因果判明
第4話 僕のうわごと
昨夜の午後九時頃、皆川市ひろむ町で古懸一家を惨殺したとして、住所不定無職の山岸亘容疑者が逮捕されました。
逮捕当時、山岸容疑者は同市の隣町である郷町のアパートの天井裏に潜伏しており、それに気づいたアパートの住人が通報。天井裏で寝ていた山岸容疑者を住居侵入罪で現行犯逮捕し、ひとむ町の殺害を認めたことで、殺人で再逮捕されました。
山岸容疑者は動機について『家族はひとりでも抜けたら駄目』。『お婆ちゃんが死んでピースが欠けた』。『彼等は〝ちぐはぐ〟になっている』などと語っており、その意図について、捜査本部は詳しく調べるとした上で、他にも余罪はないか捜査しているとのことです。
次のニュースです。
週刊平成 十一月十五日号
《屋根裏の殺人鬼 奇怪なうわごと》
数週間前、皆川市を騒がせた一家惨殺事件はまだ記憶に新しい。
手口の残酷さと動機の不可解さに反して、どこか滑稽な逮捕劇として広く耳目を集めた事件だが、本編集部は最近、奇妙な噂を聞いた。
というのも、山岸被告がA家宅に潜伏したと供述した日から、仲睦まじい三人家族のもとに、夜な夜な奇怪な現象が起きたというのだ。
取材に答えてくれたのは、被害者でもあるA家のご夫人淳子さん(仮名)。
彼女は山岸被告が天井裏に潜伏した翌日──つまりA家で祖母の佳枝さん(仮名)の告別式が行われ、その参列者として山岸が訪れた折り、そのまま屋根裏へと棲み着いた日の夜であるが──急に夫の達夫さん(仮名)がうわごとを言い出したという。
その日は気に止めなかった淳子さんだったが、次の晩、悪夢に魘された。
夢の中で、亡くなったはずの佳枝さんが厳めしい形相で睨んでいたというのだ。そして目を覚ますと、寝汗をびっしょりかき、傍に居た夫の達夫さんからうわごとを言っていたと教えられた。そして奇怪なうわごとは更に続く。今度は一人息子の優くん(仮名)がうめきごえをあげたのだ。
淳子さんは、このうわごとが義母の佳枝さんのものだと分かったというが、なにを警告しているのか判然としなかったという。
そして次の晩。午後九時頃。
家族でリビングに集まっていると、ふと頭上からうわごとが聞こえてきたという。
ここからは、インタビューをした淳子さんの言葉を転記する。
※以下は本人に確認をとり、編集部で文字に起こしたモノである。
仮名以外、こちらでは手を加えていないことを留意してお読み下さい。
たつお、じゅんこさん、ユウちゃん。
いますぐここから逃げてちょうだい。いますぐに。はやく。
天井裏に、おそろしい殺人鬼がいるの。
三日前からずっと貴方達を朝な夕なに覗いていたのよ。
殺す機会を狙っていたの。
だからはやくにげて。お願いよ。
この男に殺される前に。はやくにげてちょうだい。
うわごと 織部泰助 @oribe-taisuke
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