おもちゃの銃

でぷらいず

内戦

赤軍白軍遊び

「動けっ!サボタージュと見なされる態度を取る者は即銃殺だ!」


(若いもんが年上に向かってあんな言葉を放つなんて、時代はかわったな)


 ベセリアスキーは内心そう考えながらその政治将校に嫌味を言いたかったが、如何にかして気分を抑え地面を掘り始めた。シャベルが不足して自分の手で掘らなければならない者たちに比べれば自分は貴族の様だ。シャベルを地面に突き刺し体重をかけ掘る。掘った土を窪みの外に捨てる。そう言った作業を何千回も繰り返す。疲れを解す為の労働歌を歌っては成らず、会話も禁じられた。若い頃にはかなりの力持ちだった彼は今、老い衰弱していた。掘る速度が瞬く間に遅くなっていく。


(若いもんがやれば効率も上がるんじゃないのか?)


たった一つ、彼を慰安させる物は家族の存在だった。小さくても頑丈に出来ている木造の我が家でストーブを温め、彼の夫人と団欒な会話をし、成長期である子と遊ぶ。それ以上の幸福は無かった。


(今日の労働が終わればジャガイモスープでもたっぷり飲めるだろう)


そんな考えをしていたら自然と何処からか力が吹き出てきた。老いた体に鞭を打ち、我が家に戻る為労働に励んだ。


ふと自分の穴の外を見回したら、既に暗闇が世界を包んでいた。遠く見える家たちの窓から眩い光が漏れ出ていた。その光は太陽の様だった。ベセリアスキーはそう思い嬉しそうにその光景を見つめた。


「時間だ!点検後、合格者は帰ってよろしい。」若い政治将校の声は甲高かった。


ベセリアスキーは静かに穴から出て点検を待った。二人の男が穴をすっと見回した後、合格だと知らせてくれた。彼は所々縫った跡があるコートで体を覆い家に帰っていった。


ベセリアスキーの家はポレイェール村の外側に位置していた。触ると軋む門を開け家の中に入るとマリヤとヨリナが嬉しそうに迎えてくれる。


「やった~、パパだ!」遊んでいたおもちゃを其処に置き、ヨリナは彼を抱く。可愛い自分の娘に抱かれた彼は機嫌を良くし、その場で抱き合った。笑うヨリナの姿は愛らしかった。


「遅くまで働いてきたのね、あなた。」暖かい心を感じられる声でマリヤが言った。


「ああ、労働は何時も辛い物さ。シャベルは自分とは合わないな。はは。」彼は労働の前に強制という言葉を入れたかったが万が一の為、発言しなかった。


「野菜スープを煮込んだの。あ全員席に着いて。」


ベセリアスキーとその家族たちは食卓に着きスープを食べ始めた。ヨリナが最初に話しを始めた。


「あのねえ、今日赤軍白軍遊びをしたんだけどね、毎日赤軍はポポピとその友達たちが独占してるの。私達白軍は毎日ポポピに負けるの~。意地悪でしょ!」ヨリナは涙顔をしながら訴えた。


赤軍白軍遊びとは最近子供たちの間で流行っている遊びだ。正義の赤軍と邪悪な白軍に分かれ木の棒等で戦うのだ。赤軍が不利になるその時、リーニン同志がやって来て赤軍を勝利へと導く。つまり白軍は絶対に勝てない不平等な遊びだ。その為、誰もが赤軍をやりたがり、そのせいで喧嘩も起きることがしばしば有る。


「はあ、赤軍白軍遊びは可能ならやらないって約束したじゃない?幼稚な遊びよ。」マリヤは論点が全く違う。普段から博識な彼女はこの遊びを子供たちには似合わないと思っていた。其れは彼も同感だったが・・・


「ママは何も知らない!」ヨリナが同情を欲しがっているのはその言葉で分かった。


(こんな時には一旦同情した後に、意見を言う方が良いな)


「ヨリナ。お父さんはヨリナの気分が良く分かる。正直に言えばちょっとポポピは意地悪だな。」そう言い、煮えたジャガイモをフォークで三個に割った後、口に入れ味わった。


「ちょっとじゃなくて凄い意地悪!本当に最低。」


「それじゃあ、一旦赤軍白軍遊びの前に二手に分かれて遊ぶんだ。そして勝った方が赤軍になるんだ。」


「・・・いいよ。皆に言ってみる!」ヨリナは感心したように彼の顔をみて頷いた。


そして話しはご馳走から、明日の授業まで幅広く展開した。食べ物と話しを満喫した彼は幸福そうだった。

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