終章 その後の死神と氷の花

第32話 事件の顛末

 事件の顛末について話そう。


 詩音があれだけ動いた事件の幕引きは呆気なかった。詩音によってすべての異能力者から異能力を盗むという計画を阻まれた遼は自らの頭を熱線銃で撃ち抜き、自殺した。その後、彼の計画に関係していた者たちが異能力者によって引っ張られた。異能力者に引っ張られた彼らの運命は詩音は知らなかったし、知ろうとも思わなかった。自分たちへの侮辱を許さない異能力者たちのことだから、きっとろくでもない運命を辿ったのだろう。これで、東京のパワーバランスを崩しかねない事件は終わりを告げた。とても深くかかわったような気がするのに、なにが終わる時というのはとても呆気ないな、なんてことを詩音は思った。


「……どうか、しましたか?」


 黒い喪服を着て、叔父の墓参りに来ていた凍花が振り向いて言った。


「別に。ただこの喪服ってのは機能性がよくなくて気持ち悪いなと思っていたんだ」


 自警団トップが街を揺るがす事件の首謀者であり、そして自殺したというのはきっと凍花にとってかなり重い事実であろう。この東京に前世紀的なジャーナリズムなど残っちゃいないが、そのあたりを突かれると、凍花の立場もまずくなるのかもしれない。


 それをわかっていながら、異能力者どもが凍花に手を出してこないのは、きっと、この事件の解決に凍花に対し、借りができたと思っているからなのだろう。もしかすると、詩音の父が他の異能力者たちになにかを言ったのかもしれない。真相は不明だが。


 あんな事件があったというのに、東京は変わらず回っている。暴力と策謀が渦巻く霧の街のまま。そうそう簡単に、街というものなんて変わったりしないのかもしれないが。


「そうですか。では、そろそろ行きましょうか」


 凍花は立ち上がった。


「そうだな」


 両親を失い、そのあと育ててくれた叔父が亡くなって、凍花がなにを考えているのかは詩音にはわからない。持たざる者だった詩音には失うものなんてなかったからだ。


 でも――

 いまなら失う痛みというのがなんなのか、わかる気がする。


「で、これからどうするんだ?」


 隣を歩く凍花に詩音は問いかけた。


「やることはたくさんあります。いまのところ、街を揺るがすような事件はありませんが、わたしの目的はこの街を変えることですから。あなたには、動いてもらいます」


「まだ、のんびりしていたいところなんだけどな」


 詩音はそう言って、しばらく無言のまま歩いていく。


「あなたが、死ななくてよかった」


 不意に凍花がそんなことを言った。


「そりゃ死なねえだろ。死体だし」


 そんなことを言ってみたものの、詩音自身もどうして自分が死ななかったのかはよくわからなかった。自分は、自分の異能力で動いているはずだ。自分の限界を超えて行使して、てっきりこれで終わるかと思っていたのに。


 でもまあ、死ななかったのならそれでいい。詩音が死んでいたら、きっと、隣を歩くこの娘が悲しい顔をしていただろうから。


「あなたは変わりませんね」


「そりゃそうだろ。異能力で動く死体とはいえ、俺だって人間だからな」


「そうですね」


 二人は霧の街を歩いていく。


「ですが、今回のような無理はしないでください」


「それは命令か?」


「はい」


「わかった。善処する」


「ありがとうございます。それでは、帰ったらわたしたちも日常に戻りましょう」

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異界を駆ける死神は普通に暮らしたい あかさや @aksyaksy8870

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