意識高い連中の会話

ケイキー

第1話 志高く

とある大学の中。


「なぁ、俺らって、べつに『意識高い系』じゃあ、ないよな?」

 東上宗次とうがみそうじは、出し抜けにそう言った。


「僕らが『意識高い系』?そんなことあるわけないじゃないか」

 家志京一やしけいいちは、そう言って一笑に伏した。


「そうだよな。俺もそう思うんだよ。よりによって俺らが悪名高き『意識高い系』なわけがないって。でも、さっき廊下で話してるときに女子の声が聞こえたんだよ。俺らのことを話してるらしくてさ、『まったく、あの意識高い系共は』みたいな」


「……どういうことなんだい?

その子は無知蒙昧むちもうまいの輩に違いない。

辞書やネットで『意識高い系』を調べてみるべきだ。

どれだけ悪く言われているか!

悪鬼羅刹あっきらせつ罵詈雑言ばりぞうごんを発しているかの如く、だよ」


「ああ、そうだな。人のことをそんな風に言うなんて許せない。とにかく、周りにそう言われるようになったら、終わりだ。四面楚歌しめんそかだ。これからは行動も、言動も、少し控え目にしよう。

『意識高い系』などと呼ばれぬために」



……そんなことを言い合うふたりは、まだ気づいていなかった。


「悪名高き」、「無知蒙昧」、「悪鬼羅刹」、「罵詈雑言」、「四面楚歌」……。


 一般の大学生がおよそ、日常会話の上では使わない言葉を無意識のうちに使ってしまっている自分たちに。


 これは、そんな大学生の男連中が、『意識高い系』というレッテルと闘いながら、自分たちの好きなように好きなことを喋り続けるひたすら生産性のない物語である。

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