円満な新婚生活。

タッチャン

円満な新婚生活。

11月11日。

僕は彼女と結婚する前に色々な短編小説を読んできた。その中で一際目立った作家がいた。

名前はジャック・リッチー。

彼の短編集を読んで僕は彼の虜になった。

その中で、「妻を殺さば」は本当に良く出来た小説だと思った。僕がまだ25才の頃だ。

そして僕の一番のお気に入りは「とっておきの場所」

と言う作品だった。これがまた面白かったのだ。

当時の僕は作品の中で主人公が自分の嫁さんを殺すなんて信じられなかった。絶対にしては行けない事だと思っていた。でも35才で結婚した今なら、僕は共感できる。主人公の気持ちが。

僕も妻に嫌気がさしてきた…

でも僕は殺しなんて絶対にしない。いや、出来ないと言った方がいい。虫も殺せない僕がそんな物騒な事など出来はしないのだ。

穏やかな選択、彼女に離婚を勧めよう。

そして、この日記は離婚をするに僕自身が有利な立場になれる様にありのままを書いていく。

今日が結婚して丁度1年目だから。


11月12日。

早速事件が起こった。

昨日は結婚して1年目の記念日だった。仕事が終わったら素敵なレストランで食事をしようと約束していたのだが、仕事が長引いてしまって彼女との約束を守れなかった。帰宅したのは深夜1時を回っていた。

帰って来るなり彼女は僕を罵った。2時間も。

僕は玄関で正座をして黙って聞いていた。2時間も。

だがいつも僕は正座をしている間は違う世界に行く事にしている。ユキと別れて独身生活を謳歌している僕を夢見るのだ。

今日はここまでにしよう。彼女が帰ってくる。


11月13日。

彼女は僕に向かってすっとんきょうな事を言った。

浮気をしてるでしょと。

仕事から疲れて帰って来た僕は適当に返事をした。

僕のその態度に怒ったのだろう。

彼女は僕のコートから名刺を取り出し、女の子の名前が書かれたキャバクラの名刺を僕に見せつけた。

それは接待で行った時に、隣に座った女の子が無理やり僕のポケットに押し込んだ物だった。

彼女に言い訳をしても無駄だった。

怒り狂った彼女は僕のスマホを真っ二つにへし折った。その細い体のどこにそんな力があるのだろうと僕は感心していた。正座をするのは慣れた物だと思っていたがやはり足が痺れる。

今日はここまで。


11月14日。

今日仕事から帰ってきた彼女はひどく不機嫌だった。

帰ってくるなりいきなり僕に弁当箱を投げつけた。

そして彼女は、今日のお弁当は全部茶色だった、

手抜きしたでしょ、ちゃんと作ってよと言った。

僕は自分のと彼女の弁当を毎朝作っているのだ。

毎日仕事で疲れているんだ、それくらい多目に見て欲しいものだ。

やっぱり足は痺れるな。

僕はそう思いながら彼女の説教を聞いていた。


11月20日。

日記を書くのを忘れてた。

僕は飽き性だがこれはいかん。

ちゃんと書き続けないと離婚するときに不利になるかもしれない。明日から毎日、書く。絶対に。

今日は特に書く事はない。


11月21にち、

よっぱらっていいる、、

今日は、ユキは、、実家に遊びにいっててる、、

家のなかはぼく1人だ、

飲むぞ、!、このまま帰ってこなくてもいいぞ!

ユキユキ、。?!


11月22日。

酔って日記を書くのは止めた方がいいと思う。

読み返してみると訳がわからない。

だがこれも立派な証拠になり得る。

僕はストレスでやられているのだと証言できる。

もうすぐ彼女が帰ってくる。

風呂と皿を洗わないと。

今日はここまで。


11月23日。

家の中にデカイ蜘蛛が現れた。

僕は蠅叩きを彼女に渡して隠れた。

彼女は言った。少し位男らしい所見せなさいよと。

僕は虫が苦手なのだ。僕はパニックになった。

気づいたら僕は彼女に土下座していた。

彼女はこう言った。

毎日肩たたきするなら私がやるよと。

そんなの御安い御用だ。


11月24日。

日記を読み返して見た。

これはなんの日記だ?僕はわからない。

全然わからない。

どうしてこうなったのだろう。

付き合っていた頃のユキはとても優しくて、友人達に紹介しても恥ずかしくない女性だった。

友人達は皆、羨ましがった。僕は浮かれていた。

なんでこうなったんだ。

わからない。

多分、彼女は結婚を人生のゴールだと思っているのだろう。

でも僕は違う。

結婚は第2の人生が始まるものと思ってる。

もうすぐ彼女が帰ってくる。

風呂を洗わないと。

今日はここまで。

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