第65話

 リュウが予約を取ってくれていた近くのカラオケ店に入り、色々と話した結果、ヒラリはうみのさんの双子の姉だという事が判明した。

 つまり海野さんではあるけど、あのうみのさんではないという事だ。

 なんともややこしい。

「あ、じゃあヒロト君はカヤの行ってるコンビニのお客さんなんだ。カヤ、ちゃんとやってる?」

「うん。多分。でもいつ行ってもなんか書いてるかな」

「ああー。なんか資格取るって言ってたからその勉強かも。仕事中は駄目って言っとかないと」

「にしても世の中狭いもんだなー」とリュウがしみじみと頷く。

 アヤセはさっきから機械で目当てのアニソンを探しながら、話を聞いていた。

 僕はもう訳が分からないままドキドキしていた。まさかこんな所でうみのさんの姉と会う事になるとは思わなかったし、それがヒラリだなんて予想外すぎる。

 しばらくみんなが歌を歌ったり、リュウがいつも通り色々な話をしたりしている間も僕の脳内は軽いパニック状態だった。

 二時間くらいして、ヒラリの携帯が鳴った。

 「ごめん」と言って取ったヒラリ。どうやらうみのさんと話しているらしい。

 その会話の途中ヒラリはこう言った。

「ああ、それならキョウちゃんに聞いて。知ってるから」

 その後、ヒラリが通話を切るとリュウが頼んだビールを飲みながら尋ねた。

「他にも姉妹いるの?」

「うん。手の掛かる弟がね。ちょっとリュウ君に似てるかも」

「マジ? じゃあ良い奴じゃん」

 そう言って笑い合うリュウとヒラリ。

 そこにアヤセが「何お酒飲んでんのよ? あんた未成年でしょ?」と怒っていた。

 一方僕はまたもや唖然としていた。

 あの日、自分が盛大な勘違いをした事に気づき、無性に恥ずかしくなった。

 結局その後、夜までご飯を食べたり、ボーリングしたりと遊んだけど、僕の頭はうみのさんの事でいっぱいだった。

 解散する前、僕らは連絡先を交換し、また遊ぼうと約束した。

 酔ったリュウをヒラリが気を利かせてアヤセに送らせた。

 その後ろ姿を見ながら、ヒラリは笑って言った。

「今日は楽しかったね。わたし、最近遊べてなかったからすごく気分転換になれたよ。ヒロト君、ありがとね」

「・・・・・・僕は別に何もしてないよ」

 ずっと呆けてただけだ。

 ヒラリは僕の方に笑顔を向けた。うみのさんが笑いかけてくれたみたいで心が跳ねた。

「ううん。私達はヒロト君にすごく助けられてるんだよ。ほんとだよ。あの時の、自分にはこれしかないって言葉。あれのお陰でわたしも覚悟が決まったんだ。もう諦めない。くよくよしないって。全部ヒロト君のお陰だよ。君は人を救える人なの。だから、もう少し自分に自信を持って。君は自分で思ってるよりずっと素敵だから」

 ヒラリは駅へと歩き出した。一人暮らしをしているらしく、僕とは方向が違う。

 数歩歩くと、ヒラリは振り向き、手を振った。

「またね」

 ただ、別れの挨拶をしただけなのに僕の顔が赤くなった。

「うん。また」と言って手を振ったけど、声が小さすぎてヒラリには届いてないだろう。

 そしてヒラリも人混みに消えていった。

 自分の町に帰って、バスから降りるとすぐそこにあのコンビニがあった。

 そこにはうみのさんがいた。ついさっき別れたヒラリの顔がそこにあって、なんだか不思議な気持ちになる。

 だけどやっぱりヒラリとうみのさんは違った。

 ヒラリの方が大人っぽいし、胸も少し大きい。

 改めて顔を見ると、気持ちが落ち着かない。

 あれは僕の勘違いだった。かと言って、何かが変わったわけじゃない。

 このままでいいのか? 

 そうもう一人の僕が尋ねる。

 よくないと、僕は答える。

 話題はある。あとは、勇気だけ。いつもそうだ。色々と考えた挙げ句、行動に移さない。

 そんな自分を変えたいとずっと思っていた。

 そのチャンスが今だ。ゲームでは出来たんだ。現実で出来ない訳がない。

 僕は大きく深呼吸をした。緊張している。

 大丈夫だ。ただ話すだけじゃないか。

 でもそれなのに今までクリアしたどのクエストよりも高難易度に感じた。

 さっき、ヒラリに言われた言葉を僕は何度も頭で再生させる。自分に自信を持って。

 でも現実の僕は本当にちっぽけで、と駄目な理由を挙げればキリがない。

「・・・・・・考えるな。行け」

 僕はそう自分に言って、足を動かした。

 コンビニに入るとうみのさんのいっらしゃいませーが聞こえる。

 僕は頭を真っ白にしてレジに向った。拳を握って顔を上げると綺麗な瞳と目が合った。

 胸が高鳴り、体温が上がる。だけど、声が出ない。

 うみのさんはぽかんとして僕を見ている。だけど次には優しく微笑んでくれた。

「どうしたの?」

 そう尋ねるうみのさんは本当に可愛くて、綺麗で、美しかった。

 僕は今持てる精一杯の勇気を振り絞り、声を出した。

「あのっ―――――――――」

 何を言ったかは覚えていない。でもうみのさんは僕の話を聞いて途中で笑い出した。

 それを見て、僕もなんだからおかしくなって、一緒になって笑った。

 夏の終わり、僕は少しだけど成長できた気がした。

 

おわり

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エンド オブ サマー ゲーム 古城エフ @yubiwasyokunin

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