遣隋使の通訳がアホすぎる
鈴江さち
遣隋使の通訳がアホすぎる
俺の名は
妹の子と書くが男性だ。ちなみに年は42才。趣味は「ひらがなけやき」の深夜バラエティーを見ることと月一回の風俗と晩酌だ。最近「ひらがな推し」のおかげでちょっとオードリーの若林が好きになってきた。どうでもいいか。
俺は聖徳太子から、「隋」に行けと言われた。
あんまりだ。パワハラが過ぎると思う。こっちだって曲がりなりにも「右大臣」的なポストにいるのに急な出向命令。そうゆうのは左大臣とかが行けばいいのにと思う。
まあいい。今は、この眺めだ。
オーロ・ジャクソン号にも負けない俺の船はのんびりと海原を走ってゆく。
俺は船首に立ち、遥か西、大陸の方向を見つめる。
苦節、数カ月。
ついに我々は隋に到着した。港では迎えのチャイニーズが歓迎のパフォーマンスをしている。
実にいい気分だ。
「ここからはわたしの仕事ですな。妹子どの、安心めされい」
傍らには通訳の
鞍作とはぶっちゃけあんま仲良くない。
俺の方が上司だし、鞍作わりと女子社員にコビるとこあるし、女子社員とランチしたりすんのムカつくし。あとのりこちゃんとデキてるんじゃないかってウワサになってんのもムカつく。のりこちゃんのあのおっぱいを好き放題してんのかと思うと殺意すら湧いてくる。
脇道に逸れた。
俺も続いて船を降りて、船着き場に来ていたチャイニーズの高官と握手する。
高官がなんか言う。
それをさっそく通訳するのは鞍作。
「メロンパンあるけど食う? って聞いてます」
「いや、部活後の帰り道か!」俺ツッコむ。
「本当は遠路はるばるようこそ的な事を言ってます」
「出迎えごくろうと伝えてくれ」
鞍作が通訳すると、高官の顔が引きつった。高官がなんか言う。
「文化が違うゆえ、今回は許そうと言っております」
「お前なんて通訳したんだ?」俺聞く。
「そこのパフォーマーの女を今晩通訳にあてがえ、と伝えただけですが」
「国家間戦争になるわ!」俺ツッコむ。
高官は青筋を立てながら先に歩いて行った。
「いやあ、成し遂げたな、しかし」鞍作言う。
「満ち足りた顔すんな、次やったら殺すからな」
「それフリですか?」
「本気の注意だ」
「りら~っくす」まあまあ、みたいな顔で鞍作が俺をなだめる。
「やかましいわ」
宿に着く。
明日、いよいよ隋の偉い人との懇親会がある。今日は一杯飲んで早めに寝よう。
そう思ってハイボールの缶を開けた瞬間、部屋に鞍作が入ってきた。
「鞍作、何しに来たんだお前?」
港での事があったので、俺、ちょいオコな気分。
「妹子どのとわたしは相部屋です。わたしはベッドじゃなきゃ寝られない派なので、妹子どのは畳の方使ってください」
「なんで部下が主導権やねん」
「ちなみにわたしは風呂よりシャワー派です」
「そんなら俺はパンよりご飯派だからね」
「それを言うならわたしは巨乳よりちっぱい派ですよ」
「えっ! のりこちゃん巨乳じゃん。のりこちゃんと付き合ってるんじゃないの?」
「いや。割り切り肉体関係です」鞍作言う。
「マジかよ、ホンキうらやま~」
「本命は卑弥呼ちゃんですよ」
「あー、卑弥呼ちゃん大和なでしこっぽいしねえ」
「のりこでいいなら、こんど妹子どのに紹介しようか?」さり気なくタメ口になった鞍作の顔を見ながら、俺ののどが鳴った。
「ま、マジ?」
「いいよ、いいよ。なんなら今日のパフォーマーの子、妹子どのに譲ろうか? 今日はなんか気分じゃなくて」
「か、かっけー。って言うか、あの高官、ほんとにあてがってたんだな」
「あの子、まあまあ巨乳でしたよ」
「鞍作」
「はい?」
「俺さ、本当は、ちょっとハトムネの方が好きなんだ……」
「分かった。今からチェンジできるか聞いてみるから」鞍作が笑顔をみせる。
「お前、実は良いやつだったんだな」
「せっかくの出張だし、妹子どのも楽しまなきゃ損でしょ」
笑って、鞍作が高官に電話をかける。
今夜は、暑くなりそうだぜっ!
翌日。
ビュッフェの朝食をとって宮廷に招かれる。
さあ、いよいよ俺の本分を果たす時!
お肌つやつやになった俺は鞍作と共に謁見室に入る。
偉い人が奥に座っていて、通路に高官たちがずらりと左右に並ぶ。
銅鑼が打ち鳴らされ、俺たちは起立して礼をして着席する。
偉い人の隣に、代わりに喋る小坊主みたいなのがいる。身分が高いと、下々の者には直接声をかけないという訳か。
「あの方が皇帝であらせられます。まずは親書を」鞍作が耳打ちをしてくる。
俺は皇帝の前へと進み、巻物を持って捧げるように差しだす。
小坊主が受け取り、巻物を開いて皇帝に見せる。
皇帝はしばらく熟読していたが、突然、巻物を叩きつけて怒りだした。
「お、おい、鞍作。あいつめっちゃオコじゃん。何なの急に?」
「しまったあ、昨日のひらがな推し録画すんの忘れてたあ、とおっしゃっています」
「んな訳あるか!」
「本当は『日出処の天子、書を没する処の天子に致す。つつがなきや……』の部分にオコされているのかと」
「なんでオコなんだ?」
「大和が日が登る国で、隋が日が沈む国、という言い方に激オコであらせられます。加えて『天子』は唯一無二の称号です。大和の偉い人が天子を名乗ることにもオコのようです」
「またかよ、ぜったい聖徳太子のせいじゃん」俺言う。
「ね。あいつ仕事できる風にみせようとするからね」鞍作言う。
「鞍作。こう言ってくれ。日出るとは方角をさしたにすぎませんと。隋のことマジ尊敬してるしって」
「分かりました」
なんか言う鞍作。そして、急に笑顔の皇帝。
「う、上手くいったか?」小声で耳打ちする。
「ええ。うちの偉い人も斎藤京子推しです、って言ったら急にめちゃめちゃ饒舌になりましたよ」
「ちゃんと通訳しろっ!」
あかん。鞍作、こいつアホだとは知っていたがまさかここまでとは。
このままでは大和の国に国難が降りかかる。なんとかせねば。
「とりあえず世間話で場を和ませよう作戦だ。隋ではどんな食べ物がおいしいですかと聞いてくれ」
「御意」
話し出す鞍作と皇帝。
しばらく歓談が進み、皇帝は二個のミカンを俺と鞍作に差し出した。
食べてみる。うん、美味い。
「とても美味だったと伝えてくれ」
「いや、地元のミカンの方が美味いってわたしは思ったけど」鞍作言う。
「失礼すぎるわ!」
「うち、地元静岡なんですよ」
「知らんわ!」
しかしながら、雑談を機に互いに和やかなムードになっていく。
笑う皇帝。振る舞われる料理たち。
「皇帝から、何か質問はないかとおしゃっていただいております」
鞍作は通訳のくせに紹興酒を飲みながら聞いてくる。
俺はウーロンハイを飲みながら聞く。
「それでは、隋の女性の美徳でも伺いたいですなあ」
ちょっと仲良くなった取引先に、女の話を振る。営業マンの必勝パターンだ。
「足の小ささだ、とおっしゃっています」
鞍作の言葉と同時に、皇帝がにやりと笑う。
「隋の女性は美しい方ばかりだと私も思っておりました」俺もおべっかを言う。
鞍作が通訳して、皇帝がまた笑った。
「どうだ、皇帝は機嫌直したか?」鞍作に聞く。
「ええ。右大臣は昨夜隋のハトムネの女性に射精されました、と申し伝えておきました」
「いらんことするなっ!」
「これからもバーバママでいいから挿れたいと申し上げておきました」
「誰がバーバママやねん。あの子はただハトムネなだけだろう」俺言う。
「皇帝は、『まずは自分を許す事から始めてみないか?』とおっしゃっています」
「少年院のカウンセリングか!」
皇帝が笑う。
だが、下ネタは男の花道。
場はいい感じに和んで、最後のあいさつとなる。
「皇帝陛下、ますますのご発展とご活躍をお祈り申しております」俺言う。
「伝えました。ムキムキの桝太一とれいちぇるの嫁、どちらがよいかと」
「れいちぇるの嫁の事は言うな!」
「次に来る時は桝太一を連れてくるように、とのご下命でした」
「日テレ都合着くかな……」
起立して礼をして着席して下校する。
宮廷を後にして、俺たちは宿へと戻る。
その帰り道に、俺はぽつりとつぶやいた。
「鞍作……」
「はい?」
「こんど一緒にキャバ行こうな」
「ありがたき幸せっ!」
「これで良かったのかな、遣隋使って」
「これでいいのです!」
「そっか。そうだよな。アハハ」
「アハハハハっ!」
遣隋使の仕事を終え、俺と鞍作はちょっと仲良くなった。
遣隋使の通訳がアホすぎる 鈴江さち @sachisuzue81
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