太鼓の音が響くころ
揣 仁希(低浮上)
とある名古屋の熱田の町で
秋も随分と深まり、紅葉が山を彩るころ。
僕の住む町も、すっかりと秋の装いを整えている。
「お〜い!ハルキ!」
「やあ、トモヒロ。遅かったじゃないか」
高校生活も2年目に入り、僕達はまた同じクラスになった。
小学校からずっと一緒にいるから10年以上の付き合いになる。
「悪い悪い、道が混んでてな。踏切が全然開かなくって参ったぜ」
「ほら、早く行かないと親父さんにどやされるよ」
毎年この時期は秋祭りがあり、今年は僕達も参加することになった。
というか、無理やり参加させられるんだけど。
年々町の子供の数が減ってくるのと同じで、若い人は都心の方に出て行くし、お年寄りは流石にちょっときつくなったりで、地元の中学生や高校生が駆り出されるのだ。
「親父が変に気合い入れてやるから大変なんだよな。もういい歳なんだからいい加減にゆっくりすれば良いのに」
「ははは、そう言ってもちゃんと親父さんの言うことは聞くんだろ?」
「そりゃなぁ、親父もだけどお袋も怖いからな」
僕とトモヒロは2人で秋祭りの準備をしている町内会の集会所に向かう。
「そういや、今日はチカちゃんも来るんだろ?ハルキお前、カッコいいとこみせろよな!」
トモヒロはいつかみたいに、僕の背中を力強く叩く。
「わかってるけど、近所の女の子の目当てはトモヒロだろ?」
トモヒロは2年になっても相変わらずクラスの人気者だ。
おまけに今年の秋祭りでも1番太鼓を任されている。
最近では上級生にも人気があり、きっと今日の予行練習にも結構な数の女子がくるに違いない。
「なに言ってんだ!今日はお前がいいとこ見せろよ!俺は二番で充分だ」
そうこうしているうちに集会所に到着する。
広場には、本番さながらの太鼓がズラリと並び、大人達が入念に手入れをしている。
「おう!トモヒロにハル坊!遅かったじゃないか!時間ギリギリだぞ!さっさと支度してこい!」
トモヒロの親父さんに促されて僕達は支度をしにテントに入る。
「あっハルキくん」
声をかけられて振り返ると、そこには着物姿のチカちゃんとトモヒロのお母さんが立っていた。
「チカちゃん?それ?」
「あのね、トモヒロくんのお母さんが貸してくれたの。変かな?」
「ううん、すっごく似合ってるよ」
チカちゃんは金魚の柄の着物を着て髪も結ってすごく可愛いかった。
2人で顔を見合わせて真っ赤になってどうしていいかわからなくなる。
「ほらほら、さっさと行きな!チカちゃん、あんたもちゃんとハルキを見といてやりな」
トモヒロのお母さんに半ば追い立てられて僕は広場に出ていく。
「よ〜し!全員揃ったな!なら始めるぞ!」
「「はい!」」
「先ずはお囃子の音あわせからだ!それから太鼓の練習もやっとけよ!」
地元の中学生達がお囃子の練習を始める。
僕達も、太鼓の練習を始める。
ピーヒャラピーヒャラ
どん!どん!
ピーヒャラピーヒャラ
どん!どん!
しばらくトモヒロの親父さんの指示で練習した後、いよいよ本番に向けての予行練習が始まる。
「よっし!トモヒロ!いっちょやったれ!」
「おっしゃ!ハルキ!ちゃんと続けよ!」
「うん!任せて!」
ドン!
ドドン!ドン!
ピーヒャラピーヒャラ
ドン!ドドン!
ピーヒャラピーヒャラ
秋の深まる日の夜、僕達の町には夜遅くまで太鼓の音が響いていた。
主役はやっぱりトモヒロだったけど、チカちゃんは僕のシヤギリが1番だと頬を染めて言ってくれた。
シヤギリ(二番太鼓)の僕が一番ってなんだか可笑しかった。
太鼓の音が響くころ 揣 仁希(低浮上) @hakariniki
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