第3話 私はゾンビ(元勇者)に唇をくれてやる!

 ゾンビ勇者が勢いよく襲い掛かってくる。

 考えこんだ私は一瞬出遅れ、ギリギリのところでかわすのがやっとだった。


 もうやめてよ!

 あれ?なんでだろ?

 涙が勝手に溢れてくる。

 そっか、私、勇者のことを……。


 ふと、遠くの方を見ると女僧侶が抜き足差し足でゆったりと女賢者の投げ飛ばされた方へ向かっている。

 いや、走れよ!勇者はお前を狙ってねぇから!

 と、女僧侶を睨み付けると、彼女とばっちり目が合った。

 ビクッとして硬直する女僧侶。

 おい!何ビクビクしてんだよ!

 てか、そもそもの疑問。

 お前、今までどこにいたんだよ!


「走れ、女僧侶!早く女賢者を回復してくれ」


 女僧侶は激しく頷いて懸命に走り出した。

 が、そこでまさかの展開が起こった。

 私しか狙わないと思っていたのに、女僧侶が走り出したのと同時にゾンビ勇者も女僧侶に向かって走り出す。

 何!ゾンビ勇者は私を狙ってるんじゃないのかよ!

 今までの「ゾンビ勇者が私を追ってくる」っていう流れはどこ行ったんだよ!


「おい、勇者!こっち見ろ!」


 私はゾンビ勇者へ駆け出すと背後から飛びついた。

 それもおもいっきり。


 あれ?なんでだろう。

 まただ。

 ゾンビなんだから冷たいはずなのに。

 なんにも感じないはずなのに。

 こいつに抱き着くと心が温かくなる。

 じんわりとぽかぽかしてくる。


 あ、そっか。

 私はこのゾンビ勇者を好きだった。

 違う、好きだ。

 過去じゃない、現在進行形だ。

 この気持ちはそうだ。

 好きだ!大好きだ!

 全部思い出した。

 そうだ!見た目が少し違うから戸惑ってしまったけど、はっきりわかる。


 勇者は私を救うためにゾンビになった。

 で、女賢者がギリギリのところで、そのゾンビ化の魔法を呪いに変えた。

 呪いなら絶対に解ける。

 しかも、身内が変えた呪いなら!

 今度は私が救ってあげるからね、愛しの勇者。


 飛び付いては振り払われ、飛び付いては振り払われを繰り返しながら、私はゾンビ勇者を追いかける。

 もちろんゾンビ勇者のほうが速いに決まっているが、今は完全に復活してないのか私の足でも十分追い付けた。

 そして、再び飛び付き、ついにゾンビ勇者を倒すことに成功する。

 マウントポジションを取り、ポコスカ殴るがゾンビ勇者は一向に反撃してこない。

 反撃してこないばかりか、むしろ私からのを待ってるみたいだった。


「キスしろ!」


 遠くの方から女賢者の声が聞こえた。


 え!キス!?

 ゾンビと!?

 ムリムリムリムリムリムリムリムリ!!!

 あいつ、頭おかしいんじゃねぇの?


「愛するもの同士のキス!これが呪いを解く鍵だ!」


 あいつ、頭、おかしい。

 女僧侶も横で首を縦にふって、じっと何かを期待している。

 お前、ほんとにポンコツだな!


 

 その時、私の頭で全ての点と点が繋がり、合点がいった。

 そうか!

 そういうことか!

 ゾンビ勇者がずっと私の唇を奪いに来てたのは、これだったのか!

 キスをすれば呪いが解ける。

 ゾンビになったとしてもどこかに私を愛していた女勇者の気持ちが残っていたんだ。

 だから、自ら呪いを解こうと私に迫って来てたんだ。


 え、でも。ゾンビとキスって……


「早くしろ!時間がない!」


 え!時間制限とかあんの?

 聞いてないし!!


 でも、その蒼い瞳を覗くと、忘れていた過去が私の頭に次々と溢れてくる。


 弱虫と虐められていた私に声をかけてくれたあの日。

 初めて一緒にモンスターを退治したあの日。

 ダンジョンで迷子になった時も、魔導師にどこかに飛ばされた時も、変なドラコンに連れ去られた時も。

 真っ先に助けに来てくれたのは、あなただった。

 私の作った料理を美味しいと言ってくれたのもあなたがだけだった。

 私のレベルが上がる度に、一番喜んでくれたのもあなただった。

 そして、私の命を、ゾンビ化から救ってくれたのもあなただった。


 決めた!

 私はもう逃げない!


「勇者!私はこう見えても意外と重たい女よ」


 一瞬、ゾンビ勇者がにやっとしたように感じた。


「いい?恥ずかしいから……見ないでね」


 私はゾンビ勇者の目を両手で覆い、あの時と同じように優しくて唇を重ねた。



 女勇者が私を求めてくれた、あの時と同じように。

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ゾンビ(元勇者)が私の唇を奪いに来て、うぜぇ!! 桝屋千夏 @anakawakana

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