ジュガシヴィリとジリンスキー

 激しい北風はまるで近衛騎兵隊の様に荒く、此処ベチロブルークは一寸の先も見えない白い暗闇に包まれていた。窓の外から見える風景は実に綺麗で残酷だった。


「・・・報告は以上です。それと個人的な意見ですが、我が軍の軍紀がやや乱れていると思われます。又ベチロブルークに向かう白軍の群れをキャッチしました、リーニン書記長同志。」


 リーニンは外の風景を見るのを止めた。口を硬く閉じ謹厳な表情を貼り付けた後、後ろに振り返った。其処には標準男性より少し大きめな一人の男が丸い眼鏡を通じて彼を目視していた。男の名前はアンドレイ・ポリシヤフノスキー・ソジリアと言う。十一月革命の時に我ら赤軍に寝返った将軍の内一人である。


「革命の危機だな。」リーニンは小さく呟いた。


「今こそ貴官の様な将軍が必要な時。戦争は私の得意分野では無い。」彼はハッキリ言った。そして少し表情を緩くした。


「感謝いたします、書記長同志。」ソジリアは礼儀正しい態度で礼をした。


「それではソジリア同志。言っても良い。」


 将軍が部屋から出た後にリーニンは書記長室の椅子に座り何時もの様に考え事を始めた。


(白軍だけでは無く奴等と手を合わせる邪悪な帝国主義国家たちにも注意が必要だな。彼らが共産主義を元として作られた体制を歓迎する訳が無い)


 一番危険な存在と化した国家はライヒ。かの国は精密な軍事国家で有りながらその力を持て余しているのが現状だ。我々ルーシー評議会連邦と直接的に国境線が繋がっておりやろうと思えば何時でも侵攻が可能な状態でもある。


 お次はアルビオン連合王国。世界中に自国の国旗を刺し、植民地とするのが運命の様に行動する自称紳士の国だ。スパイたちの報告によれば遠征軍の準備が整っているらしい。


 それ以外の国家たちも義勇軍ぐらいは派遣するであろうとリーニンは考えた。


 目を瞑りこれまでの道のりを回想する。ルーシー北部の大都市ベチロブルークで起きた革命は海外で逃亡生活をしていた自分の立場を一瞬にして変えた。亡命者から一躍共産主義の理想を叶える為の闘争に励む指導者として。


 オストラント地域の分離主義者又は民族主義者たちはツァーリに反対し連邦に所属した。しかしモスコーのプロレタリアが果敢に立ち上がらないのは理解できなかったし意外でもあった。きっとツァーリの凄まじい弾圧を受け自らの力で革命を起こす力が不足しているのだろうと了承した。


(そう言えばジュガシヴィリと言う騎兵隊長が最近南部戦線で大きな手柄を上げたと報告されてきたな。どんどん冷めていく人民の雰囲気も考えて宣伝に使うとするか)


 同僚達の意見によれば冷酷でどんなに非情な命令を部下に突き通すタイプらしい。所謂恐怖で人を支配する人間だ。だがそのお陰で高速昇進しているとも言える。


 リーニンはジュガシヴィリと正反対な男を知っている。その男の名はヴィクトール・ジリンスキー。好感を持てる顔つきと鋭い目つき。人々を圧倒させる演説能力は彼が党の有力者であって当然という評価を与える程だ。詩人としても才能があり、人民たちの応援を受けている数少ない党員だ。


(時刻は・・・十二時。本を読むときだな)


 リーニンは本棚から<共産党宣言>と書かれた本を開いた。

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おもちゃの銃 でぷらいず @susand54

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