最強の被害者

@HARU_Net

第1話 事故

9月2日午前9時10分、私はいつものように自転車に乗り仕事へ向かった。

通る道は花があふれ、途中の橋でいつも川の濁りと流れ、鳥、魚を眺めながら

ゆったりとペダルを漕ぐ…はずだった。



家からしばらくは狭い道が続き、この時間はデイサービスや宅配業者、ゴミ収集車の出入りが頻繁という事もあり、私は脇道を慎重に走っていた。


左に道のあるT字路にさしかかった時、エンジン音が聞こえた。私はいつもの宅食業者のトラックだとT字路手前で停車し左側を見ると、大きめのセダンが走ってきた。

「T字路なのにどうしてウインカーを付けないんだ?曲がらないのか?」

左は車止めのポールがあるから、きっと角の駐車場にでも停めるんだな。


ところが私にそのまま突っ込んできた。目の前の私があたかもいないかのように

少しもスピードを緩める事なく。


うわーーーーーーーーーーーーー

反射的にバンパーの直撃を避けようと自転車を右にひねりながら倒れたところを上から轢かれた。


轢かれたという表現が適切かというと、少し違う。

押しつぶされたんだ。


気がつくと私の目の前には巨大なバンパー。

横を見ると草。

私、轢かれたんだ…

 

数秒の出来事なのに、何故か私は冷静だった。


右のセットバックの伸びた草を見て、自分の位置を確認した。

止まらぬエンジン音から熱が伝わってきて、そこで急に怖くなって

車体から出ようとしたが、なかなか出られない。

車体の下に自転車が入り込んで、その自転車とアスファルトの間に私の右足が

つぶされるような形で挟まってる。


痛いというより、もっと轢かれるんじゃないかという恐怖で

無理矢理足に力を入れて外し、匍匐前進でずりずりと這い出た。


立とうとしても立てない。やばい。折れてはなさそうだけど…曲がった…神経やったか…

無傷の左足で立ってすぐさま「なんで止まらないんですか!!!」と怒鳴った。


すると、ゆっくりと中から女性が出てきた。

「大丈夫ですか?」そう言うと、落ち着いた様子で私を見てきた。


「何で止まらないんですか!!」怒りが収まらない。

その声を聞いて角の家の住人が出てきた。

どうやらその人と加害者は知り合いの様だった。

ここに自転車をしばらく停めていいかなど交渉してるようだった。

住人に快諾してもらったらしい加害者はゆっくりこちらに来て

おもむろに自転車を車体からひきずり出し、角の駐車場に停めた。

「あなた、仕事に行くところだったんじゃないの?だったら行きなさい。」


は? 


「は?仕事なんか行けるわけないでしょーーーー!轢かれたんですよ!!」

私は痛みよりも怒りで身体が震えた。でも、足が震えているように感じたのは

今から思えば痙攣だったのかもしれない…でも、その時は少しも痛くなかった。

早く、なんとかしなければと焦っていた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る