秘密の四重奏(カルテット)
ソゼ
秘密の四重奏(カルテット)
「話があるの」
呼び出されたのは、放課後の体育館裏。
ベタな場所に呼び出すなって思ったけど、私も彼女に用があったから、丁度良かったわ。
「来たわね」
彼女=メグミが私を見て言った。
体育館で、幾分日陰になっているとはいえ、残暑が続く毎日だった。
「なんの用?大学受験控えてるから、勉強しなくちゃいけないんだけど」
「まぁ、まぁ落ち着いて。ゆっくり話しましょ?」
メグミは、私の方にペットボトルを投げ渡す。
ミネラルウォーターだった。
「暑いんだし、ゆっくり話そうよ」
そういって彼女は、もう1本持っていたペットボトルを口に運ぶ。私は飲まずに、話を催促した。
「私、見ちゃったんだよね。あなたがこの前、駅前のラブホに男の人と入るところ」
「何の事?」
「これ、見て」
彼女は携帯を取り出し、私に見せた。
そこには、ホテルの入口に入る男女が写っている。
「この人誰なの?」
「・・・知らない」
「・・・」
「あなた、ナオキがいながらよく他の男と遊べるわよね。この写真学校中にバラまいちゃおうかな?」
「やめて!何度言ったらわかるの?私達は別に付き合ってないって」
「嘘よ!私からナオキを奪っといて」
「いい加減にして!前みたいに、ナオキと3人仲良くしようよ」
私と、メグミ、ナオキは幼なじみで、幼稚園から高校まで一緒だった。
高校に入ってメグミとナオキは、付き合い出した。
だが、2ヶ月前に2人は別れた。
「好きな人が出来た」
メグミは彼からそう、別れを切り出された。
彼女は、ショックのあまり2週間前まで学校を休んでいた。
だが、彼女が学校に来だしてから私の環境が一変した。
私とナオキが付き合っている。
そんな噂が学校中に広まり出した。
ナオキは、私から見ても整った顔立ちをしていて、人気者だった。少なからずファンがいる。
そのおかげなのかわからないが、変な嫌がらせが多くなった。
机の中の教科書が破かれていたり、鞄の中が水浸し。
友人からは仲間外れ等、所謂ベタな嫌がらせが続いた。
正直、辟易していて参っていた。
「もう、私達3人は以前みたいな関係は無理よ」
「そんな事ないわ」
「私が無理よ、あなたとは」
「どうして?」
「まさかナオキと付き合ってるなんて、思わなかった。私がナオキと付き合う前は、あなたに相談したじゃない?その時は親友だと思ってたわ、本当に。なのに、なのに、私を裏切って!」
「どうして、私がナオキと付き合ってると思うの?」
「ナオキが好きな人出来たって言ったの。あれは、あなたしかいない。あなた以外あり得ないわ。あなた以外女子とは話していないし」
「そんな!それだけの理由?」
「思い出すと、私がナオキからフラれる前、よく話してたわよね。怪しいわ」
「・・・」
「あら、何も言えないわけ?まさか図星?」
本当の事は、言える状況じゃない。
それに、今の彼女はどうかしてる。
以前の彼女は、優しく明るい女性だった。
こんな執拗な粘着質のある話し方や高圧的ではなかった。
彼女の中で、ナオキが全てだったのだろう。
そんな、ナオキが自分の元から離れ、嫉妬に狂い始めたということか?
もう、メグミは私の親友じゃない。
さて・・・
そんな事より・・・どうするか?
「あなたも、大変ね」
「・・・」
視線の先に、大きな石があった。
「ナオキと付き合ったせいで、変な嫌がらせされてるんじゃないの?」
メグミが背中をこちらに見せる。
「どうしたら、ナオキと付き合ってないって信じてくれるの?」
言いながら、石を手に取りメグミに近づいた。
「死んでくれない?」
「お前が死ね!!!」
メグミの頭を殴った。
メグミは、頭から血を流しあっけなく倒れた。
なんでだろう・・・
こんな行為をしておいて、妙に冷静な私がいた。
彼女のスカートのポケットから、携帯を取り出し、さっき見せられた写真を削除した。
「お兄ちゃんに迷惑はかけられない」
でも、メグミはどうして気づかなかったのだろう。
小さい頃から、よく私の家に遊びに来てたから、お兄ちゃんと面識はあるはずなのに。
それに、ナオキからメグミの事で相談されたなんて言えなかったわ。
「あいつ、束縛が酷いんだ。どこに行ってたの?他の女と何話してたの?何でメール返信遅いの?とか参ってて!なぁ、どうしたらいいかな?」
「好きな人が出来たとか適当に言って、別れたら?」
そんな事を言ってまさか私がこんな目に会うなんて。
「はぁ、それにしても暑いわ」
メグミからもらったミネラルウォーターが地面に落ちている。
拾って手に取ると、既に生温かった。
キャップを開け、口に運ぼうとした時、妙な考えが浮かんだ。
もし、メグミが私とナオキとの関係に気づいていたしたら・・・
もし、メグミがナオキから別れを切り出された理由を、知っていたとしたら・・・
そして・・・
もし、この水に何か毒を仕込んでたとしたら・・・
自暴自棄になり私と心中しようと、この水に毒を仕込んでいたとしたら・・・
「ハッハッハァ」
今の私は、どうかしてるわ。
飲まなければいいだけの話じゃない。
そんなリスクを犯さなければいいだけの話じゃない。
「・・・」
妙な好奇心が私を襲った。
彼女が知る筈がないんだ。
それに、彼女にそんな考えがあるはずがない。
大体、私達の関係は知られるはずがないんだ!
私は、ナオキとは付き合っていない。
ナオキとは、体の関係だけ。
私が付き合ってるのは、お兄ちゃんだけ。
キャップを開け、喉に流し込む。
乾いた喉に、潤いが訪れる。
何だろう、この違和感・・・
何か、嫌な味がした・・・
秘密の四重奏(カルテット) ソゼ @keyser-soze
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