泡沫トライアングル

@A_Shirayuki

Side:L ①

例えば、トランプタワー。あ、トランプで作る方のやつね。土台から時間をかけて完成した綺麗な三角形のタワー。・・でもね、常に緊張状態にあるこれは、何か些細なもの、そうだな・・息を吹きかけただけであっという間に壊れる。

まさに今の私達を表してる。


ー「ピンポーン」

ー「ピンポーン」

・・・

ー「ピンポーン」


家のインターホンが何度も鳴っている。


「うるさいな・・」


もぞもぞとベッドから起き上がる。


「・・・起きるか。」


一言呟いて、うーんと背を伸ばす。窓からは真夏の日差しが眩しいくらいに射し込んでいる。今日も真夏日らしい天気だ。外に出たくない気持ちになるが、時計を見ると15分も寝坊している。


ー「ピンポーン」


まだインターホンが鳴っている。

鳴らしている奴は大抵予想がつく。


「なんなの・・」


と、ようやくベッドから出て玄関に向かう。

玄関のドアを開けると、そこにはいつもの光景が広がる。


玄関前に2人の男子。よく知っている顔だ。

右隣の家に住む《高槻 蓮(たかつき れん)》とさらに右隣の家に住む《五十嵐 理斗(いがらし りひと)》だ。

家と言っても、ここはタワーマンションの最上階。このフロアには3つの部屋しかない。

この2人とは幼稚園からの腐れ縁・・これを幼馴染と言うらしい。互いに同年齢ということもあり、高校でもほとんど毎日一緒に登校している・・が、なぜ2人が制服姿なのかわからない。


「遅い!」


と、理斗が一言。


「は?約束なんかしてないし。」と低血圧もあり、少しイラッとしたがどうでもいい感じの声色で返す。


「今日から新学期だろ?」と理斗が言う。

「あれ、そうだっけ?」

「ほら、別に先に行ってもよかったじゃん。」と、スイが言う。


『スイ』とは碧のことだ。この呼び名で呼ぶのは理斗と私だけだ。きっかけはスイに初めて会った時、私が「『アオ』よりと『スイ』の方がスイっぽい。」と言ったことだった。スイっぽい、が今となってはわからないが、多分ミドルネームの「スイ」とメインの「蓮」で睡蓮のイメージが浮かんだのだと思う。スイの金髪、碧眼が綺麗なものに思えた。私がスイと呼び始めてから理斗も「オレたちだけのよびかただ!」なんて便乗して以来、スイと呼んでいる。スイは「蓮だ!」って初めは抵抗していたが、今となっては諦めたのかスイが定着している。


そんなことを思い出しているうちに、 

「お前、今遅刻してもいいと思っただろ?」とスイの一言で現実に戻る。

「別にいいじゃん・・遅刻するのは私だけだし。」

「は?今日の日直、俺とお前なんだけど。」スイの声が冷ややかに聞こえる。

「わかった。支度するから家上がってて。」


すると、スイは家に入らず自分の家に戻って行く。

「スイどうかしたか?」理斗が話しかけるが「ルカの支度が終わる頃に戻るわ。」とそのままいってしまった。


ささっと身支度をし、朝食は・・面倒だからいいや。いつもはカフェラテだけで済ますが、用意している暇もない。購買で買えばいいか、と靴を履きそのまま玄関を出る。


理斗が「朝飯は?」と聞くが、「そんな時間ない。」と答え家から出る。

すると、スイがちょうど戻って来た。

「ん。」とスイが私に差し出す。購買で買おうとしていたマウントレー○アのカフェラテだ。

「何これ。」と受け取り、スイは、は?という顔をしながら「カフェラテだろ。姉貴がこれにハマってて冷蔵庫に買い溜めしてるからやる。」とぶっきらぼうに続けて「お前いつも朝飯代わりだって飲んでるだろ。」と付け足した。


私は内心すごく嬉しかった。カフェラテが、というよりスイが覚えてくれていたからだ。


ーだって、私はスイが好きだ。


これといったキッカケはなかったと思う。気づいたら好きになっていた・・自覚したのは中1頃からだ。顔を見ると嬉しくなる、ドキドキする・・ありきたりな表現しか浮かばないが、理斗といても感じない気持ちだ。


「スイ、俺にはねぇの?ルカばっかりずりーよー。」と理斗がスイの肩に腕を回しながら拗ねた声で私の回想を遮る。

「理斗、こういうの飲まないだろ。」と発するスイの声は冷めているが、本人は気づいてないだろう。表情はすごく柔らかいことを。


そりゃそうだよね。だってスイは・・


ー理斗のことが好きなんだもん。


スイは普段から感情が顔に出ないタイプだ。周りとも一線を引いているところがあり、逆にそこがクールとか、近寄り難いミステリアス男子だとかでモテている。見た目も色白な肌に、碧の瞳、マッシュヘアに柔らかそうな明るい金髪で世に言うTHEイケメンらしい。


まあ、そんな表情が読めないスイも長年一緒にいれば、何となくわかる。結構、喜怒哀楽が出てているんだけどなー・・理斗もそれはわかってるだろう。

でも、スイの気持ちには気づいてないと思う・・この単細胞男は。


理斗をざっくり説明すると、裏表のない誰とでも仲良くなるようなスイとは正反対なタイプだ。長身で黒髪短髪、健康的な肌色に金色の瞳、笑顔が爽やかでコイツも女子から人気があるらしい。

通う中高一貫の私立S校では2人の王子様〜なんて呼ばれている。(漫画の世界かよ・・と内心いつもつっこむのも飽きた)


ーそして、理斗は私のことが好きだ。

実際に言われたことはないが、コイツの態度や表情で分かる。それにはスイも気づいている。人の気持ちとか内情に察しのいい奴だから。

だからこそ、自分が理斗のことを好きだということを私が察していることも気づいているだろう。私がスイを好きなことも・・


そんな互いの気持ちが交錯していることを、理斗は気づいていない(と、思う。深読みできないし、しない奴だから)。

でも、理斗は自分の想いを決して私へ伝えることはしないだろう。

何故なら、理斗がこの中で1番この関係を崩したくないと思っているからだ。


スイが理斗を好きって、ゲイなの?とかそんなのはどうでもいい。好きになったのが理斗だっただけで、それが男とだったというだけだ。身近に男女しか性別がないのだからしょうがない。まあ、誰しもがこんな考え方じゃないから「同性愛」というくくりで、周りからの目が厳しいのが現実だ。


スイは理斗に想いを伝えはしないだろう。でも、このままではいつか・・そして、私のことをどう思っているだろう。心の中では邪魔な存在だと感じている?


私はきっとこの先、新しく恋が出来ると思う。でも、スイは?理斗以外の人を好きになれるのだろうか・・だからね、理斗が壊したくないと守っている均衡を崩してもいい。2人の前から消えてスイを忘れてもいい、忘れさせてよ。


3人ずっと一緒なんて夢物語だ。


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