第3話 神はどうして人を愛したのか

 僕たち魔物の社会について少しだけ説明しておこう。かのアマレルガルドの地には僕らの他にもゴブリンだとか名前のよく分からない魔物がたくさんの群れとなって住んでいる。しかし彼らには国とか政治とか、経済みたいな賢いものは何もない。あるのは非常に単純で合理的な共存共栄の関係だけだ。

 例えば僕らシャプマロク獣人がアマレルガルドに入る外敵を追い払えば、ひ弱なゴブリンの群れは感謝して僕らに貢物を贈ってくれる。これで僕らは広い縄張りを維持出来るし、ゴブリン達の安全も保証されるのだ。


 これは当然の事だが、外敵という言葉には君たちニンゲンも含まれている。僕らはアマレルガルドに侵入する冒険者を日常的に狩っていたし、時にはその残骸を口にする事もあった。

 だから僕が生まれて初めて見たニンゲンはきっと、もう動かないただの肉片だったのかもしれない。

 ただ、こういう話はあまりするべきでは無いと思うので止しておく。(僕が見た女騎士とゴブリンの話はいつか別の機会に書くかも知れない。)


 話を戻そう。僕が植物図鑑を見つけてから二度ほど季節が巡った頃、数日前まで元気にしていたはずの長男のデスペリウムが流行り病に倒れてしまった。僕は父や次男のデスクレイドと一緒に賢将リアースの元へ長男を連れて行こうとしたが、兄の弱りきった身体では長旅に耐えられるものではなかったのだろう。賢将の住処に着く頃には既に兄の体は冷え切っていた。

 本当に悔しかった。過ぎたことばかりを気にしても仕方が無いことは承知だが、当時の僕に知恵さえあれば兄を救う事が出来たのかも知らないと、今でも時折そう思う。


 デスペリウムは僕らシャプマロクには似つかわしくないほど優しくて、僕には勿体無いほど良き兄だった。だから僕と次男はリアース様に看取られながら燃えてゆく兄の毛皮のにおいを嗅いで泣いたのだ。


 墓に供えられたユンリルの白い花。花言葉は家族愛。その名前も、その意味も今だからこそ知っている。教えてくれたのはリアース様だ。僕はあの方から植物図鑑の読み方を教わり、物事を『におい』ではなく『なまえ』で覚える方法も教わった。人間への興味が生まれたのもその頃だったと記憶している。


 周りから変なやつだと思われ始めたのも丁度この頃だった。僕は野に咲く一輪の花を見て赤いバルベラの花だと答えた。だが女友達のクラムベリカは花を匂いでしか区別していないので、うまく話が噛み合わない。そういう事がしょっちゅうあった。もしかすれば僕の前世は人間だったのかも知れないが、未だに記憶が戻らないのでその線は薄い。


 時が経つに連れて、僕の狩りは全然うまく行かないのに言葉ばかりがどんどん上達していく。それに見かねた母が僕の尾を掴んで古城の外へと投げ飛ばした。


 「大きな獲物を捕まえてくるまで帰ってきてはいけません。」

 厳しい母に見捨てられた僕は、仕方なく家出をする事にした。

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だからお前は交尾が出来ない。 築山きうきう @kiukiu9979

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