何故自分は美しくないのか

 ウジェーヌ・イヨネスコというフランスの作家の作った演劇に『犀(さい)』がある。犀とは動物園でもお馴染みの、野生ならアフリカなどにいる角の生えた哺乳類である。演劇の内容はまさに犀なのだが、本作は犀の美女バージョンかもしれない。いや、もちろん、両者には一切関係ないのだが、そして『小恐怖 美人の町』が優れて独創的な一次創作なのは間違いないのだが、ともかく自意識を掘り下げると大なり小なり劣等感に行き着くのは間違いない。『犀』が全体主義を暗喩した自己存在の不安を打ち出しているのに対し、本作は美醜に特化した通俗な価値観とそれにメタ化された一人一人の劣等感を美男美女に無言で語らせている。ミステリーというより純文学で考察したいご作品だった。