雪についた足跡をたどってみたら

PURIN

なくしもの

 一番仲のいい子とケンカした。

 放課後、小学校の教室で。大声で怒鳴りあって。

 いつも一緒に帰ってるのに、今日はわたし一人で2年1組の教室を飛び出して来ちゃった。

「もう会いたくもない!」

 そんな言葉を投げつけて。


 校舎から外に出るドアをひと押しして、ひゃっ、ってなった。

 寒い。学校の中は暖房が効いてるけど、外は寒い。

 風は冷たいし、地面にも雪が積もってるんだった。

 そんなことまで忘れるくらいイライラしてたんだ。

 そう思ったら、外の温度のようにほんのちょっとだけ怒りが冷めた。

 でもほんのちょっとだけだから、やっぱりイライラはしたまま、雪に一歩踏み出した。




 ずんずんずんずん、雪を乱暴に踏み潰して歩いていく。


 頭の中はこんなに熱いのに、頭の外はこんなに寒い。

 いつもはカラフルな町が、見渡す限りの白、白、白。

 白って、寒いのをもっと寒くさせるんだなあ。

 帽子を目深にかぶり、マフラーを鼻のところまで上げて、手袋をつけた手をポケットに入れて、帰り道を歩いてく。




 あんまり寒いから、だんだん頭の中まで熱くなくなってきた。

 ……あんなに怒らなくても良かったな。あの子、泣きそうな顔してたな。

 雪を踏んづける力が弱くなっていく。


 でも、先に変なこと言い出したのはあの子だし、わたしは悪くないし……




 角を曲がったところで、あれっと思った。

 わたしの足より少し小さいくらいの足跡がたくさんある。

 おかしいな。この足跡、ここから急に現れてる。ここまで歩いてきた足跡がないのに……


 不思議に思って、足跡をたどってみることにした。




 ずんずんずんずん歩いていく。

 しばらく歩いていくと、何かが雪の上に落ちていた。

 

 拾い上げてみたら、にこにこ笑った顔が描かれたクヌギのどんぐりだった。

 あ、これって、秋にあの子と一緒にサインペンで顔描いたやつだ。

 公園にいっぱい落ちてたのを2人で拾ったんだよね。大きいどんぐり、小さいどんぐり、細いどんぐり、太いどんぐり、帽子付きのどんぐり。色々なのがあって面白かったなあ。

 1つなくしちゃったと思ってたけど、どうしてこんなところに落ちてたんだろう……




 どんぐりをポケットに入れ、また足跡をたどる。


 ずんずんずんずん歩いていく。

 しばらく歩いていくと、何かが雪の上に落ちていた。


 拾い上げてみたら、白いリボンの付いた麦わら帽子だった。

 あ、これって、夏にあの子と一緒にお出かけした時に風で飛ばされちゃって泣いちゃったやつだ。

 たくさん泣いちゃったけど、あの子はわたしを励ましながらコンビニに連れて行ってくれて、2人でアイスを買って食べたんだった。あの子なりにわたしに少しでも元気になってほしかったんだろうな。

 悲しかったけど、わたしも最後には「ありがとう」って笑って言えたなあ。

 空高くに飛んで行っちゃったのに、どうしてこんなところに落ちてたんだろう……




 麦わら帽子を持ち、また足跡をたどる。


 ずんずんずんずん歩いていく。

 しばらく歩いていくと、何かが雪の上に落ちていた。


 拾い上げてみたら、花柄のかわいい便箋に書かれたお手紙だった。

 あ、これって、春のわたしのお誕生日にあの子がお菓子と一緒にくれたやつだ。

 「おめでとう。これからもよろしくね」って言って、くれたんだ。本当に嬉しくて、「もちろんだよ! 絶対だよ!」って返したなあ。

 なくさないようにおうちの机の奥にしまっておいたら、かえってどこにいったか分かんなくなっちゃって悩んでたのに、どうしてこんなところに落ちてたんだろう……




 気が付いたら、ここまでわたしを導いてくれた足跡は跡形もなく消えていた。

 わたしが今までなくしたものを届けてくれた足跡は。

 ものだけじゃなくて、なくしていたあの子への気持ちも思い出させてくれた足跡は。


 


 あの子もそろそろおうちに帰ってるはず。寒い中一人で帰って、寂しくなかったかな。

 ……謝らなきゃ。手を洗ってうがいしたら、すぐに電話しなきゃ。


 わたしはおうちへの道を駆け出した。

 

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