あとがき

あとがき


日露戦争は前述したとおり、単にロシアと日本が闘った戦争というだけではく、その両国の背景には列強各国の思惑と利益が複雑に絡んでいたために、その後の大戦のような連合国と枢軸国という概念はなくとも広義において第0次世界大戦と呼んでさしつかえなかろう。


その意味では貧乏村の田舎娘と大富豪貴族の結婚と揶揄された奇跡の日英同盟の締結こそがこの戦争の勝敗を決めたといっても過言ではない。


当時の全世界に対して威光と発言権を持っていたイギリスを味方にしたことによってのメリットは


1 戦費調達

2 無煙炭の確保

3 バルチック艦隊への各港での嫌がらせ

4 世界世論の誘導

5 スエズ運河の通行拒否

6 通信インフラの共有

7 アメリカへの仲介の補助


またロシアも露仏同盟でフランスと同盟を結んでいたのであるが、当時のイギリスとフランスのバランスを考えるとフランスがイギリスを敵に回してまでロシアを応援するリスクは負わないことをロシアの官僚は理解していなかったといえよう。


ただもちろん日英同盟だけでこの戦争を勝てたのかというとそうではない。


ここで日露戦争の最期の決戦である日本海海戦の勝敗を決した要因を日英同盟以外に求めてみたい。


1 日本海軍将兵の技術力と愛国心。

2 ロシア側の旧態然とした「仕官は貴族階級のみ兵は平民から」という組織構造

3 伊集院信管や下瀬火薬などのハイテクノロジー

4 長距離を踏破したあとの艦艇の修復状況

5 アウエーとホームの戦いの違い

6 東郷平八郎を軸にした明確な戦闘指揮体制

7 当日の快晴と波の高さ

8 丁字戦法

9 水雷艇などの小艦艇の活躍


と並べあげればまだまだあるのであるが、この一因に決戦までの最後の寄港地カムラン村の住民によるサボタージュと泥の混入が連ねることが出来るのではないかと考える。


また搭載した石炭を決戦の前に捨てなかった事によってバルチック艦隊の全艦とも重心が上がりすぎていたとの記録がある。あれだけカムランで苦労して甲板上にまで満載した石炭をやすやすと海中に投棄するのをためらったのであろう。


そのために砲撃を受けて過大積載で転覆した艦の数が異常に多く見受けられる。


「敵艦見ユ」の報告に際して日本艦隊の最初の指示が「急ぎ石炭捨て方はじめ!」であったのとあまりにも対照的である。







最後に歴史に「もし」を考える事はタブーではあるが、もし日本がこの海戦に敗れていればその後の日本はどうなっていたであろうか?


バルチック艦隊によって日本海軍が壊滅したと想定すると、当然日本列島周辺の制海権はロシア海軍のものになるので日本からの大陸への補給物資はストップすることになる。


このことは満州で戦っている日本陸軍30万人の孤立を意味する。


そうなると3月の奉天の会戦の大敗北のあとハルビンまで「名誉の退却」を行ったクロパトキン将軍は巻き返しの絶好のチャンスだと捉えて孤立した日本軍を包囲して叩いたであろう。


いや、もし彼が能動的な戦闘をおこさなくとも物資の補給を絶たれた日本軍は枯れるように自然消滅を余儀なくされたであろう。


そして一方、日本列島周辺に敵のいなくなったロシア海軍はその余勢を駆って首都東京や大阪に艦隊を進めていたかもしれない。


そうなると戦艦群の30センチの主砲の照準を首都に合わせられるだけで日本政府はロシアの要求を全て飲まざるをえなかったであろう。


事実ロシア側は日本に勝利したあとの上陸戦を想定していた。


その上陸場所は湾が広く、沿岸砲台の準備されていない駿河湾であった。


その結果1991年のソ連邦の崩壊までおそらく満州、朝鮮、千島列島をふくむ日本全土が現在のバルト3国のような扱いを受けた事は想像に難くない。


日本人の国民生活はすべてにおいて制限されて日本国民はロシア語を標準語にされ、神道、仏教の信仰は弾圧されてロシア正教のみが布教活動を許されたであろう。


もっと悪く考えると白人種のバルト3国と違い、かつてニコライ2世がドイツの皇帝に語った「いまわしい東洋人の殲滅」という言葉を借りれば日本人の生命の存続すらも怪しくなってくる。


当然、日露戦争後の日韓併合もないので同じ東洋人種である朝鮮半島の住民も同じ扱いをうけたであろうことは想像に難くない。


しかしその後の太平戦争は当然起こりえないので広島、長崎、沖縄の悲劇はない。


まさに禍福はあざなわれる縄のようであるが日露戦にもし負けていたとしたらひとつだけ確実に言える事は現在の繁栄した日本の姿を見つける事は100%できないことである。


このことは今の日本人は肝に銘じておくことであろう。




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ベトナムから日本海軍への贈り物 胡志明(ホーチミン) @misumaru

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