異世界金融勇者 代物弁済であらゆる力を回収する財の神の祝福を受けた男

第1話 財の神の祝福を受けた男

アマービレ帝国の御前会議。国王と四天王と呼ばれる4人が会議を行っていた。武、魔法、知そして財を司る王国のトップ4だ。私は財のトップ。

こいつらに勝手に召喚されて強制的に転生させられた。しかも財、金の使い方を考えてくれという。およそ異世界にふさわしくない。しかし、アマービレ帝国は小国であり、列強に囲まれて地政学的には最悪の位置。国民は穏やかで戦闘能力は期待できない。魔法使いは少数しか生まれない。

唯一の強みは豊富な資源と商才を生かしての金儲けなのだが、それも列強各国から脅されて金を貢がされているようなものだった、私が来るまでは。

「フロリア皇国の魔法大隊が北方の国境に迫っています！」

魔法のトップ、ザカリテが突然立ち上がって報告した。ザカリテは魔法通信部隊を擁しているため、諜報通信部隊を管理している。

「意味のないことをする」

国王が苦笑し、私を見る。他の3人は複雑な表情だ。無理もない。かつては剣と魔法が戦いの主役だったのだ。

「まるごと回収しますか？」

私は頭をかきながら国王に訊ねる。

「フロリアの丘に帝国の旗を立てよ」

国王の言葉に私がうなずくと同時に、ザカリテが私の肩に手を置いた。甘いとろけるような香りに包まれ、視界が赤く燃えた。魔法の神に祝福された天才魔女がいつも私をエスコートしてくれる。

瞬間移動した先は敵部隊の真ん前だった。古典的な魔法のケープに身を包み、こちらに向かって突進してくる。

「たったふたり？　死にに来たのか？」

戦闘の魔法使いが叫ぶと、他の魔法使いが笑い出した。私はため息をついた。

「財の神ゲデウスの名において命ずる！　債権回収！」

私が叫ぶと敵の動きが止まった。全員の周囲に赤いもやがかかる。なにが起きたかわからないようで魔法を使おうと必死にあがいている。思わず笑いたくなる。君たちの魔法は借金の担保だから、金を貸しているこっちに手出しはできない。

「やっぱり全員債務者だったな」

ザカリテが微笑む。白い肌に浮かぶ笑みは見る者を魅了するが、手を出すと死ぬ。

「債権回収できないようだな。財の神ゲデウスの名において命ずる！　代物弁済！」

私が叫ぶと魔法力を奪われた魔法使いたちは、悲鳴を上げなら地上に落下していった。

「また強くなっちゃった」

金を返せない魔法使いから回収した魔法力は、ザカリテにプレゼントした。私には魔法のスキルがないからもらいようがないのだ。いつもこうだ。魔法も武力も知も借金のかたに回収するのは私だが、それを受けとるのは他の連中だ。

弱小国アマービレ帝国に転生した私は、財の神ゲデウスの神官となった。神の規律を学び、神の名の下に金融市場を創設した。商店や国家もそこで債権や株を売ることができる。この世界には金融市場というものがなかったので、お手本となるように国債を発行し、政府の息のかかった商店の株式を上場し、売買した。おそるおそる国債を買った他の国の連中は利子を受けとり、売買で稼ぎ、どんどん取引するようになった。

そして見よう見真似で自分たちも国債や株式を発行し、我が国のファンドに買わせるようになった。これまで借金だったものが別の形の債券に変わったのだ。私はそこに代物弁済を含むさまざまな条項を加えていた。我が国の発行した債券は莫大な資金量を背景に市場で流通している量はごくわずかだ。しかし他の国はそうではない。

これまでの口約束の借金とは異なり、神の名の下に創設された市場での債券には神の加護があり、それに反することは神への謀反となり、逆らうことはできない。

私は大量の債券を買いあさり、他の国の多くの商店の経営権をひそかに奪い、国家の資産を手に入れた。さらにこの市場の刺激で世界中にインフレを起こし、金融を流動的にした。ボラティリティ（流動性）が高ければ高いほど、プロにとってはチャンスが生まれ、素人にとっては破滅のチャンスが増える。

すでに時は満ちた。ほとんどの国の主要な資産は我が物となった。これからは債権回収だ。私はザカリテと共にひそかに前線に向かい戦略拠点を「回収」してきた。

相手がいかに強大であっても、「財の神ゲデウスの名において命ずる！　債権回収！」「代物弁済！」と唱えるだけで勝てる。

それでも気がかりはある。

世界のあちこちで神の祝福を受けない闇金業者が急増し、ダミー商店や国家を使ってマネーロンダリングを行っているのだ。そして分散して債権や株式を買い集め、誰にも気づかれずに支配する。大手の闇金業者はくつかの小国の国家主権を乗っ取った。

これからが異世界金融勇者の本番だ。

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