路地裏。

MW睦月

その一



第零話


僕は一人でいつまでも待っている。君が来るのを。だからここはずっとなくならないだろういつまでもいつまでも。たとえ誰も来なくなってしまっても。



第一話

「名門お嬢様学校に通う高校二年生、見せかけの友達しかいない学校で意味もなく、日々を送ります。本当につまらない、人間はつまらないと生きていけません。無駄に校則は厳しく、学校帰りに遊べることもないので、常に家で勉強するだけです。だからなのか、もともとなのか、私(わたくし)は秀才です。特徴は、頭がいいこと、瞬間記憶能力を持っていること、パソコンが引くほどうまいこと、顔面偏差値67ぐらいのところ、絵がうまいところ、絶対音感なところ、かといって運動ができずひ弱なわけでもなく、50m走7秒台、武道をやっていてまったくもって弱いわけではない。この長々とした説明をまとめると、つまり「なんでもできる、できないことなんてほとんどない」ということです。好きなことは、周りにあるものをモデルにして絵を描きそこから物語を考えたり、歌を作ったりすること。あとは、周りの人には秘密で(見せかけの、友達以外居ないので)漫画が大好きです。」

自画自賛たっぷりの自己紹介を見つけました。

私は今の人生にうんざりしています。そんなある日のことでした。

学校の帰りに、事件は起きます。いえ、事件というほどのことではありません。私は、いつも通りぼけぇっとしながら駅から帰っているところでした。そこに新たなカフェを見つけました。カジュアルなおしゃれな感じで、自然の空気を感じさせるような雰囲気であふれていました。まぁ、私にはどうでもよかったんですけどね。何も事件じゃないですよね。ごめんなさい。でも、この出会いは私にとって運命的なものでした。

そんな、新しいカフェを見つけたのは、緑のにおいが頬を撫でるような季節でした。そんな季節は嵐のように過ぎ、半年が過ぎました。受験もだんだんと近づき、周りの子たちが少しピリピリし始めたころ、私にも少しずつですが変化がありました。いえ、私ではありませんね。私の両親たちです。

父は、私にこう言います「いい大学に行って、私の後を継ぎなさい」と。母は、こう言います「お父さんの言っていることなんて気にしなくていいからね、あなたの好きなような道に進みなさい」と。母は優しい人です。私に自分の未来を押し付けるような人ではありません。父だってそうでした。少し前までのはなしですが。

うちの父が経営していた、会社の経営が傾いてきた、このころの父は少しずつ少しずつ荒れていきました。母のことを溺愛していたので、母には決して当たりませんでした。私にも絶対に当たったりはしませんでした。家族が何よりも大切だったんでしょうあの人にとっては。けれど、その怒りは家族以外のものにどんどん向いていきました。酒におぼれ、絶対にすることのなかった賭け事やら、たばこやら。法に触れないようにとだけ、気を付けていました。でも、ある時のことでした。きっかけは私でした。いつも、全ての科目で一位の私が、苦手な数学で二位になってしまいました。父にその悲劇を伝えると。

「おまえ、二位になってしまったのか?そんなんでは、私の後を継げないではないか」

父は、今までも「後を継げ」と言ってきたものの、強制をしたり、強くは言いませんでした。恐らく、私に何も言わなくてもそうなってくれるだろうと確信していたのでしょう。まあ、父の予想通り私も、そうするつもりでした。ですが父は初めて私に強く当たりました。

「なぜ、お前までだめなのか、意味が分からない」

バァン!ガシャン

大きく、机が倒れ机の上の花瓶が割れました。

「くそ…」

私はただ、あぜんとした表情で突っ立っていました。

「どうしたの、あなた駄目よこの子に当たっては」

「おまえ、お前にとっての一番は私じゃないのか?こいつなのか?」

母を溺愛していたという気持ちと、怒りという気持ちが合わさって出た言葉だったんでしょう。私は無言でその場を去りました。何とも言えない気持ちになったからです。

経営が傾くのは仕方のないことでした。別に父は悪くありませんでした。父の会社が持っていた、独自の技術が何らかの方法で、外部に漏れそれが世間に出回りました。そして、その技術どんどん使われ、経営は立ち行かなくなりました。

つらい日々はそこからでした。母をあんなにに大事にしていた父の姿はもうなくなり、母と毎日のように私をめぐって、喧嘩をしました。そんな日々が続く家に、いたくないという感情が私に芽生えるのは、どう考えても時間の問題でした。


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