第2話 加害者の違和感

怪我の状況を確認せねばと挟まった箇所を見ると、赤くなってはいるが、ジーンズを履いていたせいか、擦り傷もなく、受け身を取った時についた手にもなかった。

ただただ足が曲がっていて、力が入らないだけ。


とりあえずこれが片付いたら病院へは誰かに頼んで自分で行けばいいや…

そう思ったのは、今の職場に勤める前は地域の総合病院の救急で働いていたから。

ちょっとしたケガや風邪でも救急車を呼ぶ人がいて、この時期は熱中症の患者さんが多く、救急車が足りない事もよくあった。

だから、わざわざ血も出てないのに乗るのも…とためらってしまった。

乗ってた方が後々楽だったなぁ〜と思うのは後半になってからなので、これについては後半のドロドロ期をお楽しみにとしか言えない。


てな感じで、とりあえず次にと思ったのは会社への休みの連絡。

1日4時間しか働いていないパートの身。事故の処理だー病院だーとなったら仕事は遅刻して行ってもすぐ帰るってなりそうだし、休みの連絡を入れといた方がいいなっと思ったのは事故から10分後。

私はこんな状況なのにもかかわらず、会社への連絡は絶対だった。

けれど、携帯を取り出し電話しようとしたが、連絡先が登録してなかった。

就職してから10ヶ月だったが、10数年ぶりのデザイン業の復帰にもしかしたらすぐに辞めるかも…と登録を後回しにしてた。


慌てて手帳を探すも見つからず、家に忘れた事に気がつき、それならと夫に電話して

「交通事故にあって、轢かれたから会社休むって電話して!急いでるから!あとで話す!よろしく!」とだけ言い、「ちょっと!大丈夫なの!!ね!電話はするけど、大丈夫なの?」と聞く夫に「なんとかなるから大丈夫!よろしく!」とだけ言って切った。


私は今までの人生で遅刻は一度もない。学校でも会社でもバイトでも。

だから、真っ先にその事をなんとかしなくてはと思った。


その間、加害者は何をしてるかというと…

角の住人と立ち話。こちらを心配するそぶりもなく、楽しそうにしているのが見えた。

それを見て、怒りが更に増し「自転車壊れちゃったじゃないですか!」とキレぎみに言うと、「こうやって押せば動くじゃない!押して行けば?」という始末。

「は?タイヤがかんでブレーキかかっちゃってるじゃないですか!こんなんで行けるわけないでしょ!」と更にキレると、「じゃぁ、ここの人が駐車場に置いてていいって言ってるから、後で取りにくるとして、会社行きなさいよ!」と言い出した。


なーーーーーーーーーーーーにーーーーーーーーーーー!!!


「人を轢いておいて何言ってるんですか!それにね、私はパートなので、これ終わって行っても仕事する時間なんてないんですよ!」

「でも、そんなに仕事したいんなら行けばいいじゃない!」とヤツは続けた。


そーいえば、名前聞いてない…


「名前と住所教えてください!」私が言うと加害者は

「こちらから電話する事がないので教える必要はありません!」とキッパリ言い放った。


はーーーーーーーーー?!


何これ!何だコイツ!ヤバいヤツじゃん!!!

???

えーとえーと、なんか…なんだったか…過去にもそんな事が…聞いたような…


私は思い出していた。

この数年前、子供会の役員をしていた時に近所の当て逃げ事故の報告があったのを…

そーいえば、被害者は小学生で、犯人はその子のお母さんくらいの女性で

「大丈夫ですか?」って聞いた後に「気をつけて行きなさい」って言って去ったんだったな…


もしかして!!!コイツって!!!


それから慌てて、バンパー下と車体裏の傷を確認し、いつ聞かれても、車体を目の前にしていなくても説明できるように目に焼き付けた。


そして「警察に連絡してください!」私は意を決してこういうと、これでやっと何とかなると少し安堵した。


が、事態は想像していなかった方向へ向かっていく事になる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

最強の被害者 @HARU_Net

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ