はい、異世界コールセンター、山田です

ちびまるフォイ

おかけ間違えのないようにご確認ください

「はい、こちら異世界コールセンタースタッフ、山田です」


『ほんともういい加減にしてよ!

 毎日毎日、家の近くで冒険者が戦闘するからうるさいのよ!!』


「うちはそういった窓口では……」


『あんたじゃ話にならないわ! それじゃあ担当者だして!』


「担当者はただいま席を外しておりまして」


『もういい!!』


ブチッ。ツーツーツー。


「はい、こちら異世界コールセンタースタッフ、山田です」


『もしもし? ちょっとお聞きしたいんですけどねぇ。

 どうすれば息子は部屋から出てくるでしょうか』


「あのぅ、うちはそういった窓口でもなくて……」


『そうなの? どこに電話すればいいのかしら?』

「担当はただ今席を外しておりまして……」


『ごめんなさいねぇ、また電話するわ』

「いや、だからうちはそういった窓口じゃ――」


ブチッ。ツーツーツー。



「はい、こちら異世界コールセンタースタッフ、山田です」


『おっ、めっちゃ声かわいいじゃん。いくつ?』

「え?」


『やまちゃんっていくつなの? カレシは? どこに住んでるの?

 今何歳? 好きな食べものは? 誕生日は? 血液型は?』


「えっと、その手のことはちょっと……」

『え~~いいじゃん。教えてよぉ~~』


「私にはお話する権限がございませんので。上司に確認しないと」


『上司も許してくれるって。教えてよ~~』


「ただいま、席を外しておりますので」

『おっけー。また電話するよ。ウェ~イ』



ブチッ。ツーツーツー。



「はい、こちら異世界コールセンタースタッフ、山田です」


『 わ た し だ 』


「……お名前よろしいですか?」


『今の言葉はおかしいぞ。君はそれでもコールセンタースタッフかね。

 お名前は名詞じゃないか。ただしくは"お名前を頂戴してもよろしいですか"だ』


「すみません……」


『そういうときは申し訳ございません、だ。

 まったく、君はどういう教育を受けているのかね。責任者を出し給え』


「ただいま、席を外しておりますので」


『ので、なんだ? 君の言葉の使い方はおかしい。

 改めて責任者に厳重注意しておく必要があるな。失礼するっ!』



ブチッ。ツーツーツー。



「はい、こちら異世界コールセンタースタッフ、山田です」


『もしもし!? まだ担当者はいないの!?

 さっきも、私の家の近くで冒険者がレベル上げでうるさいのよ!』


「担当者はまだ不在でして……」

『じゃあ、早く伝えてよ!!』


『ウィッス~~。もしもし? やまちゃん? 

 寂しくなって電話しちゃったよ~~』


「あのお客様、ただいま別のお客様の対応中でして」


『だれだれ? 女の子? 女子?』

『あんた誰よ! こっちは今取り込んでるのよ!』


『ヒュ~♪ 怒った感じもSっぽくていいね!』


『あんたとは話す気ないのよ!

 こっちはいつまでも戻ってこない担当者を待ってるんだから!』


『それじゃ、俺と一緒におしゃべりしない?

 ツンデレちゃんの好きなタイプとか聞きたいなぁ?』


『死ね!!』


「はい、こちら異世界コールセンタースタッフ、山田です」


『もしもし? さっき電話したものなんだけどねぇ。

 息子がまだ部屋から出てこなくって……どうしたらいいのかしら』


「ただいま、別のお客様の対応中でして……」


『そうよ!! 私が一番最初よ!』


『でも息子はもう昨日から何も食べてなくて……。

 部屋の前にごはんを置いても1杯しか食べてないし……』


「あのお客様……」


『昔はねぇ、冒険者になるんだってよく外で遊んでたんだけど

 どうしてこんなにふさぎ込んでしまったのか……』


『マジ? 俺、冒険者だけど、冒険者なんて超ヨユーだぜ』


『そうなんですか? それなら息子も部屋から出てきてくれるかしら』


『仲間探しにかこつけて女の子あさり放題だって知ったら、

 あんたのところの息子も喜んで飛びつくぜ。

 今度、3番道路のくさむらで合コンするから来なよ』


『ちょっと! そこは私の家の近所なのよ!?

 まさか、毎日レベル上げしてたのはあんただったのね!!』


『そりゃ、雑魚を倒して男らしさを見せなくっちゃね』

『うちの息子もできるでしょうか』


『しなくていい!! これ以上騒がしくしないで!!

 朝から日が暮れるまで毎日ガキンガキンてうるさいのよ!!』




「はい、こちら異世界コールセンタースタッフ、山田です」



『 わ た し だ 』


「大変申し訳ございません。ただいま担当者が不在な上、

 ほかのお客様も対応中でして……」


『私は君たちの礼儀作法を正そうとしているんだぞ。

 自分たちの間違いを正すほうが優先に決まっているだろう』


『なんだこのオッサン。やまちゃんを悪く言うんじゃねぇよ』


『なんだ君は』

『どーーも、冒険者ッス~~』


『まったく嘆かわしい……。

 冒険者などという職業ができて教育を受ける必要がなくなった弊害が

 こういう学のない若者を作ってしまうのか』


『世界の平和を願うのはマジ尊い願いじゃね?

 あんたみたいに、何もしないオッサンのがまずいっしょ』


『だったら早く平和にしてくれたまえ!

 そうすれば教育が世界に行き届くだろう』


『そうよ! さっさとラスボス倒して世界を救ってしまえば

 もう近所の近くで騒がしくされることもないのよ!』


『平和になれば……きっと息子も部屋から出てくれるでしょうか』


『たしかにぃ~~。つか世界平和になった夜も出歩けるんじゃねL。

 警戒心なくなった女の子を拾いたい放題じゃん!』


「あのお客様がた……」


『ラスボス倒すから、早く担当者出しなさいよ!』

『ラスボスの倒し方聞くので、担当者に代わってもらえますか?』

『ラスボス倒して君とデートする約束取り付けるから上司に代わってよ』

『ラスボス倒して私が世界を変えなくては。まずはここの担当に代わりたまえ』


「ただいま席を……あ、ちょうどお戻りになりました」




「もしもし? お電話代わりました、ラスボスです。

 で、どこの誰が私を倒すつもりなのか聞かせてくれませんか?」




ブチッ。ツーツーツー。

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