泡沫トライアングル

@A_Shirayuki

Side:R①

例えば、トランプタワー。あ、トランプで作る方のやつね。土台から時間をかけて完成した綺麗な三角形のタワー。・・でもね、常に緊張状態にあるこれは、何か些細なもの、そうだな・・息を吹きかけただけであっという間に壊れる。

まさに今の私達を表してる。


ー「チャララ〜チャラ〜・・♩」

もぞもぞとベッドに置いたスマートフォンに手を伸ばす。毎朝聴き慣れているアラーム音だ。何の曲かは知らない。


「・・・起きるか。」


一言呟いて、うーんと背を伸ばす。窓からは真夏の日差しが眩しいくらいに射し込んでいる。今日も真夏日らしい天気だ。外に出たくない気持ちになるが、時計を見ると15分も寝坊している。


遅刻していこうかなー・・なんてふと思ったが、今日が日直だということを思い出す。


「行くしかないか・・」


と、ようやくベッドから出て身支度をする。朝食は・・面倒だからいいや。いつもはカフェラテだけで済ますが、用意している暇もない。購買で買えばいいか、と靴を履きそのまま玄関を出る。


そこにはいつもの光景が広がる。


玄関前に2人の男子。よく知っている顔だ。

向かいの家に住む《篠宮梓(しのみや あずさ)》と右隣の家に住む《美咲秋(みさき しゅう)》だ。

この2人は幼稚園から、私は途中からここに来たので、小学生からの顔見知り・・というか、これを幼馴染と言うらしい。互いに同年齢ということもあり、中学3年の今までほとんど毎日一緒に登校している。


「遅い!」


と、梓が一言。


「別に約束なんてしてないし。」と低血圧もあり、少しイラッとしたがどうでもいい感じの声色で返す。


「ほら、別に先に行ってもよかったじゃん。」と、アキが言う。


『アキ』と呼ぶのは梓と私だけだ。きっかけは小学生の時、私が初めてアキの名札の漢字を見て「『シュウ』よりと『アキ』の方がかわいい。」と言ったことだった。何故かわいいと思ったのかは覚えていないが、多分見た目が色白で色素が薄く女の子みたいなイメージが浮かんだのだと思う。私がアキと呼び始めてから梓も「オレたちだけのよびかただ!」なんて便乗して以来、アキと呼んでいる。アキは「シュウだ!」って初めは抵抗していたが、今となっては諦めたのかアキが定着している。


そんなことを思い出しているうちに、「ん。」とアキが私に差し出す。購買で買おうとしていたマウントレー○アのカフェラテだ。

「何これ。」と受け取り、アキは、は?という顔をしながら「カフェラテだろ。姉貴がこれにハマってて冷蔵庫に買い溜めしてるからやる。」とぶっきらぼうに続けて「お前いつも朝飯代わりだって飲んでるだろ。」と付け足した。


私は内心すごく嬉しかった。カフェラテが、というよりアキが覚えてくれていたからだ。


ーだって、私はアキが好きだ。


これといったキッカケはなかったと思う。気づいたら好きになっていた・・自覚したのは中1頃からだ。顔を見ると嬉しくなる、ドキドキする・・ありきたりな表現しか浮かばないが、梓といても感じない気持ちだ。


「アキ、俺にはねぇの?リリばっかりずりーよー。」と梓がアキの肩に腕を回しながら拗ねた声で私の回想を遮る。

「梓、こういうの飲まないだろ。」と発するアキの声は冷めているが、本人は気づいてないだろう。表情はすごく柔らかいことを。


そりゃそうだよね。だってアキは・・


ー梓のことが好きなんだもん。


アキは普段から感情が顔に出ないタイプだ。周りとも一線を引いているところがあり、逆にそこがクールとか、近寄り難いミステリアス男子だとかでモテている。見た目も色白な肌に、薄茶色の瞳、少し長めの柔らかそうな明るい髪で綺麗目な感じの世に言うTHEイケメンらしい。


まあ、そんな表情が読めないアキも長年一緒にいれば、何となくわかる。結構、喜怒哀楽が出てているんだけどなー・・梓もそれはわかってるだろう。

でも、アキの気持ちには気づいてないと思う・・この単細胞男は。


梓をざっくり説明すると、裏表のない誰とでも仲良くなるようなアキとは正反対なタイプだ。長身で黒髪短髪、健康的な肌色に大きい黒目、笑顔が爽やかでコイツも女子から人気があるらしい。

通う中高一貫の私立S校では2人の王子様〜なんて呼ばれている。(漫画の世界かよ・・と内心いつもつっこむのも飽きた)


ーそして、梓は私のことが好きだ。

実際に言われたことはないが、コイツの態度や表情で分かる。それにはアキも気づいている。人の気持ちとか内情に察しのいい奴だから。

だからこそ、自分が梓のことを好きだということを私が察していることも気づいているだろう。私がアキを好きなことも・・


そんな互いの気持ちが交錯していることを、梓は気づいていない(と、思う。深読みできないし、しない奴だから)。

でも、梓は自分の想いを決して私へ伝えることはしないだろう。

何故なら、梓がこの中で1番この関係を崩したくないと思っているからだ。


アキが梓を好きって、ゲイなの?とかそんなのはどうでもいい。好きになったのが梓だっただけで、それが男とだったというだけだ。身近に男女しか性別がないのだからしょうがない。まあ、誰しもがこんな考え方じゃないから「同性愛」というくくりで、周りからの目が厳しいのが現実だ。


アキは梓に想いを伝えはしないだろう。でも、このままではいつか・・そして、私のことをどう思っているだろう。心の中では邪魔な存在だと感じている?


私はきっとこの先、新しく恋が出来ると思う。でも、アキは?梓以外の人を好きになれるのだろうか・・だからね、梓が壊したくないと守っている均衡を崩してもいい。2人の前から消えてアキを忘れてもいい、忘れさせてよ。


3人ずっと一緒なんて夢物語だ。


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