その二

第二話


私に家にいたくないという感情が強く根づくのに時間はそれほどかかりませんでした。二学期の期末テストが近づき、いつもに増して父と母の争いは激しくなりました。成績を左右するテストですからね。その頃から、私は本当に家にいたくないと思い始めました。だからといって、友達と遊ぶ気にもなれません。さあ、あっちもこっちも行き止まり、どうしましょう。行き止まりなら、仕方ありません、そこの沼のような抜け道を通るしかありません。

私は、新たなる道を発見しました。それは、1人であのカフェに行くことにしたのです。ただ、家にもいたくない、友達(?)とも遊べる気がしない。なら、1人で時間を潰すしかありません。

あのカフェにしたのには、特に意味はありません。立地がよかったからです。家から近く、両親が心配をすれば、すぐ帰って来れます。しかも、ある意味穴場スポットのような位置にあったので、それこそ路地の一角にクラスメイトに見つかる心配もありません。早速、今日にでも行ってみましょう!

カランカラァン

「いらっしゃい、お嬢ちゃん。お客さん第1号だね」

小さくお辞儀をすると、そこには長身美形男子が立っていました。なんということでしょう。美形の上の上の上を通り過ぎた美形ですよっ!!ただし、それ以上は何も思いませんね。同類発見の親近感しかわきませんね。

さて、カフェの端に座るとマスター?が珈琲を持ってきてくれました。

「私、まだ頼んでいませんけど」

「いいのさ、お客さん第1号だし」

「それ、嘘ですよね」

「どうして?」

「どう考えてもおかしいじゃないですか。半年前にもあった店が、今来た私が客第1号だなんて。」

「んー、それはそうだけどね。違うんだよ、君が1号さんさ」

「は?何を言っているのですか」

この人の言いたいことが全く持って理解出来ません。

「君が、来たのを見てたんだよ。半年前に、うちは知る人ぞ知る店だからね人がよりもしないからさ~」

「はあ、それでこの店を見ていた私が1号ってことですか。面倒なんで、これは貰っておきますけど」

「貰っておくんだ~、所で、お嬢ちゃん名前なんて言うの?」

「あの、普通見ず知らずの人に名前聞かれて答えると思います?」

「僕の経験上、それはないね」

「でしょう」

と言って、珈琲を貰っておきました。

この人の第一印象は、「謎」です。若そうに見える割に、世間知らずのアホには見えないし、ちょっと古臭くて、今どきの人には見えない。

でも、学校の人たちよりは、頭が良くて、家の人よりは、周りを見ている人なんだと思いました。

何より、笑顔がイケメンでしたね!まあ、それはどうでもいいことですけど。ふふふ。

今までより、日常の面白みが増してきたのは、このひとに会ってからでした。テスト勉強のために、通うだけと思っていたのに、マスター(勝手に呼んでいます)と話すのが楽しくて、とても充実した時間で、カフェにいる時間が大好きで大好きで、たまらなくて、いつの間にか、カフェに通い自分の家のように思っていました。

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路地裏。 MW睦月 @mutuki_maimai58

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