第198話 先物取引研修会 2

 毎日の価格が不安定な株であるが、さらにその将来を予測する不安定商品「日経平均先物」とはどういうモノか?


 今では普通のものになった先物であるがこの初めて出た時には全く「海の山とも山のもの」ともわからない代物であったのである。


 1日目の講義はこの本質に迫る内容であった。


 各証券外会社から選び出された代表者たちは黒板に書かれる先物取引の内容について真剣に講義を受けノートをとる。


 証券協会から派遣された講師は加藤先生といいラグビー経験者でガタイがでかい豪傑であった。


 彼はデカイ声で実に面白い例え話で我々に「先物取引の本質」を伝授してくれた。


 マイケル・ジャクソン


 言わずと入れた当時大人気のアメリカの歌手の名前を加藤先生はあげた。


 もし彼が3歳の時に「マイケル・ジャクソンと1万円で食事をする権利」と言うもの仮にあったとすれば、果たして買う人がいたであろうか?


 豪快だけでなく、なかなか面白い質問をしてくる。


 答えは当然「無名のマイケル・ジャクソンと食事をする権利」など誰も買わないと言うのが正解である。


 それはそうである。

 ハイハイしたての赤ん坊に1万円を払ってまで食事をするような権利など誰も興味はない。


 むしろ逆に金をもらわなければ、赤ん坊の食事の世話をしない。


 しかしこの時に「マイケル・ジャクソンの将来性」を信じて疑わない投資家がいて、10年後さらに20年後に「彼と食事をする権利」に高い値段が付くと判断したとしたら、この権利を買うであろう。


 これが「先物取引の本質」である。


 つまりマイケル・ジャクソンと「日経平均」を置き換えて考えて欲しい。


 将来今の株価よりもうんと上がると判断した場合先物の「買い」となる。


 おそらくであるが、一番マイケル・ジャクソンの売れっ子時代には100万円出しても彼との「お食事権」は買えなかったであろう。


 反対に「意に反して」彼の人気が失墜した場合や彼自身が死んでしまった場合(今は実際死んでしまったが)この権利は誰も見向きもしなくなり紙切れと化すのである。


 俺たちは加藤先生から、1年後の日経平均株価が上がると予想すれば先物を「買い」、もし下がると判断すれば「売る」と言う基本的な考え方をここで学んだのであった。


 このように最初は「堅苦しいだるい授業かな」と思って参加したこの研修会も、豪快な加藤先生の登場によっていっきょに実の多い学びの場となったのであった。


 余談ではあるがこの先物取引研修会は参加費用は10万円がかかっている。


 もちろんその費用は証券会社持ちである。


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バブル時代へGO! 証券会社の舞台裏へようこそ! 胡志明(ホーチミン) @misumaru

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