第64話
コンビニ近くのバス停からバスに乗り、駅に向い、そこから電車で街へと出かけた。
久しぶりの外出だ。ガラスに映る僕は紺色のポロシャツに薄手のジーンズを履いている。
姉にも一応見てもらい、無難で宏人っぽいとなんとなく馬鹿にされた気分になる評価を貰った。
待ち合わせ場所の駅前は人混みで何が何だか分からない程だった。
本当に会えるのか心配になっていた時、僕に向ってくる爽やかなイケメン青年が手を振った。
リュウだ。
SF0のロゴが描かれた白いシャツにベージュの短パン。野球帽にサンダルとラフな格好をしている。
「ヒロトだろ? やっぱり、見てすぐ分かったよ。ヒロトっぽいから」
「そう? えっと、はじめまして、かな?」僕は緊張していた。
「いいよ挨拶なんて。もうずっと会ってるだろ」
リュウは爽やかに笑った。男の僕でも格好いいと思ってしまう笑顔だ。
「あいつらは? なんで女は約束の時間を守らないかな? おっと、来た来た。アヤセだ」
こっちに女の子が向ってくるのを見てリュウが言った。
「え? 会ったことあるの?」
「いや。でもアヤセには写真もらったんだ。ほら」
リュウが僕にスマホを見せる。
そこにはあそこにいる女の子が写っていた。髪を後ろで括った可愛い女の子だ。
アヤセは白に黒いボーダーのタンクトップにホットパンツを着て、スニーカーを履いていた。
「お、おまたせ」
緊張して頬を赤らめながらアヤセはいつもより大人しい声で言った。
「遅えよ。俺ですら五分の遅刻だぞ?」とリュウが笑う。
それを見てアヤセの顔が赤くなり、そっぽを向いて「う、うるさい。偉そうに言うな。女子には色々あるのよ」と口を尖らせた。
なんだか見てるとこっちまで恥ずかしくなる。
「あ、そっちはヒロト? あはは。なんか思ってた通りで安心したわ」
アヤセは僕を見て笑った。そんなに僕はヒロトっぽいんだろうか? キャラとは全然違うのに。日頃の言動かな、と少し照れる。
「えっと、初めまして」
「うん。初めまして」
そう言ってから、アヤセはリュウがヒラリを探して遠くを見ている隙に、僕に近寄り耳打ちした。
息がかかってドキッとする。
「ねえ、変じゃない?」
不安げにそう尋ねられ、僕はドキドキしながら首を横に振った。
「変じゃないよ。か、可愛いと思う・・・・・・けど・・・・・・」
僕がそう言うと、アヤセはほっとして「よかったぁ」と胸を撫で下ろす。
それを見て再確認する。アヤセにとっては好きな人と初めて会う日なんだ。オフ会を言い出しのもアヤセだった。
「お、あれじゃね?」
リュウが呟いた。
視線の先には白い襟がついたグレーのワンピースを着た女性が見える。黒くて長い髪に白いポーチとパンプスが栄えていた。
彼女はリュウのシャツに描かれたSF0のロゴを見て、笑顔で手を振った。
それを確認してリュウが「やっぱり」と笑った。
アヤセがヒラリに近づくと、二人は笑って話し合った。
互いに服が可愛いとか、仲良く褒め合っている。
一方僕はヒラリを見て呆然としていた。そんな僕にリュウが肩を回し、笑う。
「な? 言っただろ? ヒラリは巨乳だって」
確かにヒラリの胸は服の上からでも分かる程大きかった。
アヤセがスリムなせいか、余計に大きく見える。でも僕にとって、そんな事はどうでもよかった。
ヒラリがこっちに来て、笑顔で小さくお辞儀をする。
「どうも初めまして。ヒラリです。よろしくね」
「リュウです。よろしく」
リュウが僕の肩に手を回したまま挨拶する。
ヒラリがアヤセと顔を見合わせ、「リュウ君っぽい」と笑った。
リュウが「なんだよそれ」と苦笑する。
次にヒラリは黙っている僕に笑いかけた。大人っぽい仕草がヒラリっぽかった。
「ヒロト君? こんにちわ。ヒラリです。今日はよろしくね」
髪と胸が揺れるのを見て、僕は口をもごもごさせながら、なんとか言葉を出した。
「う、・・・・・・うみのさん?」
僕がそう言うと、ヒラリはぽかんとした。
アヤセやリュウもだ。そして僕もだった。
ヒラリはアヤセの方を向き、「あれ、本名言ったっけ?」と聞く。アヤセは首を横に振った。
そう、ヒラリはうみのさんだった。
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