うららの湯

@MATUDONO

第1話 日本へ

電車の窓から見る赤いレンガの街並み今日で最後になると思うと少し寂しくなる。

春、私は日本へ引っ越す。

父の葬儀後、身寄りが無くなった私を引きとってくれたのは祖父母だった。

面識がなくでも微かに母に似ている祖母を見た時は安心した。

初めて行く母の故郷はどんな所なのだろう。インターネットや本で少し調べた。それによると四季がありきれいな所であると言うこと、そしていまの季節は春で桜が咲くこと。私の故郷のオランダは新芽が出てうっすら緑が生えかかり、色とりどりのチューリップが盛大に咲きほこる。私は花が好きなのでぜひ間近で見てみたいと期待すると同時に新天地での生活に不安を感じながら過ぎ去り行く街並みを眺めている。

暫くするとアムステルダム最大のスキポール空港駅に着く。

電車から降りて、人混みの中を歩く。

ここの駅は空港直結でそのまま空港を利用できる便利な空港だ。

私は飛行機の搭乗手続きをするためカウンターへ行く。

「Toon mij alstublieft uw paspoort」

「Hier is mijn paspoort」

「Heb je iets om aan te geven?」

「Nee,ik heb niets om aan tegeven」

所定の手続きを終え一息つきターミナルに向かう。

時間を見るとまだ出発の時刻の30分前だった。

椅子に座り、ぼーと時計を見ていた。

すると時計の針が動く前に周りの人がざわめきはじめ、時計に指を指しながら何かを待っている様子だった。

私は気になり観察してると時計の中に人影が見えたかと思うと次の瞬間人が針を書いたり消したりして時刻を知らせていた。

これは実際には本物の人ではなく映像であった。たまたま近くを通り過ぎたガイドさんが説明していたのを聞いて知った。

暫くその時計をみて時間をつぶすことにした。

そして、羽田行きのアナウンスが流れいよいよ出発することになった。

初めて飛行機に乗る。緊張しながらいざ中に入るとそこは旅行先の話や思い出話等が聞こえてきた。和やかな雰囲気が漂う空間で、先ほどの緊張がほどけたのか席に座った時には隣のご老人と話をしていた。

出発のアナウンスが流れ、飛行機が音を立てながらゆっくりと動きだす。

窓側に座った私は窓を覗きながら速さを実感しつつあった。

そして滑走路に入り徐々にスピードが上がると共にGがかかってくる。

普段は電車等のGしか体感したことがなく、少し胸が押し付けられるように感じた。

それから急上昇後は安定飛行で雲の上を飛んでいた。

窓からいざ下を眺めると地図で見たパノラマそのものだった。

一生に一度しか見られないかもしれない風景を写真で何枚か撮った後、未だ見ぬ新天地での生活を夢見てね落ちした。

目が覚めた頃にはまだ外は薄暗く、景色は見れなかった。

アナウンスが流れこの上空は日本の上だと知った時にはもう目の前に東京のビル群が見えていた。

飛行機は大きく迂回後、緩やかに降下し始めた。

そして滑走路へ着地した。

「ここが、日本。母の故郷」


続く。

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