二番目でかまわないから

紅雪

いっしょにいてほしい

教室の片隅へ、手招きをした大親友-咲彩が口元をほころばせて言った。

「あのね、良くんとね、付き合うことになったの。」

席がたまたま隣になってから気になりだしたという、クラスでも人気上位の男子と付き合えることになったという報告を聞いて

私は笑顔で

「よかったね。」

と、言ったはずだった。


それなのに、目頭から熱いものがあふれて咲彩の笑顔が見えなくなってしまう。

息が詰まる。

本当のことを、言いたい。

否定されるって、私の思いが届くはずなんてないってわかっているのに

どうしてちゃんと笑ってあげられないの。


「純?え?なに?どうした?」

咲彩が状況を飲み込めずにあたふたと私の頭を撫でた。

「ごめん、もしかして、純も、良くんのこと、、、好き、だった?」

「ちが、違うよ。違うから、大丈夫。」

咲彩が心配するから、早く涙を止めたいのに、そうやって優しく頭を撫でてくれるんだから、余計に、しがみつきたくなってしまうんだ。

「なんで?早く言ってよ。悪い噂かき集めてあんな男やめろって言ってくれたら、もっといじわるしてくれたら。どうして恋愛相談聞いてくれたの、どうして早く言ってくれなかったの。もっとマシな報告の仕方だってあったし、それに。」

「違うの。ほんとにほんとだよ。私が好きなのは良くんじゃないよ。」

咲彩がそこまで私のことを気にしてくれたんだ。

もしも私と好きな人がかぶっていたら、一番好きな人を私に譲ってくれるって言ったんだ。

だから、もういいじゃない。

ちゃんと、笑ってあげないと

「よかったね、おめでとう。これからもずっと友達でいてね」

テンプレートのようなセリフを言わなくちゃいけない。

わかってるけどね

でも、私、そんな可愛い女の子にはなれないよ。

幸せそうな顔してさ、ずっと隣にいるのに私の気持ちには全然気づかないんだもん。

だから、ちょっとだけ、困らせたくて

咲彩の唇を突然奪った。

赤い夕焼けに照らされて色づいた頬はただただ美しく、そして柔らかい唇から感じる温度はやけに温かかった。

もっと、欲しい。

全部欲しい。

誰にも渡したくない。

手も足も髪も胸も咲彩が私のものになればいいのに。

「ちょっと、なにしてんの。」

ひっぱたかれればいいと思っていた。

やめて気持ち悪い。触らないで。今後一切近づかないで。大嫌い。

そう言ってもらえればいいと思っていた。

「どういう、こと?」

困惑した表情で咲彩が尋ねる。

「私が好きなのは、咲彩だよ。」

言葉を失って立ち尽くす咲彩に、言った。

「2番でいいの。私のことは遊びでいい。もちろん咲彩が私に恋愛感情なんて持ってくれなくていい。私が触れても怒らないでいてくれたらいい。たまに一緒に出かけて、たまに一緒にご飯食べて。それだけでいいから。だから、だから、咲彩を好きな私のこと、捨てないで。」

これ以上嘘をつけない。

ノロケ話なんて聞かされたら吐きそうになる

彼氏といっしょにいるところをみたら刺し殺してしまいそう

だからね、捨てないでって言ったけど捨ててほしいの

こんな私のことなんて忘れてしまって

かえって来たのは意外な言葉だった。

「わかった。純の気持ちにこたえられるかどうかは別として、気持ちはちゃんと受け止める。ちょっと時間ちょうだい。」

「いやだよ。私もう友達として仲良くなんてできないのできないの。」

「じゃあ純の好きなようにしてくれればいい。手つないでもいいし、キスだってしてもいい。純と一緒にいる方法がそれしかないのなら、それでもいいよ。」

私が咲彩の一番になることはないんだろうな。

きっと友達の延長線上でそれは交わることがない。

それでも私は嬉しかった。

否定されなかったってだけで喜んでるんだよ、低レベルすぎるでしょ。

それでも、それでもね、今度はうれし涙があふれて、咲彩の胸の中で泣き崩れた。

この時がずっと続けばいい

誰にも渡したくないのに

私はあなたの二番目なんだ


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二番目でかまわないから 紅雪 @Kaya-kazuha

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