1章 遠征隊選抜試験編
第1話 自分は凡人系勇者なようです
「今日の授業は〜…1時間目から6時間目まで魔法訓練と。うん!舐めてる!」
1週間前、
とは言え、別に毎日に絶望しているわけでは無い。
\ピンポーン/
来やがったか。誰なのかは分かっている。なんせ毎朝同じ時間に同じ奴が訪ねてくるのだから。間違い無い。あの中二病野郎だ。
「はいはーい、今行くよー」
急いで玄関を開けると――
「遅かったなハル。ジーク=シュトロハイムがお前んちの玄関に見参だ。」
ほら見ろ。誰ですか?この変態イケメンにオレの家の住所教えたの。末代まで呪っちゃうよ?
「わざわざ来てもらって悪いな。別に毎朝来なくたっていいんだぜ?」
「案ずるな。」
案じてない。友達いねえのかてめえは。
「ブレザラ!!」
オレの右手からオレンジ色の炎が
まだダメだ。オレは魔法の才能はそれなりにあるつもりだが、身体能力は人並み以下だ。だからどうしても魔法主体、オレの場合は炎魔法のみで戦っていかなくちゃならない。となれば、もっと威力と範囲を強化しなければ話にならない。こういう時はその手の熟練者に教えを請うのが一番だ。
「オレの知り合いで魔法が得意な奴は…」
頭の中に尖り頭の少年が浮かんだ。リクは「ガラクタ」の動力源に雷魔法を用いてたっけ。充電効率がなんたらで上級魔法「サンダラ」まで使えてた筈だ。いつも冷たくあしらってるリクに改めて魔法を習おうなんて、虫のいいことはわかっている。これを機に少しばかりあいつの発明品を見てやるか…。
「なんだ、ハルか。悪い。今忙しいんだ。」
そう言ってリクはそそくさと訓練場を出て行ってしまった。テンション低いな。あいつらしくない。もしかしてあれか?オレが『ドキドキシルちゃん』の4巻を無くしちゃったことに怒ってんのか?その件については、臨時休校明けに謝罪したんだがな。実在のモデルがいるとは言え、漫画のキャラに恋するような奴だからな。あり得る。
しかし、どうしたものか。よくよく考えてみればオレには殆ど友達がいなかった。
「…の」
ん?待てよ?オレもしかして…孤立してる?
「…ません」
ぼっちなの?今までジークやリクを鬱陶しいと思っていたが、もしやあいつらは友達のいないオレを気遣って仲良くしてくれていたのか?そうだとしたら…。オレは…。
「あのっ、すいませんっ!聞こえてますかっ?!」
「ふえっ」
びっくりして変な声が出ちまった。見ると、そこには可愛らしい顔立ちの女の子が立っていた。童顔?って言うのかな。それに綺麗な銀髪。胸も控えめで素晴らしい。てかジークにしろ、この子にしろ、うちの学校って顔面偏差値高くね?学園ラブコメでも始める気ですか?
「あっ、あの…。ハルくん、ですよね?あの、これ…落ちてました。正門の花壇のとこに」
少女は顔を赤らめながら恥ずかしそうに紙袋を差し出してきた。中には何やら薄い本のようなものが入っている。ってこれ、オレがリクに借りてた『ドキドキシルちゃん』の4巻じゃねえか!恥ずかしっ!いろんな意味で薄い本を女の子に渡されるなんて!
「あ、ありがと」
今度はオレが顔を赤らめながら恥ずかしそうに礼を言った。穴があるなら入りたい。空に穴でも空かないかな。不謹慎か。
「あのっ。ハルくん、魔法を習いたいんですよね?私、知ってます。炎魔法が凄い人…。紹介しましょうか?」
マジですか!いや、もう正直に言うと、魔法なんてこの際どうでもよかった。オレはただ、オレの荒廃した童貞ライフに突如舞い降りたこの天使とお近づきになりたいだけだ。それさえ叶うなら口実なんてどうでもいい。
「あ、本当ですか?じゃあ時間もあることだし、お願いしてもよろしいですか?えーと…何て呼べば」
「…ル…アです…。そんなことより早く行きましょう!」
名前の部分がよく聞こえなかった。オレは難聴系主人公じゃないが、流石にこの子の声が小さすぎた。何でそんなに恥ずかしがるんだろう。
「『ローズさん』なら、いつも通り理事長室にいる筈です。」
理事長室?オレに紹介してくれる魔法の師匠は生徒じゃないのか?だが、『ローズ』なんて名前の教師はいないし、勿論理事長もそんな名前じゃない。何者なんだろう。まあ、行ってみればわかるか。
理事長室は訓練場を出て、渡り廊下を抜けてすぐだから、最悪、毎日理事長室と訓練場を往復するようなことになったとしても大した問題はないだろう。それどころか、この天使と一緒に過ごせる時間があと少しで終わってしまうと思うととてつもなく惜しい。理事長室もっと遠くに配置しとけ!地下とかに!
…。オレの願いは通じたようだ。この調子じゃ、理事長室までには簡単に辿り着けそうにない。
どうやら、校庭で生徒同士の喧嘩が始まろうとしているらしく、それを一目見ようと大勢の見物客が廊下を占拠していた。とてもじゃないが通れそうにない。
「あのーどうします?ちょっと待ちますか?」
オレはそう言いながら横目で彼女を見た。が、聞いているそぶりはない。窓の外の騒動に見入っているようだ。
校庭では、男女が互いに睨み合っていた。片方は、燃えるような真っ赤な髪をしたロングヘアの少女。遠くて顔はよくわからないが、これまた美女の匂いがする。対して、男の方は、黒髪に長身のイケメン。ってお前かよ!おいジーク!こんなとこで何やってんだ!
「貴方…。それは私が『ローズ=ベルガモット』と知っての愚行かしら?」
「知らんな。それに、例え貴様が誰であろうと、友を侮辱するような輩は決して許さん。」
ローズ?今ローズって言った?それに友ってもしや…。
「友?アハハハハ!それはスキャンダルじゃないかしら?――かの天才剣士には凡人をペットにする趣味があっただなんて!」
凡人言うな!おそらくだが、ジークの言う友ってのはオレのことだ。あいつに他の友達がいるとは到底思えない。このままじゃマズい。先にジークが手を出せば、あいつは退学になるかもしれない。いや、もっと悪いことに…。
「ちょっとあいつ止めてくる!またあとで!」
固まっている少女にそう言うと、オレは校庭に向かって一目散に駆け出した。
「おいジーク!何してんだ!」
オレは校庭に着くが否やジークに向かってそう叫んだ。かなり険悪なムードだ。両者一歩も引かず、だだっ広い校庭の空気を完全に支配していた。足が震える。
「ハルか。下がっていろ。こいつは俺が仕留める。」
何言ってんだ!頭冷やせバカ!中二病ってそんな危なっかしいもんだったか?!混沌を統べりすぎて、カオスのエンターテイナーになっちまったか?!
そうこうしているうちに、ついにジークは訓練場から持ち出してきたらしい片手剣に右手をかけた。それとほぼ同時に、向かいあった少女の左手から赤い光の粒が散り始める。
「ちょ、お前いい加減に――」
そう言いかけた時、少女の後ろからぞろぞろと人がやって来た。オレと同じように喧嘩を止めに来たのか?
「おいローズ!お前、ボクの許可無しで一体何をしてるんだ?」
見ると、肥満体型の金髪の少年が凄い形相で『ローズ』を睨んでいた。制服は着ておらず、代わりに童話に出てくる王子様の様な格好をしている。手には白い手袋。オレに匹敵するくらい性格が悪そうだ。
「全く、犯罪者の分際で調子に乗りやがって。本当ならお前は家族共々死刑なんだからな?それを『シルヴィア』たんが泣いて頼んできたから、ボクがわざわざ助けてやったんだ。それなのに恩を仇で返す気か?」
少年はニヤリと笑うと、今度はジークの前に進み出た。それに合わせて背後に控えていた5、6人の女生徒達も歩を進めた。よく見ると、さっきの銀髪の少女もいる。こいつの取り巻き、と言ったところか。
「お前の噂は聞いているぞ。剣術が得意なようだな。お前くらいならボクの親衛隊に入れてやっても構わないが…」
「くれぐれも図に乗るなよ?『ファーゴット=フルブライト』を知っているな?
早口でまくしたてると、ピローとその取り巻きは校舎に戻って行った。俯いていたローズはこちらをキッと睨むとピローの後を追いかけて行った。
まだ足の震えが止まらない。オレが一体何をしたって言うんだ?なぜローズは最後、ジークではなくオレを睨んだ?
結局、ローズに魔法を教えてもらうことは無理だった。あのピローとかいうカス野郎がいる以上、あっちも下手なことはできないだろう。それに、ローズはオレに何らかの敵対心を抱いている訳だし。女の子に対して常に紳士でいるオレに何の落ち度があったと言うんだよ。やっぱあれかな。あの銀髪の女の子が『ドキドキシルちゃん』の件を、言いふらしたんかな。もう学校行くのやめようかな。
「ローズ=ベルガモット…精神、魔法、身体能力。どれをとっても同年代で彼女に勝るものはいないだろう。流石はベルガモットの血を継ぐ者だな。ジーク=シュトロハイム…ほう、いい数値をしている。面白いことになりそうだな」
「ピローよ。見極めろ。お前に足りぬものは何なのかを。この『遠征隊選抜試験』で」
こんな完璧で平和な世界救うのに勇者は100万人も必要ですか? @Fukuroooo
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