彼と従妹②


「あら、ごきげんよう。見舞いにいらっしてくださったのね」


 彼の家の門をくぐった途端に朗らかな声に迎えられた。

 彼の叔母さんであった。

 ちょうど出かけるところであったようで、僕と龍之介をむかえるためにすぐに下女を呼んでくれた。叔母さんは玄関まで僕らを案内しながらしきりと感心したように目を細めてうなずいた。


「立派になって」


 彼女の視線が照れくさいような、それでいて彼女の視線の先に立っているのが彼ではないことを責められているような気持ちもして僕らが曖昧な顔をして彼女の言葉に頷き返していた。

 ちょうど玄関扉の前に龍之介が立ったとき、ガラリと勢いよく扉が開いて勢いよく小柄な体が飛び出してきた。下女の案内にしては随分と乱暴だと思ってみたら、朱色の鮮やかなリボンを髪につけた少女が驚いた顔をして龍之介を見上げていた。


「こら、なんですはしたない。お兄さんのお友達ですよ」

 彼の叔母さんが間髪を入れずに諭す。どうやら彼女はこの家の娘のようだ。すると、さっき話題に上がった従妹というのは、彼女のことだろう。彼女は驚いた呼吸を整えるように胸を押さえて息を吐くと、ちらりと龍之介をもう一度見上げてから大人びた口調を真似するようにして、


「いらっしゃいませ。兄さんを呼んで参りましょうか?」

 とはにかむように言った。


 その言葉にこたえるように龍之介がふわりと笑った時、取次の下女が現れて僕らはようやくその家に上がった。


 彼の従妹はそっと髪のリボンを整えるようにしてから丁寧に僕らに頭を下げて母親の元へ小走りでかけて行った。彼女の後ろ姿を見送りながら、僕はあの子を前にも見たことがあることを思い出した。時折、朝の電車で出会う女学生たちの中にいたはずだ。

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あの夏。 ふじの @saikei17253

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