最後のモンスター達と伝説のトリ

にゃべ♪

モンスターを崇める島と託された希望

 モンスターが虐げられている世界。そんな世界から伝説のフクロウ、トリに乗って飛び出したドラキュラは安住の地を求めて旅をしていた。

 トリは人に見つからないように飛行機を避けながら飛んでいく。眼下に人のいない空域を飛ぶ飛行機は少ない。そう言う理由もあって、トリは広い海の上をあてもなく飛ぶのだった。


「なぁ、どこに向かってんだ?」

「どこでもないホ。俺様の気の向くままだホ」

「無計画すぎないかそれ」

「大丈夫、何とかなるホー!」


 トリは自分の直感を信じている。ただし、トリとの付き合いがまだそんなに長くないドラキュラ少年はイマイチこの伝説のフクロウを信じきれずにいた。

 そうして、彼だけに頼ってはいられないとキョロキョロと辺り一面の青い世界を見下ろしていた。どこかに休む場所がないか探していたのだ。

 地元の鳳凰エリアを出てもう6時間、そろそろ休憩しないとトリも倒れてしまう。


「ホ!」

「ど、どうした?」

「お腹が空いたホー!」

「わ、バカ!」


 空腹を急に感じ始めたトリはどんどん高度を下げていく。このまま行けば海に墜落だ。ドラキュラはトリの体を右に左に引っ張って何とか動きをコントロールしようと足掻く。

 そんな緊急事態の中でも、目線はどこか降りられる場所がないか必死に探していた。


「お、やった! 島があった!」

「そ、そこに降りるホォォ~!」


 トリは島の上空まで辿り着いたところで力を失い、元の全長30センチの大きさに戻る。それが突然だったためにドラキュラはコウモリの姿に変身するのが遅れ、そのまま島の地面にぶつかった。

 上空10メートルくらいから落ちたものの、そこはドラキュラ、普通に無事で何事もなかったように起き上がる。


「ここ、大丈夫な島だろうな……」


 モンスターに対する対抗手段が開発されてからと言うもの、人間によるモンスター狩りが流行り、人の住む場所にモンスターの安住の地はない。ドラキュラはこの島が無人島である事を願った。


「おっどろいたさあ。モンスター様ではねえべか」

「わわっ」


 いきなり第一島人に発見されてドラキュラは狼狽うろたえる。この状況を前に肝心のトリは目を回してピクリとも動かなかった。


「どうか我が村に来てくだされ。精一杯おもてなしさせてくだされ」

「えっ、えっ」


 島人に案内されてドラキュラ達は彼らの村の長老の家で目一杯のおもてなしをされる。この島はモンスターを神聖視していたのだ。

 ドラキュラは沢山のごちそうを目一杯食べてご満悦。トリもまたごちそうの匂いに目を覚ますと、出された料理を手当たり次第に口に放り込んでいた。


「うんまホ。うんまホ」

「ほっほっほ。このモンスター様は体が小さい割に食べっぷりが男前ですな!」


 島の長老はトリの豪快な食べっぷりを見てとても機嫌が良さそうだ。このあまりのおもてなしっぷりにドラキュラは首を傾げる。


「何でこの島は俺達をそんなに歓迎するんだ?」

「この島はモンスター様が治めておりましてな。我らはその加護で暮らしておるからなのじゃよ」

「こ、この島は楽園ホ。ここがゴールでいいホ!」

「ちょ、何言ってんだよ」


 短絡的で単純なトリを制止してドラキュラは話を続ける。


「大体、じゃあ何で近くにモンスターがいないんだ? 大事にしているならここに来るまでに目にしてもいいはずだろ?」

「そ、それは……」


 やはり何か事情があるらしい。村にモンスターの気配がない事を指摘されて長老の目が泳ぐ。ドラキュラはこの島の秘密の一端に触れた気がして、楽しい気持ちが一瞬で吹き飛んだ。


「そこから先は僕が話すよ」

「き、君は?」

「僕は今のこの島の……ま、守り神だっ!」


 長老の家の突然現れたのは、美しい白い毛並みの犬によく似た大型犬くらいの大きさのモンスターだった。モンスターと言うよりは神様の使いと言った方がしっくりくる、芸術品のような美しい姿をしている。


「えっと……あ、俺はドラキュラ」

「僕は、そうだな……シロウとでも呼んでくれ」

「シロウ、話を聞かせてくれるかい?」


 シロウの話によれば、この島には定期的に海から半魚人のモンスターが襲ってくるらしい。その半魚人と戦い、島を守るのがこの島のモンスターの役目なのだそうだ。

 今から3年前、それまでのどのモンスターよりも強くて大きい半魚人が突然現れて島を襲った。その時に多くの島の守り神モンスターは倒されてしまったのだと――。


「だから今この島に生き残っているモンスターは、僕と後は子供達ばかりなんだ」

「そっか、村人は島を守ってくれるからこんなに……」

「シロウ様もそりゃあお強いモンスターです。ですが、もし海からやって来るモンスターが多く現れては……」


 もうごちそうを食べてしまったため断り辛い雰囲気になってしまい、ドラキュラは顎に手を当てて考える。


「分かったホ! 俺様達が助けてやるホ!」

「おい、トリ!」

「村人やこの島のモンスターのためだホ!」


 トリに勝手に話を進められてしまい、ドラキュラは閉口する。ただ、彼にも断る理由がなかったため、決まった話を蒸し返す事はしなかった。

 こうして、ドラキュラとトリは島を守るために一肌脱ぐ事になる。


 その日の夜、ドラキュラ達はシロウ達と共に過ごした。彼もまた村人に手厚く扱われており、立派な家に住んでいる。室内にはまだ幼いモンスターの子供達が20体ほど一緒に暮らしていた。

 トリはお腹いっぱいですぐに寝てしまい、1人になったドラキュラが居心地が悪そうに座っていると、そこにシロウがやってくる。


「こんな島で参ったでしょう?」

「い、いや、そんな……」

「僕、怖いんです。2番目だから」

「えっ?」


 彼はそのままかつて島を襲った3年前の大惨事の話を始めた。まだ大人のモンスターが数多く残っていた頃、シロウには師匠的存在の島一番の実力者で全身が黒く美しい毛並みのクロウと言う名のモンスターがいたらしい。

 海から数多くの半魚人が島を襲ったその日、シロウはクロウに言われて村を守る事に。その他のモンスターは海岸で敵を迎え撃ったのだとか。

 海からの半魚人との戦いは苛烈を極め、多くの仲間が倒されてしまう――。


「で、師匠が心配になった僕は持ち場を離れて海岸に向かったんだ。そこで見てしまった……」

「な、何を?」

「傷だらけになっても島を守ろうとする師匠の姿を……」


 その時の砂浜の惨状はものすごいものだったらしい。多くのモンスターが倒れ、血の匂いが充満し、シロウも気分を悪くしてしまう。

 と、そこに海から現れたひときわ大きい半魚人が彼に向かっていった。クロウはシロウを守るために全身でその攻撃を受けて、致命傷を負う。


「僕があの時正気を保っていれば師匠は死なずに済んだんだ。僕のせいだ」

「シロウ……」

「だからごめん、もしまたモンスターが襲ってきたら」

「ああ、貰った飯の分はしっかり戦ってやる! こう見えて俺、結構強いんだぜ?」


 ドラキュラは少しおどけて見せて、シロウもつられて笑う。そうして夜はゆっくりと静かに更けていった。


「うう……。お腹が痛いホ。動けないホォォ……」


 朝、トリのうめき声でドラキュラは目を覚ます。どうやら昨日食べ過ぎたせいで体調を崩してしまったらしい。その様子を見てシロウとドラキュラは苦笑い。この日も何事もなく穏やかに過ぎていくかに見えた。

 けれど、その日の昼過ぎに沖合に多数の黒い影が現れ、島は一気に緊張状態に。報告を受けたシロウとドラキュラはすぐに異変のあった砂浜へと向かう。


「来たか……」

「よし、シロウ、あんな奴らちゃっちゃと片付けようぜ」

「ああ、そうだな」


 砂浜から上がってきたのは半漁人ぽいモンスター達。シロウとドラキュラは力を合わせそいつらを倒していった。今回現れたのは一般半魚人だったらしく、順調にその数を減らしていく。


「ほう、あの時の間抜け、生きてたのかよ」

「お、お前は」


 ある程度数を減らしたところで、半魚人のボスっぽいのが海から上がってくる。その姿を見たシロウは急に動きがぎこちなくなった。


「お前は動けないだろ、あの時も動けなかったしな」

「うう……」

「な、何だお前は!」

「へぇ、助っ人ねぇ。今度はこいつがお前の身代わりか?」


 ボスはそれまでの半魚人の3倍の速さで襲ってきた。そのスピードにドラキュラも翻弄される。


「どうしたどうしたあ、その程度かぁ」

「違う、あの時、確かに師匠がお前を倒したはず!」

「まだ気付かないのかよ! 俺はその息子だぜ?」

「シロウ、こいつ強い、力を貸してくれ!」


 ドラキュラの力を持ってしてもボスは手強く、すぐにシロウに助力を仰いだ。

 けれど、過去のトラウマが蘇ったのか、現地守り神モンスターはピクリとも動く気配を見せない。


「ダメだ、体が動かない、ごめん!」

「大丈夫ホ。君は強いホ」

「と、トリ!」


 強力な助っ人の登場にドラキュラは歓喜の声を上げた。そのトリはシロウの背中をさすってアドバイスをする。


「君は師匠よりよっぽど強いホ。その力を開放するホ」

「う、うわおおおおおん!」


 トリの言葉なのか、その時に同時に何かをしたのか、シロウは急に雄叫びを上げ、ボスに向かって突っ込んできた。


「な、何だ何だ、なんなんだァ~ッ!」


 ボスはシロウに突き飛ばされてギャグ漫画の悪者の最後みたいに空の彼方に飛んでいく。親玉がやられた事で残っていた半魚人も焦って海に戻っていった。


「めでたしめでたしホ」


 島の危機を救い一宿一飯の恩を返したドラキュラ達は、島をシロウに任せてまた旅を続ける事にした。村人達には引き止められたけれど、それをシロウが一喝する。

 そうして準備が整ったところで、彼が最後の挨拶に現れた。


「今回は本当に有難う。じゃあ、いい旅を」

「シロウ、もう君は一人前だよ。島は任せた」


 シロウに見送られながら、巨大化したトリはまた大空に舞う。ドラキュラ一行は今度こそ安住の地を求め、広い空を気の向くままに飛んでいくのだった。



 次回『急襲! モンスター保護官』

https://kakuyomu.jp/works/1177354054888830728/episodes/1177354054888830790

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最後のモンスター達と伝説のトリ にゃべ♪ @nyabech2016

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