黄色の薔薇の花言葉。
タッチャン
黄色の薔薇の花言葉。
なに食べたい?
カナエさんはいつもの綺麗な笑顔で僕に聞く。
僕たちは裸のまま、ベッドの中で互いを見つめ合っていた。
4回もした後なのに彼女は息一つ切らしてない。
情けない事に僕の方は疲れきっていて、彼女の言葉に返事を返す気力すら残っていなかった。
なに食べようか?
悠々としたその姿は、ついさっきまで僕の上に股がり激しく腰を動かし、長い髪を振り乱していた彼女とは別人の様であった。
チャーハン作ろうか?それしか作れないけど。
僕の目を覗きこみ、優しく微笑む彼女をみていると悲しくなる。僕はいつもしている様に下唇を噛んで涙が流れるのを塞き止めていた。
だって彼女は僕の事を想ってなんかいないから。
いつだって彼女は僕の目に映る、悲劇のヒロインを演じている自分を見つめていただけだから。
ちょっと待っててね。作ってくるから。
ベッドからするりと抜け出そうとする彼女を抱き締める。僕の事を見捨てないでと心の中で叫びながら。
…また元気になっちゃったの?もう一回する?
彼女とこうやって抱き合えるのはこれが最後だと、
僕にはわかっていた。
だから僕は彼女を押し倒し、壊れてしまえと思いながら彼女を激しく抱いた。
これが最後だから。
何事も無かったかの様に服を着る彼女を見ていた。
その後ろ姿はとても綺麗で愛らしくて、とても醜い。
服、早く着なよ。旦那が帰って来ちゃう。
何でこんな人を好きになったんだろう。
何であの男はカナエさん以外の女を抱くのだろう。
何で彼女は別れないんだろう。
僕の方がカナエさんの事を心から……
初めて彼女と会った日から何度も何度も自分に問いかけても、答えは出てこない。
彼女に直接聞く勇気なんてありはしない。
僕はベッドから立ち上り、身支度を済ませて、彼女に見送られながらドアを開ける。
バイバイ…
小さな声で彼女は言った。
僕は聞こえていないフリをしてドアを閉めた。
次の日、僕は客から依頼され、花束を組んでいた。
花束を作り終えて若い女性客に手渡すと、すごく綺麗です、と素敵な感想をもらった。
お礼の言葉を返すと、客はこのお花の花言葉って何ですか?と花束の中にあるトルコキキョウを指差して聞いてきた。
僕は、清清しい美しさですと答える。
このやり取りをするとカナエさんと初めて会った日を思い出す。
2ヵ月前、客で来店した彼女はしつこく何度も花を指差しては花言葉を聞いてきた。
あの花は何ていうの?ねぇあの花は?こっちのは?
僕は丁寧に、一つ一つ答えていった。
他愛のない会話も沢山した。時々、彼女の笑い声が店の中で小さく響いていた。
この後、僕は彼女に一目惚れしたと思う。
彼女は僕の方に振り返って突然泣き出したのだ。
旦那が浮気をしているとか、友達は子供も産まれて幸せそうなのに何で私のお腹は大きくならないのとか、何で私ばっかり酷い目に合うのとか…
初対面の僕に愚痴と不安を吐き出した。
気づいたら僕は彼女を抱き締めていた。
僕たちの関係が始まったのはその日からだった。
そして彼女達が2階建てのアパートの僕の上の階に引っ越して来ていた事を知ったのもその日だった。
彼女と会う度に、安心感と旦那にばれるのではないかという緊張感と恐怖感が僕の心を支配していた。
でも僕は彼女の誘惑に抗えなかった。
僕は彼女を抱く度に彼女に嵌まっていった。
それからしばらくして、彼女は笑いながらは言った。
やられたらやり返さなきゃ、ね。
私だって他の男と寝るくらいの事出来るのよ。
それを聞いた時、僕は思ってしまった。
誰でも良かったんだなと。
僕じゃ無くても良かったんだなと。
彼女の瞳に僕が映らない理由が分かったのだ。
すみません、と声をかけられハッと我に帰る。
客は花束の代金を置いて足早に出ていった。
僕はため息をついた後、新しい花束を作り始めた。
仕事から帰るとアパートの前に引っ越し屋のトラックが止まっていて、2階から様々な荷物が運び込まれて行く。
カナエさんは上からその様子を見ていた。
作業員が二人掛りでベッドを運び出していた。
そのベッド捨てちゃって下さい。
彼女は笑いながら言った後、僕の存在に気づいて小さく手を振った。
2階から降りて来た彼女に花束を渡して、
旦那さんに渡して下さいと言って僕は自分の部屋に入り、ベットにそのまま寝転んだ。
花束を渡した時の彼女はその花束を見て、微笑えんでいた。
僕は目を閉じて妄想する。
彼女は言われた通り旦那に渡す。
あの男は花束を見て驚く。そして言う。
俺に?誰からだよ。要らねえな。
何で黄色の薔薇だけなんだ?これ。
何だか気味がわりいな。と。
彼女は微笑して言う。
知ってる?
黄色の薔薇の花言葉はね、「嫉妬」なんだよ。と。
黄色の薔薇の花言葉。 タッチャン @djp753
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