第28話 思惑と行動と
「言われた通り、人を手配しておきました。昔の仲間なので、この辺りには詳しいはずですし、今まで接触もしてなかったんでフーロの情報網の外にいる人物ってのにも当てはまります」
ヘイロの返事を聞いてケイオスはうなずく。あの言葉のあと、フーロは動揺を隠せなくなった。仲間の死ですら仮面をかぶったかのように振舞ったというのにだ。フーロはサイトを知っている。ケイオスは確信した。
そのためヘイロを動かした。
「必ず何かしらの動きを見せるはずだ。しかし、フーロは俺たち相手に隙は見せない」
「だから手の込んだことをするってわけですね。どこでこんな事を学んだんだか」
「何、すべては衛兵業務の合間に考えていた妄想のようなものだ」
フーロは自分たちの位置を常に把握するように動くだろう。だからこそ、それを逆手に取るしか方法はない。ヘイロが人を雇って店を見張る振りをし、それをあえて監視させる。その間にフーロは他の誰かをフロンティアへと差し向けるだろう。双角馬の馬車でもなければたどり着けないような悪路の先に、ゼクシアがあり、ボスがいるとケイオスは確信している。そのボスというのがサイトをそそのかした張本人だろう。サイトの父親としてどうしても言っておかなければならない事もある。
ここまでくればサイトが覇獣の素材を扱い武具や防具にしている可能性は高い。無理やり働かされているかもしれない。あの子はまだ成人したてなのだ。そしてその組織の中にフーロとオルトがいたのだ。組織の全容がどの程度の大きなものかは分からないが、覇獣の素材を扱うことのできるサイトは重要な位置にいるのだろう。
「犯罪組織でなければよいのだが」
王国に隠れて覇獣の素材を扱う利点というのがケイオスには理解できない。唯一理解できる場合は王国に反抗している場合のみである。裏社会で覇獣の素材を取引するよりも表に出してしまった方が高額なはずなのだ。そんな組織にサイトが組み込まれていた場合に、父親としてどうすればよいのだろうか。無論、無理やりに働かなされているのであれば助けなければならない。
オルドへの伝え方も迷っている。覇獣の素材を扱うような組織が存在し、それが王国で表立って活動しようとしていないことをどのように伝えればよいのだろうか。伝え方次第では、その組織は問答無用で犯罪組織として扱われるだろう。その際にサイトを助けられるかどうかは分からない。ケイオスの予想の中ではサイトは組織にとって重要な人物ということになるのだろうから。
「なんにせよもっと情報が必要で、そのゼクシアってのがどこなのかすら知らないのだからな」
「俺らは覇獣の素材のの流れだけを知ればいいのではないですか?」
「ヘイロはその集団に対して思うところがあるのか?」
「ここだけの話にしてほしいですが、このフロンティアは生きていくだけで精一杯なんです。それが少し王国の意に沿わないってだけで犯罪扱いされるのはたまったもんじゃないですよ」
「それは確かにその通りだな」
「何も王国を滅ぼしたいなんて思っていないんです。静かに暮らす、それすらも覇獣のせいでできないんですから」
フロンティアでの生活が長いヘイロはやるせない思いでもあった。彼らが覇獣の素材を隠したところで、本来ならばそれは犯罪ではないはずなのである。しかし、王都の貴族たちが放っておくわけもなく、理由をつけて根こそぎ奪いにいくのは明らかだった。オルドの考えも気になる。
「生きている覇獣を狩ることが、本当にできるのだろうか」
もし、本当にできるのであればそれは過ぎた力として王国が放置しておくわけがない。本当の任務はここなのかもしれないとケイオスは思案した。
***
「なるほど」
オルドは胸のペンダントに手を伸ばす。
家族とのつながりは人前では決して見せないように生きてきた。それは過去の自分と決別しているという意思表明に他ならなかったが、現実はそうではない。常に残してきた家族のことを想っていた。いつかまた、ともに暮らすことができれば、少なくとも安全な場所に移住する権利をあげることができれば。そう想いながら職務をこなしてきた。それが彼の生き甲斐だったと気づけたのは、皮肉なことに弟を亡くしたからだった。
イペルギアからでは知ることのできる情報は少なかった。それでもオルドはこのフロンティアの現状を王都がどう思っているのかを把握したいと思った。
団長への手紙はすでに出した。覇獣の素材を扱うものというのはケイオスに任せておけば問題ないだろう。そのうち突き止めると思っている。
オルドは自分に何ができるのかを考えた。
やるべきことは覇獣狩りを見つけることではない。見つけた後のことを考えるのだ。
人員が足りない。力が足りない。それこそ、軍に近いほどの大きな力が欲しかった。
覇獣をみずから狩ることのできるほどの、大きな力を欲した。
過去の覇獣との闘いの文献というのはイペルギアにはほとんど残っていなかった。王都から取り寄せるしかないが、それも脚色してあるものしかないだろう。覇獣について詳細に書かれたものなど、ほとんどないに違いない。
ないならば、自分たちで作り上げるしかない。幸いにはここイペルギアには覇追い屋は多い。物資の補充をするためにはここまで帰らなければ足りないものも多く、全ての覇追い屋が開拓村に常駐しているわけではないのだ。彼らから、情報を集める。それが最善だとオルドは思った。
「やりすぎなくていい」と団長は言った。しかし、もう後には引けない。
やれることは何なのか。そして最終的に何をやり遂げたいのか。オルドは自問を繰り返した。そして、弟が何を成そうとしていたのかを知りたくなった。
家族が暮らしていたのはここではない。覇獣により近い地域で弟は何をしていたのか。ケイオスからの報告によるとフーロという商人と開拓村を関わっていたということが分かっている。何のために?
これ以上は考えても答えは出ない。そこまで考えこんで、オルドは動き出した。
続・覇獣狩りと職人 本田紬 @tsumugi-honda
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