第7話 大会は意外と腑に落ちない終わり方をする

「結局、ルデアくんは準決勝敗退ね」

「すまん……」

驚くほどあっさりリリスに敗北したルデアには、返す言葉もなかった。

「まあ、いいわ。あなたとの直接対決はまた今度のお楽しみってことで」

セイラはそう言うと、ルデアの隣に立つリリスへと視線を移した。

「最後の相手があなたね」

「こうやってお話するのは初めてですね、セイラさん」

「えぇ、ルデアくんに勝ったというからどれほどのものかと思えば、そんな細い手足。どこにそんな力が?」

「秘められた力、ってやつですかね?ふふっ」

「ふふふふ……」

なんだか、二人の会話が怖い。

そう感じたルデアは、自然と一歩、後ずさる。

セイラはともかく、リリスがここまでこの大会に本気になるとは……。

実はリリス、負けず嫌いなのだろうか。

ルデアは今、姉の意外な一面を知ってしまった気分だ。

「なんだか、嫌な予感がするなぁ……」

そう呟いた声を聞いた者はいなかったという。



「さて、ついに始まった決勝戦!屈強な男も多い中、最後に勝ち残った2人はなんと!両者ともに可憐な女性!」

司会がマイクに向かってそう告げると、湧き上がる歓声の中、リリスとセイラが舞台に上がった。

「まあ、可憐だなんてそんな///」

照れた仕草を見せるリリスに、さらに歓声が。

「褒め言葉としてはまだまだね」

ツンツンとしたセイラにもさらに歓声。

まるでアイドルのコンサートにいる気分だ。

行ったことないけど。

「ルデア〜!お姉ちゃん、絶対勝つからねぇ!」

リリスがそう叫ぶと、会場にいる全員の視線がルデアに集まる。

「や、やめてくれ……」

我が姉が自分より強い事実は我慢できたとして、それを周囲に認知される恥ずかしさには耐えられない。

「穴があったら入りたいとはこの事か……」

ルデアは恥ずかしさのあまり、その場にうずくまった。

それが最大限にできる現実逃避だったから。

「うぉっ!?」

その後、しばらくの間彼が姿を消していたことを知る者は、おそらく彼以外に一人しかいない。


「な、なんだ……?」

ルデアは気がつくと、深い穴のそこにいた。

上を見上げると、はるか遠くに光が見える。

「穴があったら入りたいと仰りましたよね?」

「本当に入るやつがいるか……って、お前……」

「はい、私です。また会いましたね」

「会わされたの間違いだろ」

ルデアが顔を上げると、そこにはユンアがいた。

「なんでお前がここに?という顔をされていますね?答えは私がストーカーだからでーす」

「すんなり自白しやがった……」

「愛があってこそのストーカーですから」

どこか誇らしげな彼女の顔に少しイラッとするが、そこは堪えてルデアは彼女に訪ねる。

「で?早く元に戻してくれよ」

「その前に、ひとつお願いを聞いて貰えませんか?」

「お願い?」

「ええ、この穴をもう少し掘ると、洞窟に入ることが出来るのです。その奥に宝箱があるのですが、その中にあるアイテムがとても高価だとか」

「それを手伝ってもらいたいと?」

ユンアは頷く。

「でも、それを手伝って俺になんの得があるんだ?」

ルデアがそう聞くと、ユンアは少し考え込んでから言った。

「そうですね、私の体で支払いましょう。ルデアさんが満足するまで」

そう言いながら、ユンアは胸元のリボンを解く。

「ば、ばかのこと言うなって!」

「という冗談は置いといて、道中で手に入ったお金やアイテムは差し上げます。私の目的は宝箱の中身だけなので」

「まあ、それならいいか」

「ありがとうございます」

ユンアは丁寧にお辞儀をする。

そして、足元の土に向かって唱えた。

「『地盤破壊グランド・ブレイク』!」

すると、足元がグラグラと揺れ、ルデアたちもろとも、そのまま崩れるように落ちた。



「いってぇ……もっと穏便なやり方はなかったのかよ」

「安全より手っ取り早さを求める主義なので」

顔を上げると、薄暗い洞窟の中だった。

どこからか水の流れる音が聞こえるが、それ以外には何も聞こえない。

「街の下にこんな空間があるのか」

「ええ、私の探査能力でぱぱっと見つけちゃいました!」

「あの光ってる石はなんだ?」

「これですか?」

ユンアはルデアの指さした方にある、青白い光を放つ石に、しゃがんで手のひらを乗せた。

すると、石から何かが伸びてきて、それが地面に着いたと同時にゆっくりと前に進み始めた。

こんな生物を村で見た事があった気がする。

「カメか?」

「カメというモンスターは見たことはありませんが、このモンスターは鉱石を甲羅として身につけたカメの一種です。その甲羅はとても固くて、普通の剣ではそっちが折れてしまうくらいに」

「そんなに硬いのか。倒せばいい武器が作れそうだが……」

「やめた方がいいと思いますよ?」

「なんでだ?」

「このカメ、普段は大人しくて可愛らしいですが、刺激すると、急に怒り出して仲間全員で敵討ちしてきますからね。彼らはされたことはやり返す主義みたいです」

周りを見てみると、同じような鉱石が至る所にある。

ルデアの背筋に寒気が走る。

「ですが、逆に、いいことをしてあげると、恩返しをしてくれることもあるそうです。撫でたりすると喜ぶので、見かけた際はしてみて損は無いんじゃないですか?」

「そ、そうだな……」

だが、何かの間違いで刺激してしまった時が怖い。

なるべく鉱石には近づかないでおこう。

そう決めたルデアだった。


「ここから入り組んだ道になりますね。迷わないように着いてきてくださいね!」

「お、おう。なるべくゆっくり行ってくれ」

(俺は自慢じゃないが、迷路のゲームが苦手だ。自分が入って脱出するなんてなおさらだ。)

そう心の中で呟いていると、立ち止まったユンアに気づかずにぶつかってしまう。

「あ、ごめん……って、どうした?」

「ルデアさん、見てください!」

ユンアが見つめる視線の先には、開けた空間の中に、一つだけある大きな鉱石。

「こんなの初めて見ました」

鉱石のカメを見ても驚かなかったほどのユンアが、10数メートルはあるであろう、大きな鉱石の前ではしゃいでいる。

ルデアはその姿を見て、村に残してきてしまった幼馴染を思い出していた。

「そう言えば、あいつもやたらと色んなことではしゃいでたな……」

少ししみじみ思いながらも、ルデアも目の前の鉱石に近づく。

だが、ルデアは違和感に気づいて足を止める。

「なあ、ユンア」

「なんですか?」

「この鉱石、やたらとら傷ついてないか?」

少し離れてみて見ればわかるほどの小さな傷、だが、綺麗な鉱石だからこそ、その無数の小さな傷がかなり目立って見える。

「言われてみればそうですね……。あれ?この鉱石、なんか動いてません?」

「え?おい、まじかよ……」

2人が1歩後ずさるのと同時に、鉱石が大きく揺れ、初めに見た鉱石ガメと同じように、鉱石から手足が生えてきた。

「こ、これ、鉱石じゃなくて、大きな鉱石ガメだったんですね!あ!」

ユンアは鉱石ガメの足元を指さして叫ぶ。

「ルデアさん!宝箱がありますよ!」

そう言って駆け寄ろうとするユンアの首元をルデアが掴む。

「まて!このカメ、なんか怒ってないか?」

大きな鉱石ガメは、大きな声で鳴きながら足踏みをしたり、首を振ったりしている。

「もしかして、怒ってるんじゃ……」

「私たちが宝箱を狙ってきたから?」

ユンアのその問いに、ルデアはゆっくりと首を横に振る。

「違う、きっとあれのせいだ」

ルデアが指さしたのは、カメの足元、宝箱があるのとは反対側の足だ。

そこに、大きな石の棘が刺さっていた。

「きっと、あれが突然刺さって、何が起こったか理解出来ずに混乱してるんだ。早くあれを抜いてやらないと、この洞窟ごと壊しかねないぞ」

「なら、私が行きます!」

「ちょ、待てよ!危ないだろ!」

ルデアの腕を振り払って駆け出したユンアは、振り向きざまにこういった。

「私の事、侮らないでください!」

ユンアはカメが激しく足踏みすることによって起こる石の雨を交わし、地割れを飛び越えて足の間をくぐり抜けて棘の位置まで素早く駆け寄る。

「痛かったでしょ?もう大丈夫ですよ」

ユンアはそう言って大きな棘を抜いた。

その瞬間、カメは暴れるのをやめ、ユンアのことを見つめる。

そして首を伸ばして、ユンアの足元におろす。

「乗れ、ってことですか?」

ユンアのその声に、鉱石ガメは嬉しそうな鳴き声をあげる。

ユンアは跳ねるようにその首に跨り、ルデアを見て手を振る。

「ルデアさーん!ルデアさんも乗りましょうよ!」

その声を理解したかのように、鉱石ガメはルデアを口にくわえて、放り投げるように背中にのせた。

「い、痛てぇ……」

カメの背中は鉱石の甲羅だ。

それなりの強さでぶつけてしまった肘と膝が痛い。

そんなルデアを気にもせず、鉱石ガメは足元にあった宝箱をくわえて、上に向かってジャンプした。

「えぇ!?」

上はもちろん石の天井、洞窟なのだから当たり前だ。

だが、そこに向かってジャンプしたカメは天井にぶつかる……わけではなく、ものすごいスピードで石を掘り砕き始めた。

それはもうドリルのように首を使って。

「この鉱石ガメ、凄いですね!石も砕けるなんて!」

「まって、俺の腕の骨が砕けそうなんだけど!」

首にしっかりつかまっているユンアはいいとして、ツルツルと滑る鉱石に捕まっているルデアはもう必死である。

地上に着く頃には、彼の腕は悲鳴をあげていた。


「鉱石ガメさん、ありがとうございました!わざわざ地上まで送ってくれるなんて」

ユンアが丁寧にお礼をすると、鉱石ガメは、その前に宝箱を差し出してきた。

「これ、開けていいんですか?」

鉱石ガメが高い声で鳴くのを聞いて、ユンアは宝箱を開いた。

「笛、ですか?」

中に入っていたのは小さな笛。

ホイッスルと言った方が正しいだろう。

首にぶら下げれるように、紐までついている。

「吹いてみますね」

ユンアがそこに息を吹き込むと、ピィーー!という音が辺りに響いた。

音色は普通のホイッスルと変わらないように聞こえる。

だが、その直後、地面が軽く揺れると同時に、数匹の鉱石ガメが地面から姿を現した。

「吹くと鉱石ガメが来てくれる笛ですね!とっても嬉しいです!ありがとうございます!」

そう言ってユンアが頭を撫でてやると、鉱石ガメは嬉しそうに鳴いて、その後、跡形もなく地下に帰っていった。

「その笛、カメを呼べるのはいいが、何に使えるんだ?」

「きっとこうですよ」

ユンアはそう言うと、目の前にある大きな石の方を向いて笛を吹く。

現れたカメたちに向かって右腕を差し出すと、カメ達は察したように彼女の腕に張り付いた。

まるで、鉱石の腕のように。

「これで……こうです!」

ユンアが助走をつけて岩にパンチすると、岩は粉々に砕け散った。

鉱石ガメの方は全くの無傷だ。

もちろん、ユンアの腕も。

目の前で起こった出来事に、ルデアは口が閉まらなくないほど驚いていた。

「鉱石ガメ、恐ろしい……」

こうしてユンアは、鉱石パンチを覚えたのだった。


ルデア達が会場に戻ると、既に大会は終わっていた。

「もお、ルデア!何してたの!お姉ちゃんの活躍をちゃんと見て欲しかったのに!」

ルデアはほっぺを膨らませながら、怒りながら詰め寄ってくるリリスを食い止める。

「まあ、試合は引き分けに終わったがな」

セイラが言うに、試合があまりに白熱しすぎて、会場ごと吹き飛んでしまったらしい。

なので商品も名誉も、2人で半分こになったそうだ。

「お姉ちゃん、このカメラっていうのがすごく欲しかったの!これでルデアの寝顔もちゃんと記録できるし!」

「させねぇよ?!」

ブラコンすぎる姉にも困ったものである。

少し談笑して大会の余韻を冷ましてから宿屋に戻る。

思ったよりも体は疲れていたようで、ドールに1日宿泊を延長してもらうことにして、リリスもルデアも、倒れるようにベッドに眠った。

ドールはもう一日一緒に寝れることを喜んで、遠慮なくルデアの腹を枕にして眠った。


次の日の朝。

「では、もう次の街に行くんですね」

「ああ、世話になったな」

「では、ルデアさん。これを差し上げます。何かあった時は、その中身を手にして、来い!と叫んでください」

そう言ってドールがわたしてくれた袋を大事にしまって、ルデアとリリスは宿屋を後にした。



「ま、待って!」

少し歩いたところで後ろから呼び止められた。

振り返ると、かなり急いで走ったのだろう、息を切らしたセイラの姿があった。

「セイラ、どうしたんだ?」

「私を、2人の旅に連れて行って欲しい。ルデア、あなたの冒険を助けたいの」

真剣な眼差しのセイラ、断る理由はない。

「ああ、いい……っておい!」

いいぞと言おうとしたルデアの口を遮ってリリスがセイラをじっと見つめる。

「セイラさん、旅についてくるのはいいですが……、私とルデアとのイチャラブ生活を邪魔するのだけはダメですからね!」

説教のように人差し指をびしっと突きつけて、大きな声で言い放つリリス。

「イチャラブってなんだよ?!」

「あら、いつもしてるじゃない、ルデアとイチャイチャ……」

「そんなことしてる記憶ねぇ……。てか、誤解される言い方するなよ!」

弁解するルデアに混じって、顔を赤くしたセイラもリリスに向かって言う。

「じゃ、邪魔なんて……し、しないわよ!た、多分……」

「なんで多分なんだよ!」


らしくもなくモジモジしているセイラを連れて、彼らは街を出た。

彼らが次に向かう街はパウロス。

一体どんな出会いが待っているのかを知る者はまだいない。

次回、『スライムの姉、求婚される』をお楽しみに!

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スライム(姉)が強すぎて俺の出る幕がない件 プル・メープル @PURUMEPURU

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