするの?」
「ニャガー……」
それからぼくは、かたわらのニャゴにたずねた。
その姿は、ぼくの見慣れたネコクルスにもどってしまっている。
ナイトクルスとの戦い、あの最後の一瞬。
混じっていたヴォルフのデータが、ニャゴの技を変化させて、ナイトの虚構裁断とぶつかった。
その時の衝撃がまたデータを壊したとか、なんとか。
色々可能性は教えてもらったけど、はっきりとはしない。
「……ま、とりあえずテキトーにうろつくニャゴかね」
「そっか。ニャゴらしいや」
しばらく考え込んでから、ニャゴはぼくの質問にそう答えた。
ニャゴとぼくはリンクしている。その気になれば、いつでも呼び出すことは出来るハズだ。
……でも、ぼくがこの世界にいなければ、そんなことは出来ない。
「ま、また会えるニャゴよ」
「うん……そう、だよね」
「っつーわけで、ニャゴももう行くニャゴ」
「もう!? もう少しゆっくりでも……」
「しゃーねーニャゴ。テメェの泣き面とか見たくねぇニャゴし?」
「泣かないし! なんだよもう、ニャゴはさびしくないの!?」
サイバディアは、長いメンテナンス期間に入る。
表向きは、壊れた町を直してリニューアルするために。
でも、それが本当の理由じゃないことを、誰もが知っている。
ヴォルフたちの起こした事件が明らかになって、KIDOは対応に追われていた。
クロヤはこの世界を残すつもりだけど、もしかしたら、もう二度と……
そう思うと、ニャゴと離れるのはつらかった。
「さびしいわけねーニャゴ」
「なんだよもう、ニャゴは冷た……」
言いかけて、ニャゴがうつむいていることに気付く。
ニャゴもさびしいんじゃないか。そう思って、ぼくはぐっと自分の胸元を握り締める。
「……分かったよ。また、会えるもんね」
「ニャゴ。だから、テメェもとっとと行っちまえばいいニャゴ」
「行くよ。……でも、ニャゴ、ぼくがいない間もちゃんとご飯食べてね。あと、他のサイバクルスとケンカしないでね。それから、ええと……」
「ああうるせぇニャゴな! 分かったニャゴよ! 出来るだけニャゴけど!」
「約束だよ? ええと、それから……。もどってきたら、今度は一緒に遊んだり、したいな」
結局、ニャゴと会ってからは戦いの連続で。
一緒に楽しい事とか、あんまりしてなかったから。
「ニャグ。ま、街の面白そーなもんとか、気になるニャゴしな」
「うん。それも約束」
「約束多いニャゴな。んじゃニャゴからは……んー……元気でいろニャゴ」
「分かった。約束する。……それじゃあ、ニャゴも元気でね」
「ニャ。……またな、ユウト」
「うん。……またね、ニャゴ」
それからニャゴは、振り返らずに森の向こうに走っていって。
しばらくしてから、ぼくもサイバディアからログアウトした。
*
ニュースメディアは、こぞってサイバディアの危険性を報道していた。
ヴォルフたちによって操られていた人々の証言も出始めて、KIDOは責任を問われて、よく分からないけど、株価もものすごく下がったらしい。
サイバディアに行けない間も、ぼくの生活は変わらずに続いた。
毎朝起きて学校に行って、宿題をやって、ゲームをして……
『……なんか、まだちょっと信じらんねーんだよな』
ショウも意識を取り戻したから、ぼくたちはよく通話しながら遊んだ。
そんな中で、ショウが突然言い出したことに、「なにが?」と聞き返す。
『サイバディアで起きた事。たまたまヴォルフに会わなかったら、全然関係なく過ごしてたわけじゃん、オレ』
「まぁ、そうだね……普通にゲームとしてプレイしてたと思う」
ぼくも、ショウも。サイバクルスたちの事を良く知らないで、ただのゲームとして遊んでいたはずだ。
……それでも、きっとショウなら斬鉄さんやアリアさんみたく、サイバクルスと仲良くなれてたんじゃないか……って思うけど。
『そういや、アリアチャンネルの新しいヤツみた?』
「ああ、うん。見たよ」
サイバディアが閉じてからも、アリアさんは別の3Dモデルで動画をアップし続けていた。
……でも、そのとなりにパッたんの姿はない。
『なーんか物足りないんだよな。内容は楽しいんだけど』
「……そう、だね」
物足りない。
胸にぽっかり穴が開いたみたいな、欠けた感覚。
それはアリアさんの動画だけじゃなくて、ぼく自身の中でも、日々強くなっていっていた。
サイバディアが無いからって、ぼくらの日常は何も変わりはしないのに。
サイバディアが有ることが、もうぼくの日常になってしまっていたから。
それから、更に一か月が過ぎた。
季節が変わって、学校は二学期になって。
授業がほんのちょっとむずかしくなって、着る服が変わって。
その間も、ぼくはずっとニャゴには会えなかった。
少し前までは知りもしなかった相手なのに、一人になってしまったと感じる。
思い返すと、ショウが転校した頃もそうだったっけ。
けどショウとは、カンタンに連絡が取れた。……ニャゴとは、もう……
「……ニャゴ、今どうしてるかな」
サイバクルスはただのデータなのか、生き物なのか。
今も色々な所で多くの人が意見を交わしていて、でもそんなこと、全部ぼくにはどうだって良かった。
だって、どっちだって関係なく、ニャゴはぼくの友だちだから。
ぼくはただ、どうしようもなく……
「……会いたいな、ニャゴ……」
思わず言葉をもらしてしまった、その時だ。
ピロ、と音が鳴って、ぼくの端末にメッセージが届く。
『ニュース見ろ』
ショウからの、たった六文字のメッセージ。
なんだろう、と思って調べると、おどろきの内容が目に入って来た。
「……貴堂クロヤ11歳、KIDOコーポレーションの社長に就任……!?」
あのクロヤが、社長になったってニュースだ。
え、しかも……年下!? クロヤって年下だったの!?
混乱しながら色々なニュース記事を追う。
新島博士と前社長、ゴウライとの意見のすれ違い。
ゴウライによる強引な商品化。
サイバクルスは己の意志を持つプログラムであること……
クロヤは、多くの記者たちの前で、悲し気に事件の事を語っていた。
その結果、クロヤは自らの手で事件を解決し、ゴウライの罪を暴く事に成功した……と、そういう事になっていた。
ニュースメディアは彼を、正義感溢れる優秀な少年としてもてはやし、サイバディア危険論の記事は一気に消えてなくなった。
それも全部、クロヤの計画の内なんだろうか。
恐ろしいものを感じていると、不意にもう一件、ぼくの端末にメッセージが届く。ショウからだろうか、と見てみると……なんと、クロヤ本人からだった。
『遅くなりましたが、サイバディアを再開させられそうです』
*
サイバディアは、それからややあって復活した。
街も自然も、事件が起きる前と何も変わらない。
「サイバクルスは、この世界に生まれた、新たな生命です」
貴堂クロヤは、再開の日、記者会見でそう語った。
本当にそう思っているかは、分からない。
ぼくとニャゴの戦いが、彼の心に影響を与えたのか、与えなかったのかも。
そんな事よりも、今はただ。
「……久しぶり、ニャゴっ!」
「おう、久しぶりニャゴな、ユウト」
友だちに会えた事が、うれしかった。
【終わり】
電子新獣サイバクルス! 螺子巻ぐるり @nezimaki-zenmai
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