このお話の閉塞的で圧迫されながらも水を掻くように抗い押しのけながら進む、息苦しさと心地良い冷たさのあるこの空気感は、このお話に含まれる感情の虚ろと重さは、百合という枠組みに囚われず、好きな人は好きな空気だと思います。
事実私がそうなので。
それを綴る文章も、鼻の奥をすんと突く雨の匂いのような、感覚器の奥底を軽くひっかくような心地よい刺激を感じる美しく繊細で緻密なもので、内容としてやや難解で硬めなところはありますが、口に放り込んだ砂糖菓子のように、ほろほろと崩れてほどけて、ざらざらとした余韻を残していく、個人的にはとてもとても好ましい爪痕を残す文章だと思います。
2章の9まで読んだ所感として、きっと、心臓痕硝子という少女は、人の欠けを映す鏡面だと思うのです。
心臓痕硝子という少女は完璧へ至るための一欠けでありながら、完璧を損なう不純物だと思うのです。
生きていた時からそうであり、そしてその実体が喪われたが故に、誰もそれが鏡でしかないと正しく認識することができなくなってしまった。
それを虚ろな鏡像でしかないと指摘しながら、破片である呪いを集めて組み上げたその時に、契約を成し遂げるために、彼女は何をするのか。
それが待ち遠しくも恐ろしいです。
心臓痕硝子は完成された美少女だった。繊細な作り物のように見るものの目を奪うミステリアスな少女はしかし、一年前に突然亡くなってしまう。学校の屋上から飛び降りたとされる彼女。その亡霊がいつしか学校にオカルティックな儀式と結び付いた。「降霊会」で彼女の霊を呼び出すあそび……彼女の「呪い」が学校を支配していく。
心臓痕硝子という、強烈な個性を放つ存在が楔のように打たれた物語です。彼女は死んでいるはずなのに、「呪い」によって未だに畏怖され噂となり、生き続けている。硝子を視ることができるいたみとのやり取り、謎を掛け合わせることで深みが増していく関係性、そのどれもが魅惑的な世界観を見事に表現しています。どんな形であれ、心臓痕硝子という存在に心をとらわれていく。そんな人間たちが回していく物語から目が離せません。