【第7回】第1章 可愛い戦闘侍女が付きました⑤

    * * *


 夕飯ができたそうで、食堂で食事をる事にする。

 食堂には20人ほどが座れる長テーブルに俺の分だけが用意されていた。横に控えられるのは息苦しいし、きんちようで食事がのどを通らない。サリエと給仕の2人がそばで俺の食事をそれとなく見ているのだ。1品食べ終えるころに次の皿をさっと持ってきて温かいものが出される。フランス料理のコースディナーみたいだ。

 食事はどれもとても美味おいしく、初めて食べるものが多かった……異世界料理も悪くない。

 メイン料理だったオークのステーキは絶品だ。あえて表現するなら、ぶた8:牛2を混ぜたような食感と味わいだ。とてもやわらかくて、こちらにいる間にもう一度絶対食べたいと思えるほどだった。オーク自体の肉は安価なものだそうだが、俺の好物の1つなので今日は復活のお祝いにと料理人がうでるってくれたようだ。

 しよみんな俺からすれば、サリエとワイワイ楽しく食べたいのだが、彼女は俺が話しけなければ、おそらくず~っとだまっている。今のところ用がある時以外は話し掛けてくれない……つれないむすめだ。知り合ってまだ数時間なので仕方ないのかな。

 1人でのさびしい食事を終え、部屋にもどろうとするとサリエが声を掛けてきた。

「ん、おの準備もできている。入る時は声を掛けて。ぬるくなる前に早めにお願い」

「ああ、ありがとう」

 日本人なので毎日の入浴は欠かせない。アリア様、こうしやく家にしてくれてありがとう!

 この世界の一般人はめつにお風呂に入れない。公衆浴場は有るのだが、入浴にはお金がかかるのだ。まきかす、魔道具で沸かす、魔法で沸かす。どの手段であっても、それなりの金銭が掛かるのでしょうがない。

 貴族の使用人たちは、主人が入った後に利用できるために、主人が入浴希望をすると凄く喜ばれる。主人が入らない日は、当然使用人たちも入れない。お湯でせいしきするだけだ。

 あまり入るのがおそいと湯が温くなってしまう。はいりよのできる主人なら早く入ってあげ、自分が出る前に張ってある湯の温度を上げておいてあげる。次入る使用人には当然喜ばれる。勿論俺も出る前にちゃんと温め直しているので、使用人たちから好かれている。


 温くなる前にと思い1人で風呂場に向かっていると、サリエに見つかりおこられた。

「ん! 声を掛けてと言っておいた!」

「ごめん、ごめん。どうせお風呂だし、1人で……」

 と言おうとしたところで、あることを思い出した。そういえば、俺は1人でお風呂に入っていなかったのだ。えや体を洗うのも、従者が行っていたのだ。問題は今回しゆうげきを考え、このやかたには極力使用人をおいていないため、サリエが入浴かいじよに入ってこようとしている事だ。

「サリエ、何いつしよに入ろうとしているんだよ!」

 湯着といううすの衣を身につけており、だつ所に入ってきて俺の服をがせようとしているのだ。流石さすがに出会って直ぐの娘といつしよにお風呂はハードルが高い。

「ん、リューク様の入浴中の護衛も有るので私も一緒に入る……」

 凄く恥ずかしそうな声でそう言った。

「今日は1人で入るよ。護衛は脱衣所で待機してくれればいい。それに、その湯着結構薄いし、白い布だかられるとけるよ?」

「……ん、問題ない……」

 問題ないと本人は言っているが、どう見てもうそだ。顔はまえがみで見えないが、長くてとんがった耳が真っ赤になっている。顔も真っ赤になっているのはちがいない。

「でも湯着を着ていたら、サリエ自身の体は洗えないだろ?」

「ん、後で【クリーン】の魔法を使うからだいじよう

【クリーン】はじようの魔法だが、そうせんたく、お風呂の代わりにもなって色々便利な魔法だ。多分すごく恥ずかしいのをまんしているのだろうと思うし、くちなのをがんってしゃべっているのも伝わってくる。ちょっと腹を割って話してみよう。

「サリエはどうしてそこまで俺にくそうとするんだ?」

「ん、拾ってくれたゼノ様に恩返しをしたい。養父や養母も凄く大事に可愛かわいがって育ててくれた。この両親にも恩返ししたい。リューク様にせいいつぱい仕える事が今の私にできる一番の恩返し。何よりリューク様に以前助けてもらったから……受けた恩は絶対返す」

「ん? 以前に俺が助けた? サリエを?」

 サリエの話を聞き思い出した事がある。俺は8年前にサリエに会っていたのだ。

 それはサリエが母をくしてぐの頃、今の養父にしようかいするためにこの公爵家に来ていた事があったのだ。教会からシスターに連れられて、サリエはうちのお屋敷を目指して歩いていた。もう直ぐとうちやくという時にある事件が起こる。

 この公爵家は領内の北に位置し、じようへきの内側にもかかわらず小さな林を所有している。

 貴族が飼っていた犬がげだし、この林で野犬化して腹をかせていたヤツが、外に居た小さいサリエに襲いかかったのだ。その時悲鳴を聞きつけ真っ先にけつけたのが、庭で遊んでいた俺だったのだ。当時まだ7歳だったにも拘らず、ゆうかんにも身をていしてサリエの前に割り込んでかばったのだ。直ぐに門番も駆けつけてきて大事には至らなかったが、俺は腕をまれて少し負傷した。腕の嚙み傷はその場でシスターが回復してくれ、傷が残るような事もなかった。

『……マスター』

『うわっ! びっくりした! 急に声掛けないでくれ……』

 すっかりナビーの事を忘れていた……急に声を掛けられ心臓がバクバクいっている。

『……ナビーの存在自体を忘れていたのですか……ひどい……補足情報です。サリエにとってはその事は忘れられない事件だったようで、身を挺して庇ってくれたリュークに強い恩義を感じたようです。当時の幼いサリエからすれば恩義というより、身を挺して庇ってくれたかっこいい王子様的な存在のようですね』

『ナビー、忘れていてごめん。凄く良い情報ありがとう』

 過去の情報まで引き出せるとは……意外とナビーちゃんは凄いな。

『……サリエは学園のじよ候補の話を聞いて、次は自分がリューク様を守る番だとけんの修業を人の何倍も頑張ったようです』

 だからここまで尽くそうとしてくれるのか……なんていちで可愛いのだろう!

「あの時の女の子がサリエだったんだね。俺も覚えているよ」

「ん! 覚えていてくれてうれしい! だからできることは精一杯頑張る」

「でも、無理にずかしい事はしなくていいよ。俺はゆうしゆうたんさくほう持ちだから、サリエは脱衣所でひかえてくれてればいい。何かあったら直ぐに呼ぶから、その時は助けにきてくれるとありがたい。俺が済めば次はサリエが入るといい。俺はその間、サリエに声が聞こえるはん内で待っているから」

「ん、あるじを入り口で待たす侍女とか聞いたことないのできやつ!」

「俺がいいと言っているのだから、別にいいんじゃない? 入浴しないと衛生的に良くないよ」

「ん、【クリーン】掛ければ浄化できる」

「ちゃんと入った方がいいに決まっているでしょ?」

 俺が入浴した後に無理やり風呂に行かせたのだが、サリエは3分で出てきた。

 どうあっても俺を待たせたくないそうだ。湯船に入ることもせず、頭と体を同時にさっと洗って湯をぶっかけてきただけのようだ。

 何日もこれが続くのも可哀かわいそうだし、どうしたものか。


 入浴後にサリエを部屋に呼びだし明日の予定を伝える。

 その前に気になる事があるので聞いてみる。

「サリエ、いつもお風呂上がりの濡れたかみはどうしているんだ?」

「ん? よくいてこうをつけている。できるだけにおいのないやつ」

 俺のおくに無かったので聞いたのだが、ドライヤー的なものはないようだ……ためしにやってみるか。手から温風が出るイメージをして魔力を込めたら簡単に出せた。風魔法と火魔法の複合魔法だ。うるさいモーター音もなく、実に良い魔法ではないだろうか。

「サリエ、ちょっとおいで」

 に座らせ、この新魔法で髪をかわかしていく。『あるじにこのような事をさせては』とか言っていたが無視だ。サリエのれいなサラサラの髪にれるのは気持ちがいい。何より髪を乾かしてる間は前髪を風でき上げられるので、サリエの可愛い顔が見放題なのだ。

「このまま聞いてほしい。みんなには絶対秘密なんだけど、だれにも言わないと約束できる? 父様にも言ったらダメだよ」

「ん、主人とのしんらいは最重要こう。誰にも言わない」

「俺もさっき見てびっくりしたんだけど、今現在俺の種族レベルが1なんだ」

「ん? 1って?」

「生き返ったことによって、レベル1にリセットされちゃったみたい」

「ん、それってどういう事? 凄くいやな予感がする……」

 俺は【クリスタルプレート】を呼び出して、サリエにも見えるように設定した。

 通常だと第三者には見えない仕様になっているのはお約束だね。

「ん! 見てもいいの?」

「ヤバイから、一応見といて」

【クリスタルプレート】に映し出された俺のステータスをのぞきこんだサリエが固まって、顔を引きらせた。

「ん! やばい……私の小指一本で死にそう……」

「だろ? なので、明日は朝一からレベル上げに行こうと思う」

「ん、外に出るのは危険!」

「いや、むしろ安全だよ。こっそり早朝にけ出せば、どこに行ったかさぐりようがないからね。ここを出る時にこうにだけ気を付ければいい。街中に居るより、森でスライムでも狩っている方が安全だ。ひとのない森で近寄ってくる人間がいれば、間違いなくそいつが犯人だ。広い森の中でぐうぜん人に出会うとかまずないからね」

「ん、なつとく

「俺はレベル1だから、せんとうすべてサリエに任せる事になるけど明日はお願いね」

「ん、リューク様が安全けんに達するまで頑張る」

 髪を乾かしながらの会話だったが、サリエはくしを入れるたびに気持ち良さそうに目を細める。なんだかとても幸せそうな表情なので、見ているこっちも幸せな気分になる。

 サリエは前髪が搔き上げられ、顔が見えているのも気付いていないようだ。

 完全に髪が乾いたのをかくにんしてばくする。

「乾いたよ、サリエの可愛い顔がよく見られたから嬉しいよ。明日も俺に乾かさせてね」

「んみゃー! 顔見られた! はぅ!」

 手で前髪を押さえて顔をかくしているけどもうおくれだっての。可愛いやつめ。

「で、サリエのステータスも見せてくれるか?」

 サリエはいつしゆん迷ったが見せてくれた。自分の情報を見せることはつう絶対しない。スキル構成やレベルなどで弱点がろうえいするからだ。ほどの信用がないとまず見せない。

 サリエのレベルは28もあった。いつぱん人はレベル15前後、街の衛兵で25前後、が35前後が標準値だ。だが、1つ疑問がでてきた。

「サリエ? 騎士隊長のカリナさんに勝ちしているんだよね? 彼女、確かレベル40ぐらいあったと思うけど、どうやって勝ったの? 普通28じゃ勝てないだろ?」

「ん、スキル構成とびんしよう差で勝てた。大事なのは種族レベルより【剣術】や【身体強化】等の熟練レベル。私の剣は軽いからガイアス隊長とアラン隊長には勝てない」

 構成だいでレベル差はある程度くつがえせるのか。でもサリエが努力したのだろうと思う。

「じゃあ、明日は6時に出発ね。今からシェフに言って朝食を5時30分に、お昼の弁当もその時間に用意してもらっておいてくれ。もちろん森に出かける事は上手うまくごまかしてね」

「ん、分かった。たのんでくる」

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